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異世界希望者イセカイヘ  作者: 花伝
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第4話 最下位職業


 とりあえず宿やら何やらは後にして、受付に行ってみるか。


 五箇所の受付所の内、四箇所が埋まっていた。

 女の受付が四人、男の受付が一人、明らかに避けられている箇所が一つある。

 誰が避けられているかは言うまでもない。


 受付所へ向う。


 「すまない。冒険者になりたいのだが、ここでもできるか?」


 「ああ、出来るけどよ、女の受付に行かねえなんて珍しいなお前、もしかしてあの馬鹿に連れてこられた口か?」


 髭の生えた強面な男が物珍しそうに質問する。


 「人が多かったのでな、別にここは受付禁止なわけではないのだろう?」


 「禁止じゃねえが、よく俺のカウンターに来ようと思ったのかってだけだ、なんせ目つきが怖いだとか昔は盗賊の頭だったとかのありもしない噂のせいで誰も寄り付かなくてな、来んのはお前みたいな何も知らない奴か馬鹿ぐれえだ」


 盗賊の頭、言われてみれば見えなくもない。


 「おいお前、今言われてみたらそうかも。とか考えただろ」


 ギクッ! こ、この男エスパーか? それとも女神なのか? いや、男だから神様か。


 心の声を見透かされ、苦笑いしてしまう。


 「す、すまない。確かにそう思ってしまった、だが違うのだろ? ならば心配する必要はない」


 男が「ハハハ!」と笑う。


 「面白え奴だなお前、久しぶりに俺の仕事も退屈しなくて済むかもな」


 「それは良かった。これから世話になると思う、よろしく頼む」

 

 少し焦ったが、一応気に入られたみたいで良かった。


 「それとなのだが、さっき言っていたあの馬鹿とは誰のことだ?」


 「ああ、馬鹿ってのはミールのことだ。分かんねえか? お前が連れてこられた金髪で声のでけえガキだ」


 あの金髪の少年はミールと言うのか、覚えておこう。


 「ん? 確かに押されて連れてこられたが、どうして分かったんだ?」


 いくらミールの声が大きくとも限度がある。

 しかもこのギルドは広い、俺がミールと別れたのもギルドの目の前というわけでもなかった。

 まさか新手の押し売りか!?


 「ああ、アイツは気になった奴がいると全員ギルドに強制連行する癖があるんだよ、それでそんな奴らは全員俺の受付に来る」


 そういうことか、無駄に思考を凝らしてしまった。


 「変な癖を持っているのだな。それにしてもどうしてあなたの場所に?」


 「あー、あなたじゃ面倒だろ。名前がまだだったな。俺の名前はインベルだ。よろしくな」


 俺を気遣って名前を教えてくれたようだ。

 

 「そういえばそうだったな。ライカだ。改めてよろしく頼む」


 偽名などは別に気にしなくても大丈夫だろう。

 元々、俺の名前は横文字の方が似合うからな。


 「おうよ。んで、なんで俺のカウンターに来るのかってのは、あのバカが連れてくる奴は全員、変だか面白え奴らばっか来るから分かっちまうんだよ。お前もその一人だ」


 勝手に変な奴呼ばわりされるのは癪だな。

 そんなに変な人間ではないと思うのだが。


 「俺はそんなに変な人間なのか? 今まで一度も言われたことがないぞ」


 「ああ変だぞ。言ったろ? 俺の所に来るのは馬鹿のミールが連れてきた奴がほとんどだって」


 インベルが小馬鹿にしたような言い草で喋る。


 「まあ、俺が変な奴かどうかはいいとして、どうしてミールの連れてくる人は変な奴が多いんだ?」


 どうしてなのか疑問が浮かび質問してみる。


 「それはな、アイツは目利きが良いんだよ。ミールが連れてくる奴らは全員、肝の据わった奴しかこねえんだ。要するに、冒険者に必要な才能を何かしらもってるってことだ」


 ふむ、なら今回はハズレだったみたいだな。

 なんせ俺は、変な奴でもなく才能に恵まれた人間でもない、凡人の代表と言っても過言ではないからな。

 ······自分で言ったが悲しいな。


 「そうだったのか、そんな人に連れてこられるなんて縁起がいいな」


 軽く苦笑しながらそう言う。


 「なに顔引きつらせてんだ? お前ことも結構期待してんだぞ?」


 「いや、そんな期待されても何もできないかもしれないぞ」


 実際、本当に何もできないかもしれないからな、なにせ俺には本来あるはずのチートスキルが無いからな。


 「そうか? ま、ミールの話はこのくらいでいいだろ。それで冒険者登録だったよな? なら先に小金貨3枚払ってからだ」


 「なっ! ちょっと高くないか?」


 地味に高かったので驚きを隠せない。


 「何言ってんだ、全然高くねえだろうが。冒険者の資格があるだけで普段通れない場所も簡単に通れたり、冒険者ってだけで武器や防具を取り扱う店にも優遇されんだぞ。それに冒険者になった後すぐに適当な依頼を受ければ前払いで報酬の少しを貰えっから、やりくりしてどうにでもできるだろ」


 インベルが端的に、そして的確に否定する。


 確かに、試験も何もなしにお金を払うだけで行動範囲も広がって、更に色々と優遇されるのなら魅力的と言えるだろう。

 それに依頼を受けると前金が入るのか。


 「ふむ、そう言われると逆に安く感じるな。今はまだ金銭に余裕がないわけでもないしな、小金貨3枚だ。早速登録をお願いする」


 「だろ? んじゃあ、この〈魔道具〉に髪の毛を一本置いてくれ」


 そう言いインベルが取り出した物は、何も入っていない空の砂時計であった。

 しかも砂時計の一番上と下には小さく穴が空いており、全く砂時計の意味を成していない代物であった。


 「これ、ただの砂時計じゃないか? しかも穴が空いているぞ」


 「あー、〈魔道具〉を知らない奴が見たらそう見えるだろうな。これは冒険者ギルドで作られた魔道具でな、その人の髪や爪の欠片なんかをこの上の部分に置くと、冒険者の証が作られるっつう魔道具だ。因みになんで髪の毛なのかは分かんねえ」


 〈魔道具〉、剣と魔法の世界とは女神から聞いたが、前の世界の科学とこの世界の魔法は似ているのかもな。

 どうして髪の毛なのかはその人のDNAから抽出したからなのだろう。


 自分の髪の毛を一本抜き取り魔道具の上に置く。

 置いてから数秒後、髪の毛が黒い砂となり砂時計の中に少しずつ入っていく。

 入っていった砂はさらさらと下へ落ち、いつの間にか下に置かれていた羊皮紙に落ちて砂が文字となって俺の情報を写し出していく。


 「これが魔法か、なんとも不思議な現象だ」


 初めての魔法に思わず感心してしまう。


 「お前、魔法を見るのも初めてなのか? 本当に変な奴だな。どんなど田舎に住んでても少しくらいは見たことあるもんだぞ。どれどれ、ニホン? んだここ、この仕事やってもう十年以上は経ったんだがなぁ、こんな名前の村覚えがねえぞ」


 それはそうだろう、なにせ別の世界にある国だからな。

 しかし困ったな、もしも他の転生者や勇者に知られたら面倒なことになるに違いない。


 「正直、村と言ってもいいのかと思うレベルだからな、できるだけ他言無用でお願いする」


 「相当ちゃっちい村だったんだな、よし分かった。そんな村に住んでたなんて知られたら笑い者にされるもんな」


 インベルが哀れみの表情で納得する。


 「あ、ああ、そうしてもらえると助かる」


 よしよし、一応、誤魔化せた。

 最悪バレても、誰も知らない村に住んでた冒険者ってだけで軽く話の肴にされるだけだ。

 ······それはそれで嫌だが、まあいいだろう。


 「それじゃ、次は〈ステータス〉の確認だな」


 「〈ステータス〉とはなんだ?」


 「まじかよ······。こんな常識も分かんないのか。ま、まあ見れば分かるだろ。ほれ」


 呆れた表情で羊皮紙を渡すインベル。


 この表情、〈ステータス〉とはこの世界の常識の一つなのだろう。

 インベルからしたら俺は、箱入りどころか産まれてからずっと監禁されていた人間のように見えるのだろうな。


 渡された羊皮紙を手に取り見てみる


 ――――――――――――――――――――

 個体名ライカ︰Lv1 職業︰デバッファー

 HP︰12/12 MP︰8/8


 能力値︰物理攻撃値……10

     物理防御値……10

     魔法攻撃値……8

     魔法防御値……10

     移動速度値……12


 スキル︰〔言語翻訳〕

 ――――――――――――――――――――


 これが俺の〈ステータス〉。

 ふむ、分からんな。何が良いのか何が悪いのか全然分からない。


 1つだけ分かるのは、スキルの〔言語翻訳〕くらいだ。

 これは転生する前に女神から貰ったスキル。

 これがなければ今頃、途方に暮れていたし、ミールやインベルとも会話が成立しなかった。

 あの女神には感謝してもしきれんな、様を付けたほうがいいのかもしれない。


 ありがとうございます、女神様。


 と、崇めるのはこのくらいにして、〔言語翻訳〕以外、全く分からない状態だ。

 ここはインベルに説明を求むか。


 「一通り見てみたが、スキル以外何も分からなかった。すまないが教えてくれるか」


 「はあ、そんな気はしてたけどよ、まさかここまでとは······。ライカ、よく生きてこれたな」


 あまりに俺の常識知らずぶりに、嘆息混じりに心配するインベル。


 「色々と事情があってな、あまり人と話す機会がない生活を送っていた」


 「そうだったんか。まあ、あんま詮索はしねえよ。それで〈ステータス〉の説明な、簡単だぞ、まず個体名は流石に分かるだろけど自分の名前だ、その右にあるのが現在のレベル、そのまた右がお前の職業だ、職業は成人した時に勝手に決まる」


 勝手に職業が決まるのか、冒険者とは理不尽な仕事のようだ。


 「ちなみにライカ。お前の職業聞いてもいいか?」


 どうせ冒険者をするならいずれ知られることだ、別に大丈夫だろう。


 「デバッファーと書いてある」


 「······まじかよ」


 俺の職業を聞いた途端、インベルがそう呟き、俺の持っていた羊皮紙を見る。


 「ライカ。お前の職業······」


 インベルが気まずそうな顔を浮かべる。


 「どうした? 何が問題でもあるのか?」


 「問題どころしゃねえよ。普通の常識も分からねえお前じゃ知らないだろうけどよ······、このお前の職業は冒険者向きじゃねえ、使い所がないわけじゃねえんだが、正直に言うと弱い」


 「どいうことだ? 俺は冒険者のことをよく分からないんだ、もっと詳しく説明してくれ」


 インベルは周りに聞こえないよう、声を潜めて説明する。


 「ああ、お前の職業デバッファーは、相手〈ステータス〉を下げて戦うサポート型の職業だ。本当なら強いはずなんだが、この職業は致命的な欠点があんだ」


 「その欠点とは?」


 「······それはな。多すぎるMP消費と使用用途の少ない職業スキルが多すぎる事だ」


 ふむ、俺には分からないがギルドの人間が言うのだから相当なのだろうな。

 1つ目のMPは流石に俺でも分かる、ゲームによくあるそれだろう。


 「消費が多いのは分かったが、2つ目の欠点を詳しく教えてくれ」


 「分かった。それでデバッファー専用のスキルなんだが、主に敵を弱体化されるスキルがほとんどだ。これだけなら欠点どころか利点でしかなかったんだけどな、一つ目のMPの大量消費のせいで、雑魚に使うには勿体なくて使えねえから難易度の高い魔物にしか使われない、それ以外の安定性がなさ過ぎてどこのパーティーも入れようとしねえんだ」


 「なるほど、つまり強敵には強いが燃費が悪すぎて強敵以外だと渋ってしまうというわけか」


 「そうだ。そのせいで本来は上位職のはずのデバッファーは、どの職業よりも使い勝手が悪くて、その使い勝手の悪さから付けられた名前が"最下位職業"下位職よりも下の職業ってことだ」


 最下位職業、そんな呼ばれ方をされれば、馬鹿にされる未来を予想するのは容易だ。


 「一応聞いておきたいのだが、この職業でも冒険者は可能なのか?」


 インベルは唇に指を当て深く考え込む。

 数分間の熟考の末、名案が浮かんだと言わんばかりにこちらを見上げた。


 「あるぞ。お前でもできる方法が。······いや! お前にしかできないやり方が!」

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