第5話 新人育成へ
「その俺にしか出来ないと言うやり方、教えてくれないか」
インベルは先程までの気まずい表情から一変して、自信ありげな顔を浮かべる。
「ああ、だけど一つだけ言っておきたいことがある。この方法はデバッファーを下位職、よくて中位職にまで実用性を上げるやり方だ、別にそれをして最強になれるわけじゃねえ。そこんとこ、ちゃんと覚えておけ」
俺が慢心しないように注意してくれたのか。
どうしてここまで親身にしてくれるのか不思議でならなが、まずは説明が最優先だ。
「勿論だ。それで冒険者ができるのなら万々歳だ」
「よし、じゃあ説明するぞ。その前にお前にしかできないって言っただろ、それには理由がある。まず職業によって前衛、中衛、後衛ってのが大体決まってんだ、デバッファーは魔法職だから後衛だ、なんだけどな、お前のステータスは後衛とは思えねえほど物理系の能力値が高いんだ。普通あることじゃねえ、後衛職が戦士並の攻撃力があるはずねえんだ、だけどどうしてか、お前は魔法職にも関わらず、魔法攻撃値が平均よりも低い分、それが物理攻撃値、物理防御値に割り振られた。ライカ。デバッファーの欠点覚えてっか」
「多すぎるMP消費と使い所の少ない職業スキルだろ」
インベルの問いに答える。
「そうだ。だけど根本的な原因はそこじゃない」
「どういことだ? 話が掴めないぞ」
「聞けば分かる。その原因ってのは、デバッファーが完全な後衛向きのステータスをしていたからだ」
一旦、頭を整理する。
「ふむ······、そういうことか。つまりは多すぎるMPに使い所の少ないスキル、そして完全に後衛だった為に荷物運び要員となり、しかも魔物に襲われたら対抗手段も少なく足手まといになるから。と言うことか?」
「本当、ライカは話が早くて助かるな」
「そうか? このくらい普通だろう」
「いいや、どこかの馬鹿とは大違いだ」
どこかの馬鹿······誰なのかが容易に分かってしまう。
「じゃあ話を戻すぞ。さっきライカが言った通り、デバッファーは欠点二つと後衛向きのステータスのせいで役に立たない、それに加え距離を詰められるとすぐ殺される、だから弱い。けどライカ、お前はどうしてか魔剣士に似たステータスになってやがる、これの意味が分かるか?」
また、インベルの問いに答える。
「······魔剣士のステータスが分からないのだが」
「忘れちまってた。ライカは超が付くほどのど田舎出身だもんな、知ってるわけねえか、軽く説明すると魔剣士は剣と魔法の両方を使いこなす中衛向きのステータスしてんだよ」
「なるほど、両方使えるのは強いな、俺も戦士並のステータスだしできるのか?」
ふと疑問が浮かんだので聞いてみる。
「いや本当に話が早えな、そうだ、お前にしかできない方法ってのがそれだ。そうすればお前は剣も魔法も弱体化もできる万能職に生まれ変わるっつう訳だ」
「ふむ、確かに俺にしかできない方法だな。これならデバッファーでも冒険者ができるかもしれない」
正直、冒険者になるのを軽く諦めかけていたが、インベルの名案のおかげで仕事が決まって良かった。
「インベル。本当にありがとう、心から感謝している」
「全然どうってことねえよ、なんせ俺も······いや何でもねえ、お前が冒険者やるってんならミールの奴も喜ぶだろうよ、それと最後にコレな」
遠慮気味に返事をするインベル。
さっき何か言いかけたが何だったのだろうか。
まあ、気にしてもしょうがないか。
「この2冊の本は何だ?」
「これは冒険者になる上で最低限必要な知識と常識が載ってある、お前に今一番必要な物だ。もう1冊は後衛職の冒険者だけが貰える〈初級〉の魔導書だ、誰でも覚えられる魔法だから絶対に覚えとけよ? 因みに2冊とも冒険者ギルドが費用を負担してっから安心しろ、高えんだから雑に使うなよ?」
ありがたい。羊皮紙はかなり高価だと聞くが、それだけギルドに金銭的な余裕があるのと、冒険者への期待と信頼が厚いということだろう。
「分かった、善処する。それと魔導書、俺にも魔法が使えるのか? それだと普通の魔法使いの肩身が狭くならないか?」
「ん? ああ、平民じゃ教育受けねえからよくその質問は来るんだよな。魔法使いが最初に手に入れられる職業スキルに【マジックプロテクト】っつう、自分にしか掛けられねぇけど、掛かってる間は自分の魔法の威力が大幅に上がるとんでもねぇスキルが使えんだよ、同じレベルで魔法使いに威力勝負して勝てる職業なんて賢者か勇者、あとは魔女ぐれえだろうよ」
「なるほど、魔法使いは序盤に強い職業スキルが使えるのか、羨ましいな」
「因みに通常魔法は人によって属性の得意不得意があっから得意な属性から練習しろよ。ほれ、コレがライカの属性一覧だ。登録と一緒に作られるやつな、それに合わせて魔導書を渡すんだ、経費削減ってやつだな」
インベルに渡された紙をチラリと一瞥する。
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個体名ライカ
火魔法△ 氷魔法✕
水魔法○ 毒魔法◎
風魔法◎ 光魔法△
土魔法◯ 闇魔法◯
雷魔法△ 治癒魔法✕
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見たところ、風と毒魔法が得意なのが分かるな。
そして、氷と治癒魔法が不得意なのだろう。
というか✕だが使えるのか?
とりあえず魔法は後にして、先に依頼を見に行くとしよう。
「それじゃあ、色々とありがとう、インベル」
「おう、期待してんぞ」
受付所から離れ、依頼の貼ってある掲示板に移動する。
「ふむ、色々な依頼があるのだな」
G級任務にF級任務、B級の任務もあった中、一際目立つ依頼が貼ってあった。
新人冒険者の育成、指導者とその参加者募集中と書かれていた。
「君もコレに参加するの?」
依頼書を見ていると、眼鏡の少年が先程まで俺が見ていた依頼書を指差し、声を掛けてきた。
「ん? ああ」
しまった、突然話しかけられたせいで適当に返事してしまった。
「やっぱり! 君もさっき冒険者になったんだね! 僕ソニム。よろしくね!」
ふむ、どうしたものか。
恐らく新人育成は今の俺にとってかなり有意義な経験を積めるだろう。
だか、見たところ新人育成まで二日間しか時間がない。
その二日間で冒険者に必要な知識、そして通常魔法を覚えられるかどうか。
いや、迷っていても仕方がないか、指導者がいるとあったし多少覚えられなくてもなんとかなるだろう。
「俺はライカだ、よろしく頼む。では、やる事があるので失礼する」
「うん! またね!」
かなり強引に切り上げてしまったが、すぐにでも覚えなければならないことが多いからな、仕方がない。
ソニムとの会話を切り上げ、赤髪の少女に聞いた道を歩き、宿へと着いた。
すぐさま小金貨1枚と銀貨4枚で一週間分の個室の宿を取り、新人育成に備え準備を始めた。
↓↓↓
新人育成、当日。
俺は早朝から、冒険者ギルドで管理しているアベントゥーラと言う酒場の入口前に立っていた。
「ここか」
新人育成までの二日間、冒険者に必要な知識と常識を覚え、通常魔法を練習し、そして冒険に必要な解体用のナイフに皮の装備、地図等の〈アイテム〉を色々と揃えた。
が、この世界で生きてきた時間が短いせいで知識と常識に時間をほとんど取られてしまった。
悲しいことに通常魔法はまだ一つだけで、しかも半分ほどしか覚えらず、〔風魔法Lv0〕で技という技もなく風を創り出すことしかできない状態で来てしまった。
このまま酒場の前にいても意味がない、とりあえず中に入るか。
扉を開けるとカランカランと音が鳴り、それと同時に、既に到着していた冒険者達に視線を向けられた。
冒険者達は俺を一瞥した後、すぐに一緒に来ていた仲間と話の続きを始めた。
「ライカ君! 随分遅かったね、もうすぐ始まるところだよ!」
俺が酒場に入ってくるのを見て、ソニムが声を掛ける。
「やる事が多くてな、色々やっていたらギリギリになってしまった」
「そういえば前に、そんなこと言ってたもんね! あ! 来たよ、あの人かな?」
ソニムがそう言うと、酒場の奥から身長190センチほどの筋骨隆々な男が出てきた。
男がカウンターの前に立つ。
「んん、おはよう新人冒険者諸君、今回、指導者として推薦されたD級冒険者のガイアスだ」
全員、ガイアスに目を向ける。
随分と堅苦しいな。
「早速だが作戦内容を説明する、今回我々が行くダンジョンは簡単な【名無しダンジョン】だ」
【名無しダンジョン】とは、比較的簡単で既に攻略され尽くしているダンジョンのことを言うそうだ。
なので新人冒険者はまず、そこで戦闘を学び、その後に自ら依頼を受けて魔物を狩るのが冒険者の鉄板らしい。
「全員知っての通り今回の目的は新人の育成だ、そのため、私は指示以外の戦闘での介入はなしとする、そして倒した魔物の素材の換金に関しては八割が倒した本人に、後の二割は指導者である私が受け取る事となっている、安全に金が稼げるのだ、異論は無いだろうな? 説明は以上だ」
ガイアスが説明を終え、素材換金の話に意を反しようとする者もいたが、G級冒険者が多いこの新人育成の場ではD級冒険者のガイアスの言葉は絶対に等しい。
冒険者の階級は8段階あり、下から順にG級、F級、E級、D級、C級、B級、A級、そしてS級で別れている。
G級とF級ではあまり差はないが、E級からは冒険者のランクが高ければ高いほど、その絶対が強くなる。
故にD級冒険者にとってG級冒険者は小虫同然、軽く捻り潰せるほどの差があるそうだ。
二日間の間、食事のついでに軽い情報収集をしていたお陰でだいぶ楽に対応できそうで良かった。
「では、早速ダンジョンに向かうがその前に、この場に荷物運びしかできない"最下位職業"が混じっているらしいが安心しろ、そのような無能がいてもこの私がしっかりとお前達を指導しよう」
ガイアスが俺を見ながら嘲笑うようにそう口にした。
その視線から、他の冒険者達も俺を見て嗤い、見下した表情でこちらを見る。
はあ······、これが最下位職業の浴びる視線か、まあ仕方のないことだ、そう見られるほどには弱い職業なのだからな。
「ライカ君。デバッファーだったんだね、でも大丈夫だよ! ライカ君すごく堂々としてるしから、近くにいるとなんか安心するんだよね!」
「ありがとうソニム。別に気にしていないから心配無用だ、早速、ダンジョンに向かおうか」
「そうだね!」
男に慰められても悲しくなるだけだが、まあいいか。
それよりも、インベル考案の万能型デバッファーが通用するかの方が気になるところだ。
【懇願】
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