第3話 冒険者ギルドへ
さてと、仕事を探すのも大事だが、まずは宿が先だ。
「············」
困ったな、何処にあるか分からないぞ。
失敗した。爺さんに聞けばよかったな、今から聞きに行くか?
いや、それは駄目だ。それは俺のプライドが許してくれない。
最後あんなにクールに決めて出ていったのに、そんな間抜けなことはしたくない。
だとすればそこら辺の人に聞くか、それが一番だな。
少し歩いていると、酒場の入口近くで掃除をしている赤髪の少女がいた。
「掃除中すまない。宿を探しているのだが、道を教えてもらえないだろうか」
少女が俺に気が付き、素っ気ない表情で口を開く。
「宿? そこを真っ直ぐ行けばあるわよ」
「助かる。ついでなのだが、ここの酒場の料理は美味しいか?」
「料理はまあまあ、お酒は美味しいわ。早く行ってくれないかしら? 仕事の邪魔よ」
少女は淡々と質問された内容を喋り、すぐ掃除に戻った。
「ありがとう。すまない、邪魔をした」
言われた道を真っ直ぐ歩く。
にしてもサバサバとした少女だったな。
話しかける人を間違えたか?
いや、ちゃんと教えてくれるだけ良かったか。
そういえば外国ではよくチップを渡す文化があったな。
次に会ったら渡してみるか。
······なんだ?
何処からか、すすり声のような音が微かに聞こえてきた。
音の鳴る場所へと耳を傾ける。
どんどんとすすり声が大きくなっていく。
どうやら、この裏路地から聞こえるようだ。
恐る恐る裏路地を覗いてみる。
子供だ。まだ6から8歳くらいの男の子と女の子が座っていた。
どうしてこんな場所に子供が?
考えうる限り、恐らく孤児か虐待。
どうしたものか、平和な日本ではあまり見ない光景だ。
子供の一人が喋る。
「······お兄ちゃん。······お腹空いたね」
「あんまり喋るな。もうすぐ食べられるから······な?」
「······うん。ケホッ、ケホッ」
「ティル! 大丈夫か! 待ってろ、すぐ美味しいもん持ってきてやるからな」
男の子が走り出す。ドスッ! と俺の足に男の子がぶつかる。
「な、なんだよお前、どけよ! 早くしないと······」
腰に巻き付けた袋に手を入れ、そっと子供に手を添える。
「盗まれないようしっかり握っておけ」
「は? いらねぇよ! 何だよこ······れ、これっはっきン!」
驚く男の子の口を塞いで言い聞かせる。
「いいか、もう一度言うぞ。盗まれないよう何があってもソレを離すなよ、それを持って誰か信用のできる人か孤児院に行け。分かったな?」
男の子は口を塞がれたまま頭を上下に振り、女の子の手を引きすぐさま走って行った。
······はー。何をしているんだか。
見ず知らずの子供に100万円渡すほど、お人好しだった覚えはないんだがな。
残り白金貨1枚と小金貨16枚か。
自分に呆れながら所持金の確認をする。
······ん? あれ? なッ! 無い! 1枚も無いぞ白金貨が!!
ま···さ···か、さっきの子供に2枚渡してしまったのか? ハハハ。まさかな?
「············」
やってしまった······。
間違って2枚握らせてしまった。
取り返すか? 無理だな、もう見えなくなってしまった。
······はあ。まあ仕方がない、まだ何に使うか決まっていなかったからな。
アレであの子供達が救われたと思えば悪い使い方ではなかったのではないか? そう思っておこう、うん。
盗まれていなければいいが、気にしていても仕方がない。
だがまずいな、大量にあったお金がほんの数分で走り去ってしまった。
本当なら宿を取って情報収集してから仕事を探す予定だったが、緊急すぐにでも探さなければ異世界に来て1ヶ月も経たずに死亡なんてこともありえる······。
早急に解決しなければ!
とは言ったものの、なんの情報も無しに自分に合った仕事を見つけられるのかどうかは完全に運次第。
これからどうしたものか。
「どんな頼み事でもギルドへお任せ。冒険者ギルドなら魔物退治に薬草採取、小さな依頼でも承ります!」
苦悩しながら歩いていると、でかでかと冒険者と書かれた看板を持って大きな声を上げている少年がいた。
冒険者ギルドか、よく分からないがそこでなら仕事を探してもらえたりできるかもしれないな。
大声を上げていた金髪の少年に声をかける。
「少しいいか? その冒険者ギルドでなら俺に合った仕事なんかを探してくれたりもできるのか?」
「できるっすよ。でもお兄さんなら体もデカいし冒険者になってみたらいいんじゃないっすか?」
「お兄さん? 俺はもうお兄さんなんて呼ばれるほど若くないが」
「なに言ってんすか? 皺一つもない顔の人が若くなかったら誰が若いってんですか」
「え?」
会話の違和感に気づき、自分の顔を触る。
なんだかデジャヴを感じるな。
な、なんだこのすべすべ肌?!
腕は?! ガサつきがないだと······。
「す、すまない。君から見て俺は今何歳に見える?」
「どうしたんすか? いきなり変な顔して、そうっすねぇ、18歳くらいっすかね?」
18歳······。どうして俺は若返っているんだ、思い当たる点としては、やはり女神か。
そういうことは、転生する前に言ってもらわないと困る。
もしかして転生する直前で喋っていたのはこれか?
ふむ、まあ若返って損はないし大丈夫か。
それに若返ったのなら冒険者とやらになってみてもいいかもな。
「大丈夫っすか? もしかしてジョークっすか? 笑ったほうが良かったっすか?」
少年が、俺を気遣うように喋る。
「ああいや、大丈夫だ。すまない、さっき大声で魔物退治だとかなんとか言っていたが、冒険者とはどういった仕事なのか聞いても構わないか」
「おっ、お兄さん冒険者になるんすか? 楽しいっすよ! 自分のやりたい依頼を受けて魔物を狩ったり、薬草を納品したりして依頼の難しさに応じて報酬が変わるロマン溢れる仕事っす!」
楽しそうに冒険者の話をする少年。
「他には何かないのか?」
「そっすねぇ、依頼人の護衛とか、たまに来る緊急クエストとかっすかね?」
魔物の討伐、依頼人の護衛、危険な仕事な分その報酬は大きいのだろうが、いつ死んでもおかしくない仕事だ、そんなリスクを負う必要は無いだろう。
そいうえば、さっき彼が楽しいと言っていたが、冒険者なのか?
まだ高校生くらいの歳だろうにそんな危険な仕事で食っているとは驚きだ。
「こんなに質問してくるって事はお兄さん! やっぱり冒険者になるんすね! なら早く冒険者ギルドで登録しに行くっすよ!」
早とちりした少年が俺の背中を強引に押す。
「ちょ、まだ冒険者になるとは一言もっ」
「大丈夫っすよ! 冒険者になるだけならお金払うだけなんで時間もかからないっすよ!」
「いやいや! そういう問題ではっ、というか力強っ!」
↓↓↓
そうこうしているうちに冒険者ギルドに着いてしまった。
「はい! 着きましたっすよ! 奥の受付嬢に聞けば分かるんで、それじゃ俺は戻るっす。今度一緒にパーティー組みましょーねー」
「いや、だからやるとは一言もっ、······はぁ」
行ってしまった。
まだ名前も聞いていないのにあのコミュ力はなんだ?
コミュ力お化けにもほどがある。
どんな親から産まれたら名前も聞いていない相手とあんなにもスラスラ喋れるのか。
まあ、せっかく来てしまったしな、冒険者になってみるか。
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