第8話 《王の再来》
「いてててッ······」
頭が少しギンギンと痛むな。
昨日、飲みすぎたようだ。
一樽分くらいは飲んだか?
それにしても、これは何人積み重なってるのだろうか。
俺は、山盛りに積まれた男達の一番上で眠っていた。
男の山を崩さないようにゆっくり下る。
酒豪だったからか一番早く起きたようだな。
よし、どこも崩れていないな。
さてと、何をしようか。
とりあえずはこの服だな、昨日の汗と酒の臭いでとんでもない臭いだ。
宿に行って服を洗おう、まずはそれからだ。
↓↓↓
よいしょ。と、店主に服を洗いたいと言うと、少し嫌そうな顔をされたのでチップを渡してみた。
銀貨を5枚渡すと、ご機嫌な表情で手を重ね、スリスリしながら桶とこの世界の洗剤のような液体を用意してくれた。
服は、部屋の窓で干していいそうだ。
早速、洗うとしよう。
······数十分後。。。
よし、かなり汚れが溜まっていたのでな、時間がかかってしまった。
だが、これで洗濯は完了した。
やっと頭の中を整理できる。
ベットに座り、目を瞑って思考に集中させる。
昨日は色々なことがあったな。
まず1つ目は、何よりも特異個体。
まさか、初戦闘で特異個体と戦うとは思わなかった。
偶々、アルグマラージが調子に乗っていたから勝てた戦いだった。
ああいう場面で近接戦闘になった時に、何か武器が欲しいな。
ふむ、短剣はどうだろうか?
短剣なら移動の邪魔にもならないし、常備していた方が良さそうだな。
それにアルグマラージとの戦いで気づいたが、頭の中で自分がまだ魔法職だと決めつけていた、万能型なのだから剣も装備して、何にでも対応できるよう心がけなければ。
次に2つ目は、魔法。
現状、俺が使える魔法は〔風魔法〕だけ、しかも【Lv0】
まだ俺が【Lv1】でMPが少ないのもあるが、非効率な使い方をしていたせいで魔物一体に全てのMPを消費してしまった。
これは、早急に何か技を習得しないと話にならないな。
次に3つ目、俺が酒豪だったことだな。
驚いた。まさか水を飲む感覚で自分が酒を飲めるとは思わなかった。
昨日は大量に飲んでしまって流石に頭が痛いが、少し飲む程度なら、次の日に差し支えたりはないだろう。
最後に4つ目、ステータス確認だな。
自分のステータスは、冒険者登録をした際に作った証から確認できる。
ステータスは、変化すると自動的に変わるとインベルが言っていた。
どれどれ、特異個体を倒したのだし、少しは上がってるのではないか?
自分のステータスを確認する。
――――――――――――――――――――
個体名ライカ︰Lv3 職業︰デバッファー
HP︰18/18 MP︰24/24
‹能力値›
物理攻撃値……16
物理防御値……14
魔法攻撃値……24
魔法防御値……14
移動速度値……18
‹スキル›
〔風魔法Lv0〕〔言語翻訳〕
‹職業技›
【減少魔法:詳細】
‹称号›
《王の再来》
――――――――――――――――――――
「ん? んー? ······ん!?」
あまりの変わり様に目を見開く。
ななッ! 誰だこれ!? ラ···イ···カ、俺だな。
少し、高くないか? いや、少しどころではないぞ······。
それにこの称号だ、王の再来? 俺がか? ハハハ、面白い冗談だ。
ちょっと落ち着こう、······ふう、よし。
まず能力値だ、これが異常に高くなっている。
一番高いのはMPと魔法攻撃値。
いくら魔法職とは言え、【Lv3】にアップしても3倍にまで跳ね上がる訳がない。
何か俺と他の魔法職の奴らの違いがあると言えば、コレだろう《王の再来》これしか考えられない。
明らかに異彩を放つ称号へと指をさすと、途端称号の下に新たな文字が浮き出てきた。
これは······そうか、詳細が見たい魔法や称号に指を向けると、その詳細が浮き出るとインベルが言っていたな。
ふむ、保持者の成長倍率をランダムに2つ、2倍にする、と。
そのランダムに選ばれた2つが、MPと魔法攻撃値だったということか。
ふむふむ、アレだな、これはゲームで言うところの"ぶっ壊れ"と言うやつだな。
それにしても《王の再来》か、成長倍率が2倍、MPが2倍、まさかだが、これ、デバッファーの短所が無くなってないか?
デバッファーの短所は、多すぎるMP消費とそれ故に使い道の少ない専用スキルのせいで荷物持ちとしてしか役割がない最下位職業。
そのデバッファーの短所、MPの大量消費が《王の再来》によって実質的になくなったということだ。
これは······凄まじいことだぞ!
たが、高すぎるステータス、そして明らかに異質な称号。
自分の身を守るのなら、今の所は誰にも言わないほうが良いかもしれないな。
よし、この称号は今は公開しない方針で行くとして、まずは風魔法や他の通常魔法の習得。
そして、そろそろ一緒にパーティーを組んでくれる仲間が欲しいところだ。
とは言うものの、デバッファーとパーティーを組む冒険者がいるとも思えないしな。
仲間探しは後回しにして、新人育成も終わったことだし一人で依頼にいってみるとするか。
そうと決まれば早速ギルドへ直行だ。
↓↓↓
朝だと人が少ないな。
まあ、その方が誰にも絡まれなくて済むからありがたい。
そんなことを考えていると、前から見覚えのある金髪がこちらに向かってくる。
「ライカさーん! お久しぶりっすねー!」
ミールか、こうもすぐ見つけて寄ってこられると小動物感が否めないな。
それにしても早いな、まだ日が出たくらいだというのに。
「早いなミール、今日は依頼か?」
「ハイっす! 俺はいつもこのくらいの時間にやるんすよ!」
相変わらず元気な奴だな。
お陰で眠気が晴れた。
「そういえば名前、インベルに教えてもらったのか?」
「そうっすよ! ライカさんもっすよね! 新人育成で特異個体に襲われたって聞いたっすけど、凄いっすね!」
「あ、ああ、大変だった」
そこは心配するところじゃないのか?
まあ、いいか。
それよりも依頼だ。
「それじゃあ、俺も依頼があるからまたな」
「ハイっす!」
ミールと別れ、掲示板へ向う。
良い依頼は······これなどいいかもしれないな。
〈Fランク〉依頼内容:ゴブリン五体の討伐。
報酬:小金貨3枚、銀貨4枚。
期限:三日間
ケット村付近の森。
進化個体なし。
報酬も悪くない。
ケット村はここから約18km離れた場所にある。
それくらいなら馬車で3時間〜4時間ほどで着く。
この依頼でいいだろう。
期限もまだ余裕がある。
これなら〔風魔法〕の習得をしてからでも大丈夫だな。
受付所へ向う。
「これをお願いする」
取った依頼書を机に出す。
「あいよ。昨日は随分と盛り上がってたそうじゃねえか、ライカ」
「ああ、特異個体の素材でガイアスが奢ってくれてな」
「俺はてっきり、お前がやったんじゃねえかと思ったんだけどな、ほれ、手続き完了」
インベルは喋りながら依頼の手続きを済ます。
この前もそうだが、インベルは勘がいいな。
油断しているとすぐ《王の再来》のことがバレてしまうかもな。
用心用心。
「まさか、俺は魔法で援護しただけだ、熟練冒険者でもないのにできると思うか?」
「それもそうか、んなことできたら天才どころの話じゃねえな」
微笑するインベル。
よし、誤魔化せたようだな。
「じゃあ俺はそろそろ行くとする」
「おうよ」
冒険者ギルドから出て宿へ向う。
今日は魔法の習得に専念して、明日、ケット村へ行くとしよう。
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