[乙女ゲームエンド]読まなくても大丈夫です※今後改変あり
私はどこか少し違う人に出会った。
その日は、珍しく友人達が皆用事で忙しく一人でいた。
私は何もする事がなく暇を持て余していたので、取り敢えず学園の隅っこでブラブラとしていた。
丁度学園の最も端の、誰も寄り付かないであろう何も無い庭へと来た時だった。
誰もいないと思っていたそこには、数人の先客がおり、
その中に一際目立つ人間がいた。
艶々とした薄桃色の髪は腰辺りまで伸びていて、背丈は周りの女と比べると小柄で、可愛らしい印象を受ける。
そいつは、周りと囲まれるような形で話しており、その光景を見て昔幼い頃に遊んでいた『かごめかごめ』を思い出した。
私の数少ない友人達のうち、一番大人しいやつに不意打ちで目隠しをし、そいつの周りをぐるぐると回る。
それが何故かとても楽しい。
時々、後ろに回ったのが私だとバレる時は悔しいが、それもまた面白い要素の一つである。
この年齢になり、もう遊ぶことは無いと思っていただけに、もう一度やりたいという気持ちが湧き出てきた。
私は必要以上の行動をしてはいけないと言いつけられていたのだが、我慢ができなかった。
興奮を抑えながら早歩きで近付く。
段々と話し声が大きく聞こえてきた。
どうやらだいぶ盛り上がっている。
「おい、おまえら。」
私の声に反応したのか、バッとこちらへ振り向いた。
すると、どんどん真っ青になっていった。
(なんだ?こいつら急に調子が悪そうになったぞ。)
「おまえらどうした。顔が青いぞ。大丈夫か?」
「ヒッ…。申し訳ありませんでした!!」
突然真ん中の人間を取り残して、争うようにして走り去ってしまった。
(あいつら…本当に人間か?人間の女にしては足が速すぎるな。)
彼女たちの遠ざかっていく背中を眺めて
いつか競争してみたいな、と暢気に考えていた所で、
私は重大な問題に気が付いてしまったのだ。
彼女らがどこかへ行ってしまった事で、二人しかいない。
それはつまり、かごめかごめが出来ないということだ。
気付いた時点で彼女らの姿はもう見えなくなってしまった。
下手に探そうすれば迷子になる可能性が高くなってしまうので、泣く泣くかごめかごめを諦める他なかった。
「なんてことだ、私の楽しみが…。かごめかごめが…。」
一人悲しく呟いていると、
「あの…ありがとうございました。」
と一人残った人間にお礼を言われた。
「そうか、どういたしまして。」
(よく分からないが私はどこかで良い事をしたのか。)
だが、そんな事は今はどうでも良いのだ。
「それで、どうする?」
「え…」
「私とお前しかもうここに残っていないぞ。今から人を増やそうにも周りに誰もいないし…。」
「あの…どういうことですか?」
「どうも何も、お前さっきあいつらとかごめかごめで遊んでただろ。私も混ぜて貰いたかったのに。」
「…。」
この際かごめかごめじゃなくても良いから、何か遊ばないと気が済まない。
だが、二人で遊べる遊びは何かあっただろうか。
鬼ごっこは私たちの身体能力を比べると、圧倒的に私の方が勝っているだろう。
いや、しかし先程の彼女らのスピードなら良い勝負になる。
もしかしたら、こいつにも同じスピードが出せるのではないか…?
「なぁ、お前はさっきのやつらと同じスピードを出せるか?」
「えっと…無理ですね。」
微かながらにあった希望も打ち砕かれてしまったか。
かくれんぼという手は、そもそもこのなにもない庭では隠れようもないので無理な話だ。
私の中の二大定番遊びは、この状況に対応しきれなかった。
軽々と突破されてしまった2つに代わる名案は、私の内から出てくる事はなかった。
「困ったな、これは大問題だ。お前、何かないか?」
「………すみません。特には…。それと、さっきのはかごめかごめじゃないです…。」
「?!!!」
なん…だと……。
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衝撃的な事実を聞いて、数分固まってしまった。
「だが、かごめかごめじゃなければ何をしていた?」
「あっ意識が戻られたのですね。…あれは、少しばかり注意の様なものをされていたのです。」
「注意?お前何か悪い事でもしたのか?」
こいつの雰囲気からは、悪い事をするような人間には感じられないが。
人は見かけによらないというやつか。
「私自身は悪い事をした覚えはないんです。けど他の方からみれば、悪いことだったようで…。」
「お前はあいつらにお説教されていたのか。」
こいつの気持ちはよく分かる。
私も悪事をしていないのに、何故か怒られる事が何度もあった。
「そういうのはな、バレなければいいんだ。」
「バレないように…ですか?」
「そうだ。同じ事をすると更に長いお説教。最悪お仕置きが待ち受けることさえある。だからといって止めることは出来ない。止める事を望んでいないからな。しかし目を見るのは嫌だ。ならば、バレなければいいんだ。」
「なるほど!バレなかったら、彼女らにとって悪事をしている事にはならないからですか。参考になります!」
「ふふ…。多くの危機を乗り越えた私だからこそ導き出せる答え。大いに参考にしろ。」
「はい!ありがとうございます!」
「んむふふふふ」
私のアドバイスが彼女の心に響いたようだ。
良い事をすると気分が良くなる。
「それで、だ。話が逸れてしまったが二人で出来る遊びが思いつかない。どうしたものか。」
「まだ遊ぶおつもりだったのですか?!」
「当たり前だろう。私の身も心も今は遊びたいと悲鳴をあげている。」
今更何かしないという選択肢は私の中にはない。
それ程までに、遊びは私を支配しているのだ。
「うーん…。一応いくつかありますが…。」
「ほんとうか?どういうやつだ、全部教えろ。」
私が知らないものがいくつもあるとは…。
どんなものか、興味を惹かれる。
必ずや全てを掌握し、いつでも実行できるよう深く、隅々までを記憶しなければ…。
そう決意した私は、メラメラとこれから教えられる遊びの数々に闘志に似た何かを燃やした。
「えっと、まず1つ目が…。」
その後だるまさんが転んだというものや、ひっつき虫で雪合戦のような事をした。
最初はルールの説明を聞きながら四苦八苦していたが、二人で騒いでいるうちに楽しさが心を支配していった。
そうして久々の遊びにはしゃいでいるといつの間にか夕方になっており、夜が近付いていた。
「ん、もうそろそろ帰らなきゃならないか。」
「いつの間に…。時間はあっという間ね。」
遊んでいる内にこいつからは敬語が抜けていた。
今の敬語がない方が親しみが湧いて心地良い。
「そういえば、言ってなかったわね。
私はフェリス・セルネデウーよ。貴方、例の怖いご令嬢って噂の人でしょ?全然噂と違っててびっくりしちゃったわ。まぁ、一応だけど名前教えて?」
そういえば、あんなに散々遊んでおいてまだ自己紹介もしあっていなかっな。
というか、怖い令嬢とはなんだ。
私は誰かに怖がらせることなんてあんまりしないぞ。
不本意な噂に少し憤りを感じながら、私は自分の名前を口にした。
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「ふべぇぇあ…」
すっかり日も暮れて、今はもう寝る時間になった。
私はベッドにぼすんと大の字でダイブした。
激しく体を動かしたのでだいぶ疲れたが、今日はとても楽しくていい日だった。
一人でずっと松ぼっくりでタワーを作ったり、くっつき虫でタワーをアレンジするのも楽しいが、やはり寂しい。
なので、こうして遊んでくれる相手がいてくれたのはとても嬉しいのだ。
フェリスには感謝しかない。
それにしても、本当に久々だったな。
いつからか、他の親しい友人は激しい運動を伴う遊びに付き合ってくれなくなった。
正確には、その遊びのせいで怪我をしないためだが。
一人だけ付き合ってくれるやつもいるにはいるが、そいつは騎士になる為に訓練をしているのでどうしても遊びの内容がどうも遊びじゃない。
なのでこの懐かしい感じはとても久しぶりで、また友人達と今日のように遊べないかな、とすこししんみりしてしまう。
フェリスとも、友達になるほど親しくならなくてもいいから、すせめてもう一度だけでも話したい。
今日一緒に遊んで分かったことだが、彼女はだいぶいい人であるのだ。
なので、人とは最低限の接触を…と言われても、どうしてもと思ってしまうのだ。
明日か明後日ぐらいには会えないかな…。
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私が捕まってからどのくらい時間が経っただろうか。
以前はただの令嬢であり、今は罪人。
しかし、私には何か罪を犯した覚えはない。
こうして捕まってしまうほどの罪はないのに。
朝、ハネた髪をメイドに長時間かけて整えてもらう。
そして、朝食をお腹いっぱい食べる。
学園へついたら、難しい勉強を眠気と戦いながら
頭に詰め、昼食を食べて、また難しい勉強をする。
たまに優しくて愛おしい人、しっかり者の綺麗な友人、暑っ苦しいけど面白いやつと駄弁ってお茶会をして。
そんな、平和な日常を過ごしていた。
なぜ私にこんな罰が下るのだ。
力が入らない手を天井に伸ばそうとして、腕があげられずに壁に落ちる。
脱力感と痺れを抱えた身体をおこして立とうとして、足が踏み出せなくて身体ごと地面へ落ちる。
そんな事を何度も何度も繰り返して、今日を迎えた。
今日は私がこの部屋から出る日だ。
それすなわち、処罰を下される日。
「もうそろそろか……。」
決心どころか納得すらしていないのに、大人しく現実を受け入れて諦めるような素振りをする自分に嫌気がさす。
本当は泣き叫びたい、自分の無実を暴れてでも主張したいはずなのに。
諦めてないはずなのに、身体は動かない。
それは、薬のせいかそれとも、私が最後に見た光景のせいか。
私が最後に見た光景は、
人は、今まで見たことのない形をしていた。
ある者は、私を蔑む表情を浮かべ、醜い言葉を吐き捨てていく。
またある者は、私に怯えた表情を見せていた。
ただ、顔色を悪くし震えていた。
こんな人たちを見るとは思わなかった。
私の知る人は、皆一喜一憂するが、それでも
笑っているのだ。
訳のわからないと呆然としていたうちに数名の兵士に囲まれ、押さえ込まれた。
口元に布のようなものを押し当てられ、力が入らなくなる。
意識を手放す直前、集団の奥の方に見覚えのある姿が見えた。
何故かその姿が頭から離れない。
そいつの顔色が他と比べて、悪かったからか、それとも一度だけ話した事があったからか。
もしくは、私にしては珍しくすぐに忘れなかった人間だったからか。
(やっぱり頭を使うことは苦手だ。)
自分にずっと問い掛けても答えが見つからない問題から目を逸らす為に、私は頭を振った。
今、家族はどうしているのだろう。
友人たちは何をしているのだろう。
彼らの顔を思い出すように目を瞑ると、頭の中には
満開の笑顔が咲き誇った。
皆、私の無実を証明するために頑張ってくれた。
けど、私が犯人であると裏付ける確固たる証拠が次々に発見され、どうしようも無かった。
母様の泣き声と蒼白い顔、そして放たれた言葉が脳裏に焼き付いている。
母様は気が弱かったけれど、決して暴言を吐く人でも、誰かを憎んだり嫌悪する人じゃなかった。
そんな人が、「許さない。貴方達を呪い殺してやる。」だなんて大声で言ったのだ。
あぁ、私はなんでここにいる?
母様の言葉を聞いて、思った。
こうして母様までもを変えてしまう事などしていない。
目を閉じて思いに耽っていると、固く閉ざされていた扉を開く音が聞こえた。
(兵士か…。)
きっと、これから私をあの場所へ連れて行くための
馬車へ乗せるために入ってきたのだろう。
これから始まるであろう地獄に恐怖を覚えながら
ゆっくりと目を開いた。
もしかしたら、誰かが助けに来てくたんじゃないか?
なんて、都合のいい妄想をすこししてしまった。
そんな事が起こるわけもなく、目に入ってきたのは今一番見たくなかった鎧だった。
全身を鎧で固めた兵士が私を取り囲む。
そして、強制的に歩かされた。
閉じ込められていた部屋から出て、数分歩かされた
先には、美しい花園があった。
暗い空は花々を暗くしている。
それでも花は色を無くすことなく鮮やかに咲いている。
それは歪に混ざることなく、すべての花が1つの色を
つくりあげているようにすら感じる。
まるであの花畑のようだった。
私が生涯で一番愛する花畑、そこは私の人生を彩った最初の場所。
もう二度と見れないのに、こうして最悪な時に似たものを見せるなんてなんと残酷か。
(今は夜だったのか。今夜は新月だな…。)
月は色々な形を見せる。
真ん丸とした月、少し欠けているけれども強い光を
放ち続ける月、半分になった月、大部分が欠けた儚い月。
毎日変わっていく形がまるで生きているようだった。
毎夜私を照らしていた月は、今夜にはなかった。
私はそれが悲しく、少し嬉しくもあった。
馬車に乗せられ、長時間揺られる。
目的地に近づくに連れ、身体の中に炎が渦巻いている
感覚に襲われていく。
(私はあと、どの位生きていけるのだろうか…。)