第19話 エクサオーガ
「こ、個体進化?」
ミセリアがぽつりと呟く。
「ああ、個体進化はその名の通り、その個体が進化することを意味する。進化した魔物は以前とは比べ物にならないほどステータスが大幅に上昇し、進化する魔物によっては、厄介なスキルや称号を獲得する奴もいるらしい、今回はそうならなかっただけマシだが······」
俺はそう言って〈鑑定紙〉を見せる。
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個体名エクサオーガ:Lv1
HP︰129/68 MP︰39/15
‹能力値›
物理攻撃値……117
物理防御値……84
魔法攻撃値……31
魔法防御値……66
移動速度値……58
‹スキル›
〔召喚〕
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ミセリアはあまりの驚きに声も出せていない様子。
無理もない、既に奴はあの特異個体アルグマラージすらも上回ってしまったのだがら。
唯一の救いは俺達が削ったHPとMPがそのままだってことくらいか。
「よし! ライカ! まだ勝ち筋がなくなった訳じゃないんでしょ? 私はいけるわよ!」
ミセリアは頬をパチッと叩くと、自身を鼓舞するようにそう口にした。
本当に、本当にミセリアを勧誘してよかった。
「あるにはある、ただ、確実に勝てるとは言い切れない、それでもやるか?」
ミセリアがどう答えるのか、既に分かっていた。
が、ミセリアよりも臆病であった俺は、無意識にそう口にしていた。
だが、そんな何もできずにいた臆病な自分とは、転生したあの時に決別した。
「当然!」
「だよな」
俺は「ふっ」笑い、進化した影響でまだ動けていないエクサオーガを見つめる。
「ちゃんとMPは常時満タンにしてあるよな? 奴はもうじき動き始める、俺が引き付けている間に"あれ"を完成させておくんだ、俺がミセリアに触れたら······分かるな?」
俺はミセリアへと簡潔に作戦を説明する。
「バッチリよ! ざっと30秒は掛かるから、死なないでよ?」
俺の説明をきちんと理解しているようだ。
ミセリアには適度にMPを回復させるように指示していた、そのお陰で勝機が見えた。
エクサオーガは進化時の反動が収まった途端、真っ先にミセリアを潰しにかかる。
本当に目障りなのが誰なのか、やっと気づいたようだな。
俺は〈MP回復薬6/2〉と〈タクタの実〉を同時に服用する。
〈タクタの実〉
目眩を抑える効果を持った実。
この世界では一般的に知られている。
残りMPは27か。
よし、これだけあれば足りる。
「こい! エクサオーガ!」
俺は大きく前に詰め、短剣の柄頭で小盾を叩いてカンッ! カンッ! と音を鳴らす、〔挑発〕が発動した。
エクサオーガは強制的に俺へと標的を変える。
見た目やスキルから推察すると、奴の攻撃方法はオーガの頃とほぼ変わらないだろう。
ならば先読みで往なせば、このステータス差でも30秒間程度なら持ちこたえられる!
エクサオーガが棍棒を横薙ぎに振るう。
俺は軽く屈み、小盾で棍棒を受け流す。
予想は的中、エクサオーガはオーガの頃と変わらず棍棒で攻撃を仕掛けてきた。
エクサオーガは続けて左足を振り上げる。
その攻撃もオーガの時に一度見た、動きさえ分かれば躱すのは難しくない。
しかし、問題は読めない攻撃がきた時だ。
俺がそう思案していた瞬間、エクサオーガは手に持っていた棍棒を投げ捨てる。
身軽になったエクサオーガは、素早く俺へと詰めて殴りかかって来る。
「うぐっ!」
先読みはできなかったものの、体を捻り小盾でエクサオーガの一撃を軽減させた。
俺は強烈な一撃によって右側の壁まで吹き飛ばされる。
まずい、〔挑発〕が途切れた!
ミセリアに標的が向いてしまう!
俺はミセリアを見る。
構築に集中しているようだ。
あれでは声を掛けても無意味か。
それならばここから奴の気を引くしかない!
「〔投擲〕!」
俺は短剣をエクサオーガへと投げる。
タイミングを合わせて〔投擲〕を発動。
〔投擲〕の効果によって短剣はU字に曲がり、その進行方向にあったエクサオーガの右耳を上手く切り落とした。
まだだ! あれだけでは奴は止まらない!
俺はエクサオーガへと駆ける。
「ここだ!」
俺は〔投擲〕によって戻ってきた短剣を弾き返す。
短剣を弾き返したことでカンッ! と音が鳴る、〔挑発〕を発動した。
ギリギリ〔挑発〕の射程圏内だ。
エクサオーガの体は強制的に俺へと向く。
二度目の〔挑発〕を食らい、元々凶悪だった顔面が酷く歪む。
エクサオーガが俺に向って全速力で走る。
棍棒の攻撃はもうこない、拳が足か、そのまま突っ込んで来るか。
なんとしてでもこの攻撃は躱さなければならない。
エクサオーガが俺へと近づき、攻撃を仕掛ける。
これは······右だ!
俺は地面を蹴って左側へ飛び、エクサオーガの右拳をなんとか回避する。
そのまま前に走って最初と同じように、ミセリアとエクサオーガに挟まれる形の陣形に戻る。
よし! よしよし!
やはりそうだったか!
奴は主に右手か左足で攻撃する癖があった。
それを見抜いたお陰で、ワンテンポ奴より先に動けた。
俺はチラッとミセリアを一瞥する。
ミセリアの構築は······あと10秒といったところか。
これ以上持ちこたえられるか?
エクサオーガが再度、俺へと拳を横に振る。
俺は小盾で往なしつつ、軽く後方へ飛ぶ。
エクサオーガが突然大きく飛び込み、自身の体を大きく広げる。
俺を押し潰すつもりか!?
どうする!? もう避けれる方法は······。
「ライカ! 準備できたわよ!」
ミセリアがようやく構築を終え、そう叫ぶ。
「〔ウィンドインパクト〕!」
俺は〔ウィンドインパクト〕を即座に構築し、後方に飛びながら自身の近くで風の衝撃波を発動させる。
俺はミセリアのいる方向へ吹き飛び、足で勢いを殺してミセリアの場所で丁度止まる。
そのままミセリアの肩に手を乗せる。
「なんとか間に合ったかしら?」
ミセリアは俺へとそう口にした。
「ああ、ギリギリでな」
自傷覚悟の緊急回避······本当にギリギリだった。
「決めるぞ、ミセリア」
「了解! 【コーオペレイション】!」
おれとミセリアの体の周りが微かに青色に光る。
魔女の職業スキル、【コーオペレーション】による影響だ。
この職業スキルは自身に触れている者とMPを共有することができるという魔法だ。
これであの魔法を放つ条件が整った。
エクサオーガが立ち上がる。
「いけ! ミセリア!」
俺は声を張り上げて叫ぶ。
「〔プロメテウス〕!」
ミセリアの構築した魔法陣から凄まじい熱風が吹き荒れる。
エクサオーガは突然の熱風に驚き、一瞬の間だけ硬直する。
その硬直がエクサオーガの生死を決めた。
魔法陣から光速度のレザービームが放たれる。
超高温のレザービームにより、エクサオーガの腹部が消し飛ぶ。
〔プロメテウス:MP50〕
魔力を高密度に圧縮させ、超高温のレザービームを放つ魔法。
下級魔法の中で最も高難易度であり、下級にもかかわらず上級魔法にも引けを取らない火力を有している。
現状、ミセリアの放てる最大火力の魔法だ。
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経験値【1623】を獲得しました。
個体名ライカの現在のレベルの更新を始めます。
個体名ライカのレベルをLv7からLv9に更新。
個体名ライカの現在のステータスの更新を始めます。
称号獲得条件をクリアしました。
個体名ライカに新たな称号が授けられました。
称号獲得:《絶体絶命》
《極限状態》
統合可能 統合を始めます。
《絶体絶命》を《極限状態》と統合。
称号:《九死に一生》へ移行。
特殊称号の統合可能 統合を始めます。
《九死に一生》を《王の再来》と統合。
特殊称号:《破滅の王》へ移行。
以上 個体名ライカのステータス更新を終了します。
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個体名ライカ︰Lv9 職業︰デバッファー
HP︰36/36 MP:104/104
‹能力値›
物理攻撃値……34
物理防御値……26
魔法攻撃値……104
魔法防御値……26
移動速度値……36
‹スキル›
〔風魔法Lv1:詳細〕〔毒魔法Lv1:詳細〕
〔投擲〕〔挑発〕〔言語翻訳〕
‹職業技›
【減少魔法:詳細】
‹称号›
《破滅の王》
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称号《破滅の王》
保持者への能力値をランダムに
2つ成長倍率を3倍にする。
対象能力値:MP
魔法攻撃値
【懇願】
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