第18話 個体進化
〈魔法袋〉から〈鑑定紙〉を取り出しオーガに翳す。
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個体名オーガ:Lv9
HP︰86/80 MP︰26/26
‹能力値›
物理攻撃値……78
物理防御値……56
魔法攻撃値……21
魔法防御値……44
移動速度値……39
‹スキル›
〔召喚〕
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圧倒的なステータス。
HPが少し減っている。
おそらくガスト達が削ったのだろう。
お陰で少しだけ楽になった。
まあ、一緒に戦ってくれればもっと楽だったのだがな······。
それよりも過ぎたことはいいとして、奴の能力値は······よし、想定の範囲内だ。
自身のMPを確認する。
MP56/36
残りMPは36か。
これならばギリギリ足りそうだな。
「確認に長期戦になるだろう、〈MP回復薬〉は足りているか?」
「いつでも行けるわよ!」
ミセリアはグッと両手の拳を握りしめる。
「よし」
二人共に気を引き締める。
オーガのドスンドスンと地面の揺れる重い足音が緊張を走らせる。
俺は両手をオーガへと向けた。
「【移動速度減少魔法:消費MP20】!」
個体名オーガ:Lv9
能力値:移動速度値……29
【移動速度減少魔法】よって、奴の移動速度が10下がった。
そして俺の移動速度は30。
僅かの差だが、奴のスピードを上回っている。
あとはこれを、気休め程度にしかならないが。
「〔毒性付与〕!」
俺の持っていた短剣の刃が、淡い紫色に変色していく。
〔毒性付与:MP3〕
あらゆる物に毒を付与することができる魔法。
ランダムに1のダメージを与えることがある。
「これで準備は整った」
俺は素早くオーガの間合いへ詰める。
オーガがそれに反応し、右手に持った棍棒で反撃する。
が、紙一重で俺には当たらず、オーガの反撃は虚しく終わる。
予想通り、ちゃんと奴の"反応速度"も低下している。
以前、アルグマラージで試した【魔法防御減少魔法】を使って分かったことがある。
この世界の能力値は、その人物の筋力や体力を全て表しているのでなく、元の肉体に能力値と言う補正を掛けていることが分かった。
分かりやすく例えるのなら、日本に住んでいた一般人に、経験値を得ると"身体能力"の上がるバフがずっと掛かっている状態。
つまりデバフスキルとは、一時的に相手を本来の身体能力にまで戻せる魔法であったのだ。
そして俺の予想通り、奴は移動速度の他に反応速度までもが減少している状況。
集中力さえ切らさなければ、奴の攻撃が当たることはまずない。
俺はオーガへと肉薄し、分厚い左足に短剣を振るう。
流石の防御力だな······俺の攻撃力ではかすり傷程度にしかならないか。
オーガは俺を蹴り飛ばそうと左足を力一杯に蹴り上げた。
俺はそれを軽々と小盾で往なしつつ、オーガに一撃与える。
1分間ほど同じ要領でオーガの動きを読みつつ、狙いやすい足を斬り続ける。
突然、オーガが立ち止まり、不審な動作を取り始めた。
「〔ファイアアロー〕!」
その時、ミセリアの放った火の矢がオーガの右肩に突き刺さる。
低級魔法であの硬い皮膚に刺さるとは、称号の補正も相まって、低級魔法ですら凄まじい火力だ。
オーガはミセリアをギロッと睨みつけて走り出す。
「来たわよ!」
「ああ! 〔ウィンドインパクト〕!」
俺は〔ウィンドインパクト〕をオーガの顔面付近へ飛ばす。
魔法がオーガの耳元に近づいたその瞬間、風の衝撃波がオーガの耳に襲いかかる。
〔ウィンドインパクト〕によって、オーガは一瞬ふらっと体を揺らした後、標的を俺へと戻した。
これがミセリアの役割の1つ、オーガに不審な動きがあった場合、魔法を放って一時的に気を引くというもの。
そして〔ウィンドインパクト〕で再び俺へと標的を戻す。
俺は再度オーガに肉薄し、短剣で足を斬りつける。
最初の油断していた時と比べ、現在はまったく攻撃の当たらない俺達に対して激怒しているようだ。
こうなると後は簡単だ、怒って思考の鈍ったオーガに為す術はない。
あるとすれば······。
再度オーガはミセリアへと走り出す。
「〔ウィンドインパクト〕!」
先程と同じ方法でオーガの耳元に風の衝撃波をぶつける。
が、オーガはそれに構わずミセリアのいる方向へ走り続ける。
「まあ、それしか思いつかないだろうな」
オーガの考えを読むとするならば、まず俺は自分よりも素早く、攻撃が当たらないせいで一方的にダメージを食らってしまう。
ならばとミセリアを狙ってみるも、俺の〔ウィンドインパクト〕が目障りで再度標的を戻す。
それの繰り返しだ。
そうして最終的に行き着くのは、自分よりも確実に遅く、ひ弱そうな女をゴリ押しで狙うしかなくなる。
だが、それで殺せるのは"ミセリア"以外の魔女だけだろう。
ミセリアには最後にもう1つの役割がある。
激怒したオーガは棍棒を振り回してミセリアに迫り来る。
「今だ、ミセリア!」
俺は声を張り上げて叫ぶ。
「〔フレイムランス〕!」
ミセリアの放った炎の槍はオーガの胸部を捉える。
炎の槍はオーガの胸部に風穴を開け、そのまま奥の壁にまで突き刺さる。
〔フレイムランス〕は〔ファイアアロー〕の上位互換であり、〔火魔法Lv5〕以上の者にしか使えない魔法だ。
激怒し、思考の鈍ったオーガには、あれを回避する余裕はなかっただろうな。
これは〔火魔法Lv6〕であるミセリアがいてこそ成り立つ戦法だ。
俺はオーガの残りHPを確認する。
個体名オーガ:Lv9
HP:86/20
胸部に風穴が開いてもまだこれほど残るか。
だが、残りHP20ならば魔法でゴリ押しすれば倒せるな。
「まだ生きてるの? しぶといわね」
ミセリアは手で額の汗を拭き、そう口にした。
「あの怪我ではもう動けないだろう、魔法でとどめを刺すぞ、ミセリア」
俺はミセリアのいる場所へ戻り、オーガに狙いを定める。
その瞬間、オーガの周りから数十個ほどの魔法陣が現れた。
「これは······奴のスキル、〔召喚〕か」
「〔召喚〕ってもしかして······」
ミセリアほ何か嫌な予感を想像している様子。
「そうだ、今から奴の手下とも相手しながら戦うことになるだろうな」
「そんな······! あんな数と同時に戦うなんてライカ一人じゃ無理よ!」
魔法陣からゴブリンナイトやゴブリンウィザードが〔召喚〕される。
少し面倒な状況になったな······。
今までの方法はもう通用しない。
算段がない訳ではないが、全て危険が伴うものばかり。
俺がそう思案していると、突然オーガが〔召喚〕した手下を殺し回る。
「えっと······どうゆうこと?」
ミセリアは目の前で起きている光景に理解が追いついていない様子。
俺も啞然とその光景を眺めていた。
ふと、俺の脳裏に過る。
「まさか······! ミセリア! 今すぐに1体でも多く手下を減らすぞ!!!」
俺は即座に魔法を構築する。
「え、え? でも、倒してくれてるのよ? それにあの怪我じゃどうやってもいずれ死んじゃうわよ?」
ミセリアは俺の慌てように困惑しながらそう口にした。
「違う、奴はにはまだ生き残る手段があったんだ」
オーガが手下を殺し終えると、突然苦しみ始める。
全身が紫色に変色し始め、角や牙が伸びると同時に、体がボコボコと大きく膨れ上がる。
俺がオーガのステータスを確認すると、〈鑑定紙〉が大きく書き換えられていく。
間に合わなかった······。
「すまないミセリア、最悪の事態だ······」
「最悪の事態?」
ミセリアは不気味に膨れ上がるオーガを横目に、そう口にする。
ボコボコと膨れ上がっていたオーガの体は、蒸気を放ちながら萎んでいく。
蒸気が放ち終わると、先程までの赤色のオーガはいなく、更に巨大となった紫色の鬼がそこにはいた。
「個体進化だ」
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