第6話 初戦闘 初レベルアップ 初称号
【名無しダンジョン:一層】
軽く〈ステータス〉を確認しながら移動する。
魔法攻撃値が8······、本当に低いな、魔法剣士でも10はあるというのに何故こんなに低いのか。
しかもデバッファーは上位職、中位職の魔法剣士よりもステータスが少し高いのにこれだ、本来なら魔法攻撃値13はあったんじゃないか?
そんなことを考えていると、前から何かがいる気配がした。
熊のように真っ黒で大きな体、お腹以外はアルマジロの甲羅のような鱗を纏った魔物がこちらをじっと見つめていた。
それをガイアスが確認した途端。
「お前ら避けろ! アルグマラージだ!」
ガイアスの叫びと共にアルグマラージの体が丸まり、俺達に向かって突進を仕掛けてきた。
ガイアスの必死な叫びに全員ビクつき少し反応が遅れはしたが、なんとか全員避けられたみたいだ。
が、しかし、デバッファーという理由で一番後方に配置されていた俺が、次の標的になってしまった。
とりあえず、そのまま立ち止まるよりか、動いて避けれる範囲を広めておこう。
俺はアルグマラージの周りを広く展開し、いつ突進がきてもいいよう備える。
「しまったッ! おいお前! そいつは相手の動きに合わせて先読みしてくる厄介な魔物だ!」
ガイアスの情報に聞き入っている隙を、アルグマラージが勢いよく突進で仕掛けてくる。
「クッ!」
少し腕を掠った。
が、さっきの情報のおかげでなんとか踏みとどまり、避けることができた。
すかさず〈鑑定紙〉でアルグマラージのステータスを確認する。
この〈鑑定紙〉とは、1つ、小金貨1枚で売られている一回限りの使い切り〈アイテム〉で、鑑定したい対象に翳すと、対象のステータスが見えるという高価だが便利な道具だ。
しかもHPやMPが減るのもリアルタイムで分かる。
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個体名アルグマラージ︰Lv7
HP︰68/68 MP︰14/14
‹能力値›
物理攻撃値……102
物理防御値……63
魔法攻撃値……17
魔法防御値……30
移動速度値……40
‹スキル›
〔予測〕〔加速〕〔地形操作〕
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た、高過ぎないか······? この〈ステータス〉
ん? 〔加速〕に〔地形操作〕? 先程アルグマラージは予測だけを使い俺に突進をしてきたよな?
基本、知能の低い魔物が自身のスキルを渋って使わないことはありえないそうだ。
だとするとアイツは、相当な知能を有した"特異個体"の可能性が高いかもしれないぞ。
特異個体とは、知能の低い魔物から極めて稀に産まれる個体であり、生まれ持った知能に加え高いステータスを持ち、見つけたら即排除するほどには危険視されている。
何故なら特異個体は、その知能故に自分より知能の低い魔物を大量に引き連れ、魔物災害を引き起こすかららしい。
特異個体ならばあの〈ステータス〉も頷ける。
まずい、初戦で特異個体はまだ【Lv1】の俺には荷が重い。
ひとまず全員に、特異個体の可能性を伝えておいた方が良さそうだ。
「皆! このアルグマラージ、特異個体の可能性がありそうだ!」
俺の報告を聞いて、皆後ずさりをして戸惑っている。
言わない方がよかっただろうか。
いや、一番面倒なのは適当に突っ込んで死人が出ることの方が後々大変そうだ。
ガイアスだけが物怖じせず、現在の状況を確認していた。
「お前達! 怖気づくな、ここでヤツを仕留める、戦士などの防御値の高い職の者は固まってヤツの突進を押して弾け! 魔法使い、弓使いなどの遠距離型の職の者は弾いて出たヤツの腹に攻撃を叩き込めろ!」
ガイアスの的確な指示を聞いて全員が覚悟を決め、アルグマラージの前に立ち、各自指示された通りの体制に組んだ。
凄いな。10秒もない時間の中、あそこまでの指示が出せるなんて、それだけの経験を積んできたのだろう。
そんな事を考えていると、アルグマラージが前衛部隊に向かい突進を仕掛けてきた。
「来るぞ!」
ガイアスの叫びに全員身を引き締める。
アルグマラージの突進に合わせ、盾持ち達が盾を前に出した瞬間、アルグマラージが宙に浮かんだ。
浮かんだアルグマラージが、そのまま後衛部隊に突進する、と思いきや急激に自身の向きと反対方向に転がり始めた。
「何だその動きは?!」
ガイアスがアルグマラージの異様な動きに驚愕している隙に、前衛部隊の大半がアルグマラージの突進に吹き飛ばされてしまった。
あの動き、いったいどうやって。
少し思考を整えると、自ずと原因が分かってきた。
「スキルだ。アルグマラージのスキルに〔加速〕と〔地形操作〕があった、さっきの跳躍は〔地形操作〕で自身を押して跳ね、そして突然のバック移動は〔加速〕によって無理やり逆向きに移動していたんだ!」
【Lv1】である俺の言葉を信用してくれるかどうか。
どちらにしろ中衛の俺が先陣を切らなければまずい状況だ。
現在。中衛は俺一人、前衛は大半が壊滅状態で復帰は期待できないだろう。
後衛は全員無傷だが、前衛がやられ軽く戦意喪失している者が数名。
ガイアスは声を掛けても、呆気に取られ思考が鈍っているようだ。
まずいな······、この状況で指示を出すはずのガイアスが機能しないのは厳しい。
なんでもいいから後衛に指示をしなければ全滅もありえるぞ······。
仕方がない、俺が指示するしかないか。
「後衛部隊! まだ戦う意志のある者は聞いてくれ! 俺が今からアルグマラージの腹をどうにかさらけ出す、だから俺の指示した通りに動いてくれ」
下手な指示だが、少しでも動ける者が欲しい状況。
「ガ、ガイアスさんの指示に従った方がいいんじゃないの?」
そう不安そうに問いかけてきたのは、アルグマラージに怯え、戦意喪失気味になっていたソニムだった。
「大丈夫だ、少し動いて露わになったヤツの腹に魔法をぶちこむ簡単な作業だ」
「そ、そうか······、よし! 分かった、君の指示に従うよ」
まだ怯えているのが表情で分かるが、多少なりと度胸はあるようだ。
それにガイアスほど的確ではなかったが、ソニムのお陰もあって他の戦意喪失していた数名もやる気になってくれた。
しかし、後衛は整ったが前衛がほぼ使えないとなると、必然的に俺が前衛になってしまう。
できなくはないが、本物の前衛職に比べるとかなり頼りない。
ここはもう、前衛無しでどうにかするしかないようだ。
となると、一か八か賭けに出るしかないな。
長いこと作戦を考えていると、アルグマラージが突進の動作に入る。
前衛を壊滅させ、随分と調子に乗っているようだ。
「本当にライカ君一人で大丈夫なの?」
ソニムが俺を心配してのことか、そう問い掛けてきた。
しかし、問題はない。
一か八かではあるが、運良く奴は魔物を連れていない。
失敗してもこの人数差ならば、重傷を負う点に目をつぶれば、勝てない相手ではないだろう。
「任せておけ。アルグマラージが俺に向かって突進して来たらどちらでも構わない、全員左右に移動してくれ」
指示をし終えたすぐに、アルグマラージが〔加速〕を使い、急速しながら突進を仕掛けてきた。
迫りくるアルグマラージ。
すかさず〔風魔法:Lv0〕で無理やり体を上に飛ばす。
これはアルグマラージの地形操作と同じ要領だ。
アルグマラージの背後に回る。
そして、全ての魔力を込めて風魔法を放ち、アルグマラージの突進を、さらに加速させる事に成功した。
調子に乗ったアルグマラージは急激な自身のスピードアップに驚き、スピードを抑えられず、ドゴォォン!! と、どデカい音と同時に壁に衝突、あまりに強い衝撃により見事、脳震盪を起こし腹をむき出しにさせる事に成功した。
「今だ! 叩き込め!」
全員で一斉に魔法を叩き込む。
アルグマラージのHPが見る見るうちに減っていく。
68─65──59───40────10─────1
アルグマラージに集中していて確認できなかったが、どうやら全員指示通りに動いてくれていたみたいだな。
俺も、万が一の可能性も出さないよう風魔法でトドメを刺す。
そして、MPを全て消費してしまった為、意識が遠のいていく。
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経験値【177】を獲得しました。
個体名ライカの現在のレベルの更新を始めます。
個体名ライカのレベルをLv1からLv3に更新。
個体名ライカの現在のステータスの更新を始めます。
個体名ライカの現在のスキルの更新を始めます。
獲得スキル︰『物理攻撃減少魔法』
『物理防御減少魔法』
『魔法攻撃減少魔法』
『魔法防御減少魔法』
特殊称号の獲得条件をクリアしました。
個体名ライカに新たな称号が授けられました。
称号獲得:《王の再来》
以上 個体名ライカのステータス更新を終了します。
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個体名ライカ︰Lv3 職業︰デバッファー
HP︰18/18 MP︰24/24
‹能力値›
物理攻撃値……16
物理防御値……14
魔法攻撃値……24
魔法防御値……14
移動速度値……18
‹スキル›
〔風魔法Lv0〕〔言語翻訳〕
‹職業技›
【減少魔法:詳細】
‹称号›
《王の再来》
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称号《王の再来》
保持者への能力値をランダムに
2つ成長倍率を2倍にする。
対象能力値:MP
魔法攻撃値
【懇願】
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