第17話 【牢獄の主】
【鬼荒らし:最下層】
俺とミセリアは一旦休憩を挟んで最下層である五層へと下り、最奥部を目指して探索を進めていた。
「ふぅ、これで倒したゴブリンの合計は61体、ゴブリンナイトは17体か、全て換金すると······金貨5枚と小金貨8枚くらいにはなるだろう、これだけあれば装備を新調していいかもしれないな」
円換算にすると、58万円か。
一気に強い装備に変えることはできないが、ワンランク上の装備なら二人同時に揃えられるだろう。
普通の服ならばもっといい物が買えるが、冒険者の着る装備には補助魔法が掛かっており、装備の素材もそうだが、装備に付いている補助魔法によっても値段が上がり下がりする。
例えば、物理攻撃値+5の鉄の短剣を買うのなら、金貨5枚以上は最低でも必要だろうな。
俺達が今揃えられる装備は、何らかの補正+1〜2が乗った装備ぐらいか。
「そんなに!? 冒険者って稼げるのね······酒場で働いてた時なんて、一日頑張っても小金貨1枚にもならなかったのに······」
ミセリアは目を皿のようにしてそう口にする。
「いつ死ぬかもわからない仕事だからな、必然的に他の仕事よりも稼げるだろう。だが、流石にFランクでここまで稼げるような仕事ではないはずなのだがな······」
そう、この数の魔物をFランク冒険者二人が一日で倒せるはずかない。
全ては俺とミセリアの称号、《王の再来》と《勤勉の魔女》からなる恩恵のお陰である。
この称号がなんなのかは分からないが、明らかに異質な称号であることは確定している。
「そしてここが、このダンジョン【鬼荒らし】の最奥部、【牢獄の主】のいる部屋か」
【牢獄の主】
ダンジョンの最奥部に存在する魔物、ゲームなどでお馴染みのボスである。一度入ると出られないことから、牢獄に閉じ込められた主、略して【牢獄の主】と呼ばれている。
ダンジョンの怖い所は、この【牢獄の主】のいる部屋であり、主を倒さなれば出られないらしく、強制的に戦いを強いられるそうだ。
「大きい扉ね、この中に【牢獄の主】がいるんでしょ?」
「ああ、今の俺達では到底太刀打ちのできない魔物がいる、が、扉を開けて中に入らなければ、【牢獄の主】を見ることならできるぞ」
俺はそう言って、眼前にそびえ立つ巨大な扉を開く。
「えぇ······本当に大丈夫なの? それ」
「心配ない、中にさえ入らなければ襲われることはない」
俺とミセリアは恐る恐る部屋の中を観察する。
「ぁあああぁぁ!!! やべぇぞどうすんだよ!!!」
「ころ、殺される!!! ガストォ!!!」
ガストの取り巻き二人がガストに助けを求める。
「おおお、俺にどうしろって言うんだよぉ!!!」
「ガスト!?」
俺達が部屋の中を除くと、【牢獄の主】であるオーガに殺される寸前のガスト率いる三人組がそこにはいた。
「どうしてお前達が【鬼荒らし】にいるんだ!?」
どこからか情報を入手して来たのか、イェクルと俺達の会話を聞いていたのか。
理由は分からないが、ガスト達に相手できるダンジョンではないことは確かだ。
「て、てめぇ最下位職業のゴミクズ······」
俺を見るや否や、私怨の入った眼差しを向けるガスト。
「扉が開いた! おいガスト! 早く出るぞ!」
杖を持った男がガストを必死に引っ張り出す。
「た、助かったぁ」
斧を持った男はやっと部屋から出られ、安堵している様子。
ちなみにミセリアは俺の背中に隠れて、終始ガスト達を睨みつけている。
気にしていないように見えたが、ギルドでのガスト達の会話を聞いて多少は苛立っていたようだ。
「それで、どうしてお前達がここにいるんだ?」
「はっ、最下位職業のカスなんかに言う訳ねぇだろ」
ガストは俺に負けたことをまだ根に持っている様子。
この手の輩は決闘程度では負けを認めてくれないから厄介だな。
まあ、それはいいとして。
ここからこの三人を連れてどう抜け出すか······。
「まあいい、とりあえずこのダンジョンから抜け出そう」
俺は嘆息混じりにそう口にした後、扉からオーガが近づいて来ていることに気づく。
「ガスト! そこから離れろ!」
俺がそう叫んだ瞬間、オーガが右手に持っていた棍棒をガスト達に振り下ろす。
「〔ウィンドインパクト〕!」
俺は〔ウィンドインパクト〕を放ってオーガの棍棒の軌道をずらし、間一髪でオーガの一撃を防いだ。
なんとかギリギリで間に合ったが。
これはまずいことになったぞ······。
【牢獄の主】は一度敵と認識してしまうと、その敵が死ぬまで追いかけ続けるとイェクルに聞いた。
と、言うことは······。
このオーガを倒さない限り、ガスト達も含めて全員が全滅してしまうだろう。
「マジかよ······。は、早く逃げるぞお前ら!」
ガストは杖の男と斧の男を起こす。
「待てガスト! 今逃げるのは得策ではない!」
「うるせぇ! 逃げねぇーならてめぇはそのオーガと一緒に戯れてろ!」
ガストはそう言うと、俺とミセリアを蹴飛ばして走り去る。
「なっ!」
ガストの奴、俺とミセリアを囮に······。
しかもここは、入ってしまった······。
【牢獄の主】の部屋の中に。
【牢獄の主】は部屋にいる敵を真っ先に攻撃する習性を持つ。
これが何を意味するのか。
そう、攻撃する優先順位が変わってしまったのだ。
ガスト達から俺とミセリアに······。
「いたっ!」
ミセリアは尻もちをつく。
オーガはミセリアへと向けて棍棒を振り掛かる。
この距離では軌道をずらしても無意味だ。
〔挑発〕も瀕死かピンチ時の場合には効かない!
「ミセリア! 〔ウィンドウォール〕!」
ミセリアとオーガの間に風の壁が展開される。
展開した風の壁はオーガの一撃に耐えきれずに破られ、オーガの一撃がミセリアへと迫る。
「〔ファイアシールド〕!」
ミセリアは咄嗟の判断で〔ファイアシールド〕を展開する。
いい判断だ!
が、〔ファイアシールド〕であの一撃を防げるか······。
強烈なオーガの一撃は〔ファイアシールド〕を破ってミセリアへと襲いかかる。
が、咄嗟に放った〔ウィンドウォール〕と〔ファイアシールド〕によって威力が弱まり、ミセリアの魔女帽子を掠る程度で防ぐことに成功した。
「無事か!?」
俺はすぐさまミセリアに駆け寄る。
「な、なんとかね」
あの窮地を脱するとは。
「流石だミセリア」
「と、どうってことないわよ! それよりも、どうやってあの怪物から逃げるの? 走る?」
ミセリアは立ち上がりながら、そう口にする。
「いや、入る」
俺はミセリアを抱え、素早くオーガの横を通って部屋の中へと入る。
「え!? ちょっとちょっと! 扉閉まっちゃうわよ!? 死んじゃうわよ!?」
ミセリアは俺の意味不明な行動に混乱している様子。
広い部屋の中央まで移動する。
「今から奴と戦うぞ、ミセリア」
俺はミセリアを下ろしてそう口にする。
「で、でも到底太刀打ちできないって言ってたのに、どうして!?」
「確かにそうは言ったが、勝つ算段が無いとは言っていないぞ?」
俺は短剣と小盾を構える。
オーガがゆっくりとこちらに近づく。
逃げられない獲物に対して油断している様子。
「はぁ······それならまあいいわ、早く説明しないと来ちゃうわよ?」
ミセリアは大きく溜め息をついて、そう口にする。
「すまない、戦うしか生き残れる方法がなくてな」
走って逃げた場合、前から現れたゴブリンに足止めされて追いつかれる。
あの道で戦うにしても、5m程度の幅ではいずれ追い込まれるだろう。
現状、最善はこの部屋の中で戦うことなのだ。
俺はミセリアへとオーガを倒す算段を説明する。
「ふーん、私はあんまりすることないのね」
「いや、ミセリアがいるからこそ、この作戦が生きるのだ」
オーガ······推定E級の魔物。
とてもF級冒険者の勝てる魔物ではない。
が、俺とミセリアならば勝てるという確信がある。
「どうせならここで経験値大量ゲットと行こうか」
【懇願】
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