第7話 宴
「んん······」
何処だここは······、顎が痛い、何か硬いものにぶつけ続けていたような。
「む、目覚めたようだな、なら早く自分で歩け」
ガイアスは俺の目が覚めたのに気づくと、俺を背から下ろした。
どうやらガイアスに背負われていたようだ、顎が痛いのは鎧にぶつけていたからか。
「ああ、運んでもらってすまないな、ありがとう······」
寝起きで思考が鈍いな。
寝ていたのは、MP切れで気絶してしまったからだろう。
次からはちゃんとMP管理しないと、大変な事になりかねないな。
「礼などいらん。逆に私が礼をしなければならない」
ガイアスはその場で立ち止まり、俺に向かって頭を下げる。
「ライカ、すまなかった。私の判断が甘かったせいで皆を全員、ヤツの餌にしてしまうところだった」
自分のせいだと俺に、そして周りの冒険者達にも頭を下げて謝るガイアス。
「誰にでもそんなことはある。それにガイアスが指示をしてくれたおかげで、後衛が誰も傷付かずに残ってくれたのだ、あれがあったからこそ勝てた戦いだった」
少し酷い言い方だが、前衛が壊滅して、そのお陰でアルグマラージが調子に乗ってくれたのも大きかった。
「いや、私が先人を切り戦っていれば容易く勝てていた。新人育成だからと言って特異個体が出たにも関わらず、自ら戦わず指示だけで対処しようと馬鹿な行動に出たせいでこうなった。本当に愚かな行動だった」
ガイアスはそう言って自虐する。
「確かにそうだったかもしれないな。だが、それはとっくに過ぎた話だ、それをこれからどうしていくのか、どう反省して次に活かすかが重要なんじゃないのか? 俺はそう思う」
フリーターの時もそうやって過ごしてきたからな。
失敗したら徹底的に間違いを直し、そこから一から十まで覚えて対策していた。
そのお陰か、店長の賄いが格段と美味しくなった覚えがあるな。
アレは美味しかった。この世界でも作れそうなら今度作ってみるか。
おっと、思考が脱線していたな。
「ライカ君の言う通りですよ! ガイアスさんの指示もライカ君の指示も僕じゃ絶対できないですもん!」
ガイアスを慰めるように、横からソニムが割って入る。
「ぷっ、ははは! 今回の新人は器の広い者が多いな! 本当にすまなかった! ライカ、お前のことを最下位職業などと罵倒したこと、訂正しよう。お前は素晴らしい冒険者だ」
ガイアスは吹っ切れたのか、先程とは一変して笑いながら喋る。
最初と少し喋り方が違うな、恐らくこれがガイアスの素なのだろう。
最下位職業だと馬鹿にはしたが、それは冒険者の間じゃよくある話であって、けしてそれで人間性が決まるようなものではない。
案外、根は素直で気概のある人間なのかもしれないな。
「それを謝る必要は無い。本当に気にしていないからな、それよりも早くターヤルに帰ろうか、怪我人も沢山いる」
「そうだな! 私はギルドにも報告をしなければならないしな!」
「そうだね!」
二人が声を揃えて喋る。
そして新人育成は中止となり、特異個体のアルグマラージ1体しか倒せずに、俺達は【名無しダンジョン】を立ち去った。
倒したアルグマラージは、ガイアスが指示を出して討伐したと報告してもらえるように言った、面倒な事は極力避けたいからだ。
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ターヤルに着き、怪我人を病院へ送り、ガイアスはギルドへ報告。
他の冒険者達は「災難だった」と呟きながら解散した。
そして俺は、ギルドで新しい依頼がないか探しに来ていた。
本当に災難だったな。
特異個体は知能が高い、故に通常は迂闊にダンジョンの出口にいることなどあるはずがないそうだ。
ガイアスが言うには「偶々あそこで産まれたばかりだったのだろう」と言っていた。
魔物は主に2つの繁殖方法がある。
1つは繁殖をして産まれる方法。
2つはダンジョンなどの魔素の溜まった場所でのみ産まれる、魔素繁殖と言われる繁殖方法があるらしいが、その魔素繁殖で産まれたのだろう。
まあ、過ぎたことに思考を凝らしても仕方がない、さっさと依頼を受けに行くとしよう。
それにしても今日の冒険者ギルドは騒がしいな、何かあったのだろうか?
誰かに大勢の冒険者が群がっているようだ。
俺は群がっている中心を見に行く。
冒険者の間を潜って移動すると、そこの中心にはなんとガイアスがいた。
「どうして囲まれているのだ? ガイアス」
「おお! ライカか! 丁度良かった、お前に渡したい物があるんだが、お前達! 少し離れろ!」
ガイアスは俺に気が付き、周りを鎮める。
「どうしたんだ? 何故こんなにも囲まれていたんだ?」
俺がそう言うと、ガイアスは声を潜めて喋る。
「それがなぁ、私が特異個体を倒したと報告したら皆大騒ぎで詰め寄ってきてな、「新人を連れて特異個体を倒すなんてすごい!」なんて言われても実際はライカが倒した獲物だからな、自慢するにもカッコつけようにも、罪悪感が強くてなかなか剥がせないでいてな」
なるほど、ガイアスはあまり嘘のつけないタイプの人間だと、話していれは大体分かる。
だから正直に俺が倒した言うと約束を破ることになるし、性格上、嘘も言えないので、膠着状態になっていたと。
「そういうことか。それで? 俺に渡す物とはなんだ?」
「おお、そうだったそうだった、コレだ。受け取ってくれ」
持っていた小袋を俺に向ける。
手に持つと、ずっしりと"重い"と思えるほどに大量の硬貨が入っていた。
ざっと小金貨60枚はありそうな重さ。
「このお金、特異個体の素材か? どうして俺に渡す必要があるのだ?」
「何を言っている。アレはライカが倒したと言っても同義だ。今回の戦いで一番の功労者に渡すのは常識だろう?」
ガイアスは無理やり俺の手に小袋を握らせる。
「いやいや待ってくれ! ただガイアスの代わりに指示しただけだぞ!? 俺の代わりにガイアスが倒したことにしてくれたんだ、それが対価ってことでいいだろ!」
そんなお金を貰うなんて、俺のプライドに関わる。
「いいや駄目だ、これは私の冒険者としてのプライドが許さない、受け取れライカ!」
なッ! インベル同様ガイアスも心が読めるのか!?
まあ、そんな冗談はいいとして、どうしたものか。
俺はそう思案していると、ふと名案が頭をよぎる。
······これだ。
「······はあ、仕方がない、一応貰っておこう」
「観念したみたいだなライカ。これで良い装備でも買って冒険に役立てるんだぞ」
俺が観念したと思い、安堵するガイアス。
俺は「ふっ」と軽く笑う。
「ああ、良い使い道を思いついた。ガイアス、折角あんなにも盛り上がっていたのだ、何もなく終わるのは勿体ないと思わないか?」
「む? それもそうだな、だが何をすると言うのだ?」
首を傾げて問いかけるガイアス。
俺は声を張り上げて叫ぶ。
「ここにいる冒険者全員、聞け! なんとガイアスが全員に好きなだけ酒と飯を奢ってくれるそうだ!」
その声に全員が反応する。
「まじか!」
「流石はガイアス! Dランク冒険者の鏡だぜ!」
「依頼はやめだやめだ! 今日は飲むぞ!」
よし、これでガイアスも逃れられないだろう。
「全員乗り気になってしまったな、どうするガイアス」
ガイアスは額に手を添え、ため息を漏らした後。
「······はあ、頑固者めが。お前達! 今日はアベントゥーラで宴だ!」
「うおー!
うおー!
うおー!」
ガイアスの言葉で更に盛り上がり、そのまま酒場で酒を呷り、飯を食らい、全員酔い倒れるまで飲み続けた。
因みに、貰ったお金は酔っていたガイアスに押し付けた。
それと近頃、魔法学校の試験があると聞いた、なんでも世界有数のエリート校だそうだ。
なんとソニムはそこの卒業生らしく、ガイアスが俺を運んでいる時に聞いたらしい。
途中から、ソニムや怪我をした新人育成の参加者達も来て話は広がり、大盛りあがりだった。
特にソニムの話で持ち切りであった。
前の世界では息抜きにブランデーを嗜む程度で、あまり酒は飲まないようにと思っていたが、なんとブランデヴァインという酒がブランデーと全く同じ味でゴクゴクと飲み続けてしまった。
ノンストップでブランデヴァインを飲んでいたら全員寝てしまっていた、そこで気づいたが、俺は紛うことなき酒豪だったらしい。
が、流石の俺でも疲労による眠気には勝てなかった。
俺はそのまま眠りについた。
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