第9話 ゴブリン討伐
翌朝、俺はターヤルからケット村までの馬車4時間の道を進み、ゴブリンがいる森の中を進んでいた。
かなり早く着いてしまったな。
現在の時刻は午前10時頃か。
昨日、魔法の練習以外に、時間を確認できる魔道具と戦闘用の短剣を買った。
魔道具の方だが、これは元の世界と時間の見方はさして変わらなかった。
ただ少し違うのは、真っ白な女神と真っ黒な女神が、時計に半々で描かれているくらいだ。
恐らく白色の女神が午前、黒色の女神が午後を示しているのだろう。
そして短剣だが、これは耐久性を重視した物を買った。
切れ味はそこそこだが切るのではなく、刺す、叩く、往なすの三種類の使い方を基本戦術として戦う為だ。
下手に切りに行くよりも、堅実に相手にダメージを負わせて動きを鈍らせるやり方が、デバッファーである俺に向いていると思ったからだ。
そろそろゴブリンの発見された場所に着くが、全く気配が感じられないな。
居場所を変えたのか?
発見された場所に着く。
ここか、やはりいないな。
「ん?」
これは、子供サイズの足跡。
ゴブリンの痕跡で間違いない。
辺りを確認する。
ふむ、足跡の数も五体分あるな。
道はここから1km程ある。
足跡は川の方向へと続いている。
ゴブリン達は水を飲みに移動しているようだな。
痕跡もまだ新しい。
これなら先回りして罠を仕掛けられるかもしれない。
ゴブリンの足跡を辿る。
音をなるべく立てないように、枝を避けて走る。
↓↓↓
いた! ゴブリン五体、丁度いるな。
予想通り、水を飲みに来ていたようだ。
まだ川まではゴブリンの足の速さだと、最低でも20分は掛かるだろう。
気づかれないよう、遠回りして走ればまだ間に合うはずだ。
ゴブリンとは違う道を通り、先回りする。
↓↓↓
ふう、着いた。
かなり急いで来たからな。
ゴブリンが川辺に来るまで、あと10分はあるだろう。
早速、罠を仕掛けるか。
とは言え、10分では凝った罠など作れない。
仕方ない、MPは勿体ないが魔法を使って作るとしよう。
昨日の練習で、俺は2つの技を習得した。
その2つを使い即席の罠を仕掛ける。
1つは〔ウィンドインパクト:MP2〕
風を圧縮し、球状に変形させて風の衝撃波を生み出す魔法。
大人一人なら軽々吹き飛ばす威力を誇る。
この魔法を4分の1程度の威力に抑えて、ゴブリンが来るであろう道の地面に窪みを作る。
人間の子供が足を踏み外す程度の大きさ。
これならばゴブリンだけが引っ掛かり、俺は少し足場が悪いくらいで済む。
よし、これで20箇所の窪みができた。
最後に窪みを葉っぱで見えなくして終わりだ。
1つ目の罠が完成した。
2つは〔ウィンドカッター:MP3〕
風を刃の形に変形させて対象を切る魔法。
そこら辺の木、一本くらいなら軽々一刀両断できる。
窪みを作った道の左右にある木、二本に丁度、窪みへ倒れるように〔ウィンドカッター〕を配置する。
魔法はその場で一度、構築すると発動するまで残り続ける。
そのお陰で、同時に木を切ることも可能だ。
ゴブリンからしたら左右の木が突然倒れてきたと思うだろう。
「よし、これで罠は全て完成だ」
残りのMPを確認する。
MP:24/8
かなり減ったな。
だがこの罠で半数以上は倒せるはずだ。
罠を発動させれば近接戦闘。
MPを全て使うことはないだろう。
あとはゴブリンを待つだけだ。
↓↓↓
複数の足音が聞こえてくる。
どうやらお待ちかねのゴブリンが来たようだな。
罠に引っ掛かるのを、じっと身を潜めて待つ。
前を歩いているゴブリン三体が、窪みに足をつっかえて姿勢を崩した。
すかさず配置していた〔ウィンドカッター〕を発動させ、左右の木を倒す。
即座に次の魔法の構築を始める。
驚いた様な奇声を上げるゴブリン。
姿勢を崩したゴブリン三体は倒れてくる木を避けられず、そのまま木に押し潰される。
右手でグッと拳を握る。
よし、上手く引っ掛かってくれたようだな。
潰されたゴブリン達が次々に息絶える。
――――――
経験値【32】を獲得しました。
経験値【29】を獲得しました。
経験値【22】を獲得しました。
――――――
機械的な声が脳内に流れ込む。
新人育成では、気絶して微かに聞こえる程度だったが、少々不気味な声だ。
まあ、そんなことはいいとして残りは二体。
突然、仲間が殺された後ろのゴブリン二体は辺りを警戒している。
そんなゴブリン達の前に出る。
奇声を上げながら睨みつけ、臨戦態勢に入るゴブリン。
早めにどちらかを倒さなければ戦闘が長続きしてしまうな。
先程、魔法を放ったすぐに構築していた〔ウィンドインパクト〕をゴブリン達の間に向けて狙いを定める。
そして魔法を放つ。
放たれた魔法はゴブリン二体の間を通っていく。
間を通った瞬間〔ウィンドインパクト〕を意図的に破裂させ、風の衝撃波を生み出させる。
強い衝撃波により二手に別れる。
間髪入れずに片方のゴブリンの方へ走り、喉元に短剣を突き刺す。
――――――
経験値【28】を獲得しました。
――――――
よし、ちゃんと殺せたようだ。
先程の押し潰されたゴブリン達とは違って、まだ短剣を喉元に刺した感触が残っている。
あまり慣れたい感触ではないが、これも生きるためだ。
割り切っていこう。
左手で〔ウィンドカッター〕を構築する。
一人になり混乱したゴブリンが、持っている棍棒で襲いかかる。
後ろに避けながら魔法の完成を急ぐ。
よし、構築完了。
左手をゴブリンに向けて狙いを定める。
その瞬間、後ろの茂みからもう一体のゴブリンが飛び出してきた。
両手には農民から奪ったのであろう鎌を握っている。
「なッ!」
咄嗟に右手の短剣で防ぐ。
が、ゴブリンの勢いが強すぎて短剣が弾かれる。
「つッ!」
くそッ、上手く防げなかったせいで右腕を負傷してしまった。
狙いを外し飛び出してきたゴブリンへと〔ウィンドカッター〕を放つ。
鎌で威力を抑えたか。
だが所詮、農民の鎌では抑え切れなかったようだな。
時間が経てばいずれ息絶えるだろう。
右手に握っていた短剣を左手に持ち替える。
左手の短剣を最後のゴブリンに投擲する。
投げたと同時にゴブリンのいる方向へ走る。
よし、防御の姿勢に入ったな。
ゴブリンが投げた短剣を棍棒で受け止める。
その隙に、ゴブリンの腹部へ蹴りを入れる。
棍棒を離して地面に転び、痛みに悶え苦しむゴブリン。
棍棒を拾い、無様に体を転がしているゴブリンの頭を叩き潰す。
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経験値【35】を獲得しました。
経験値【30】を獲得しました。
個体名ライカの現在のレベルの更新を始めます。
個体名ライカのレベルをLv3からLv4に更新。
個体名ライカの現在のステータスの更新を始めます。
以上 個体名ライカのステータス更新を終了します。
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どうやら茂みに潜んでいた方のゴブリンも丁度、息絶えたらしいな。
そして俺のレベルが【Lv4】に上がった。
《王の再来》のお陰でMPと魔法攻撃値がどちらとも32になっている。
凄まじい上がり具合だ。
ステータス確認は後にして。
ゴブリンの討伐数を証明できるように、耳を剥ぎ取る。
討伐系の任務は、ちゃんと討伐対象を倒してきたか魔物の一部を剥ぎ取らなければならない。
剥ぎ取る部位は魔物によって決まっているので、間違った部位を渡すと、死体が確認されるまで報酬が貰えなくなる。
これで六体分だな。
剥ぎ取った耳を小袋に入れる。
よし、ターヤルに帰るとするか。
↓↓↓
ターヤルに着き、冒険者ギルドで降りる。
「やっと着いたか」
馬車は揺れが激しくて腰が痛くなりやすい。
せめて藁でもなんでも敷いてくれればいいのだが、持参するしかないな。
そんなことを考えながら受付へ向う。
「依頼を完了してきた、確認と報酬をお願いする」
「はい。少々お待ち下さい」
インベルはいないみたいだな。
「インベルがいないが、何かあったのか?」
受付嬢が顔を上げる。
「インベルさんは、今日はお休みです」
営業スマイルを見せる受付嬢。
俺もよくやっていたな、営業スマイルなら誰にも負ける気がしない。
「そうだったのか、残念だ」
依頼の確認を終え、掲示板を一瞥してからギルドを出ようとする。
「いた! ねえちょっと! もしかしてライカ?」
そう言って俺の名前を呼んできたのは、以前宿の道を教えてもらった赤髪の少女であった。
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個体名ライカ︰Lv4 職業︰デバッファー
HP︰21/21 MP︰32/32
‹能力値›
物理攻撃値……19
物理防御値……16
魔法攻撃値……32
魔法防御値……16
移動速度値……21
‹スキル›
〔風魔法Lv1:詳細〕〔言語翻訳〕
‹職業技›
【減少魔法:詳細】
‹称号›
《王の再来》
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【懇願】
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