第14話 Fランク冒険者
「へへっ、一瞬でのしてやるよ」
ガストが剣を抜く。
「ライカ、〈MP回復薬〉くらいは飲んどきなさい」
ミセリアは袋から取り出し、そう口にする。
「大丈夫だ、この決闘で魔法は使わない」
対人での近接戦闘はできる機会が少ないからな。
色々と試しておこう。
そう考えるとラッキーだったのかもしれない。
「随分と余裕そうじゃねーか、知ってるぞ? お前デバッファーなんだってなぁ? まさかあの最下位職業さまと戦えるなんて思わなかったぜ、お望みなら手加減でもしてやろーか?」
決闘を観戦しに来た周りの冒険者たちに聞こえるよう、声を上げて嘲笑うガスト。
それを聞いて周りの冒険者たちが俺を見てガスト同様に嘲笑う。
新人育成以来、俺の職業がデバッファーであるという噂が少しずつ広まってきている。
俺の職業を知っていたのもあって、この決闘を承諾したのだろう。
「別に手加減をするもしないもお前の勝手だが、俺は魔法を使う気はないから安心していいぞ」
「ちっ、舐めやがって、それなら俺も使わないでぶっ殺してやるよ!」
ガストは俺へと剣を向け、そう口にする。
「殺したら負けるのはそっちの方だが、いいのか?」
「うるせぇ! さっさと始めるぞ!」
ガストの言葉にインベルが反応する。
「よし、じゃあ行くぞ。決闘······開始!」
開始の合図と同時にガストが詰め寄る。
俺は小盾と短剣を構えてガストに肉薄し、当たらないよう短剣を向ける。
ガストは俺の予想外の行動に驚き、咄嗟に後方に飛んで剣二本でガードの構えを取る。
まさか魔法職のデバッファーが詰めてくるとは思わなかった様子。
ガストの職業はおそらく双剣使い。
物理攻撃値と移動速度値の高い職業だ。
この程度の攻撃では、回避されるのはわかっていた。
が、この短剣はブラフであり、俺は更に前へ詰めて小盾でガストの脇腹を殴る。
「うがっ!!」
ガストは脇腹を強打し、手で痛みを抑える。
双剣使いは防御値の低い職業、ガストにとってこの一撃は重いだろう。
俺は間髪入れず、ガストに当たらない程度で短剣を投げる。
ガストはその短剣に過剰に反応し、大きく隙を作る。
俺はその隙を見逃さず、ガストの腹部に蹴りを入れた。
「ぐあっ!! つぅ······、痛ぇえ······、クソがぁ······」
ガストは地面に転がり、腹部と脇腹を抑えて悶え苦しむ。
やったのは俺なのだが、流石に可哀想に見えてきた······。
「もうこれで分かっただろう、俺の勝ちでいいか?」
俺は倒れたガストに向けてそう口にした。
ガストが俺の言葉に反応する。
「ふざ、ふざっけんなよカスが! この俺が最下位職業のゴミなんかに負けるわけねーだろ!」
ガストはそう言った後、俺に向かって高く飛び、剣二本を振り上げる。
これは······スキルを使う気か。
それにこの動作はおそらく"あのスキル"。
ガストの剣からジリジリと音が鳴る。
「【避雷双剣】!」
ガストの剣から雷が迸り、それを俺へと振り下ろす。
俺は迫りくるガストに怯まず、前へ詰める。
ガストへと肉薄し、小盾でガストの胸部に重い一撃を与える。
「がはっ!!!」
ガストは訓練所の壁へと吹き飛んでいった。
壁に頭をぶつけて気絶してしまったようだ。
ふぅ、想定していたよりもかなり早く終わってしまったな。
もっと試したい通常スキルが山程あったというのに······。
俺はこの世界に来て間もない、故に自身の生活のため、情報収集と様々な知識を蓄える努力を惜しまなかった。
その1つに俺は"全職業スキル"の暗記をした。
流石に職業スキル以外のスキルは多すぎて暗記しきれていない。
なんて言ったって通常スキルや通常魔法は職業スキルの10倍はあったからな。
見た瞬間、集中力が切れた。
ガストの使った職業スキル【避雷双剣】は、攻撃をする前に高く飛び、地面に近づくまで雷を溜めなけばいけないスキルであり。
威力は高いが双剣使いの長所である、手数の多さを消してしまう難しいスキルである。
ガストの敗因は少しのダメージも当たらないよう、回避し続けていたのがよくなかった。
「これでわかっただろう、それじゃあインベル、証明もできたことだし換金と昇格を頼む」
俺は投げた短剣と小盾をしまってそう口にした。
「あ、ああ、わかった」
インベルや周りの冒険者たちは口を大きく開け、唖然としている。
インベルもここまであっさり終わるとは思っていなかった様子。
正直、俺もこんなに早く勝負が決まるとは思わなかった······。
↓↓↓
俺とミセリアは素材の換金を終え、無事にF級冒険者へと昇格して冒険者ギルドを出た。
「小金貨24枚と銀貨5枚。使った〈アイテム〉などの値段を考えると少し微妙な気もするが、まずまずだな。もう少し効率のいいダンジョンか依頼に行きたいところだ」
せっかくF級冒険者になったのだし、FかE級の依頼を探したいのだが、ギルドにいい依頼はなかったからな。
やはり名有りのダンジョンに入るのが、一番手っ取り早いか?
「それなら知り合いに情報通の人がいるわよ?」
俺が思案していると、ミセリアがそう口にした。
「それは本当か! 今すぐにでも会いたいのだが大丈夫だろうか」
「今からでも会えるわよ。私も話したいし、今から行きましょ!」
ミセリアはそう言って、その人がいる場所へと向かって歩き始めた。
↓↓↓
「着いたわよ、絶対にいるから早く入りましょ」
ミセリアの向かっていた場所とは、以前も来たことのある、ミセリアが働いていた酒場であった。
なるほど、酒場で知り合ったのか。
ここなら色んな人が来る、情報通な人がいてもおかしくはないな。
「ミセリア。酒場で情報通ということは、情報屋なのか?」
俺は疑問を浮かべ、そう口にする。
「見ればわかるわよ、本当になんでも知ってるから!」
ミセリアはどこか自信満々な表情であった。
情報屋とかではなさそうだな。
だとするとここの常連か?
「あっ、いたいた、イェクルさーん」
ミセリアは元気な声で口にする。
「ん? ミセリアじゃないかい、どうしたんだいこんな時間に」
料理を運んでいた店主が振り向く。
ミセリアの言っていた情報通な人とは店主のことだったのか。
確かに店主なら客の話を聞いたりもするだろうし、色々と知っているかもしれないな。
「ちょっと聞きたいことがあって、いいダンジョンの情報とかって今あるかしら?」
「ダンジョン? そうだねぇ······」
イェクルが思案していると、注文を待っていた客から「おい! 飯がおせーぞ!」と叫ばれる。
「今行くから待ってな! ちょっと行ってくるよ」
イェクルが料理を運びに行く。
「かなり気の強そうな人だな」
「そうでしょ? イェクルさんはすごくいい人で皆のお母さん的な存在なのよ!」
ミセリアがそう口にすると、イェクルがこちらに向って歩いてくる。
「誰がお母さんだい、あと横のは前にミセリアといた男かい?」
「見ていたのか、ミセリアとパーティーを組んでいるライカだ」
俺は少し前に出てそう口にした。
「頑固者のミセリアを口説くなんてやるねぇ」
イェクルが俺は見ながらそう言ってニヤニヤとしている。
「くどっ!? そんなんじゃないわよ! 二人の学費を払ってくれてたお礼にパーティーになっただけよ!」
ミセリアは慌てて訂正する。
イェクルはウィルとティルを知っているようだ。
だからあの時、酒場の近くに二人は座っていたのか。
それにしても、ミセリアは心を開いた相手にはよく喋るな。
「二人は学校に行ったのかい、ならかなり払って貰ったんだねぇ」
イェクルは俺を見ながらそう口にする。
「そうなのよ、ライカはすごいのよ! あの硬いアルグマラージもスパッ! って真っ二つにできるし!」
ミセリアは手で表しながらそう言う。
「すまない、そろそろいい情報がないか聞きたいのだが······」
このまま止めなければ永遠と話していそうだな、この二人。
「いやーすまないねぇ、で、ダンジョンだったかい?」
「ああ、俺もミセリアもFランクになったのでな、もう少し背伸びをしてもいいかと思って探していたんだ」
俺とミセリアは称号のお陰で一部能力値が人並みから外れているからな。
通常よりも早く他のダンジョンへ移っても問題はないだろう。
「あるにはあるんだけどねぇ、【鬼荒らし】ってところなんだけど、知ってる人間もあんまりいないだろうし、ちゃんと準備して最下層にさえ行かなければ死にはしないだろうけど······」
イェクルは声を潜め、周りに聞こえないようそう口にした。
「【鬼荒らし】か、詳しく聞かせてくれ」
【懇願】
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