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Vibration Nancy

「兄様のおバカジジイー!!!」

「なんじゃとこのおたんこなすどアホー!!」

「落ち着いてくださいぃ!落ち着いてくださいいぃ!」



今日は良い感じに曇っている日。

ふわふわな芝生の上でゴロゴロ日和といきたい所だ。


しかし、そんな最高な日であるというのに、今の気分は最悪だ。

それもこれも兄様とこの吸血鬼の身体のせいだ。


「いいもん!母様も私のこと可愛くて良い子って言ってたもん!」

「母上の言う事真に受けてるだけで充分アホであろうが!やっぱりおたんこなすどアホじゃ!!」

「言ったな!こんなとこ、殺される前に出てってやる!兄様のダイナミック女の子ーっ!」

「あっこら!出てったらお前どうやって血を飲むつもりじゃ!ホントに死ぬやも知れぬぞ!」

「お待ち下さいお嬢様ぁぁぁ!!」


兄様が何かいっていたが、聞こえない事を良い事に無視をした。

お世話になったナンシーには悪いが、ここは出て行かせてもらおう。


あんな不味い血を定期的に摂取していては、近い将来必ずショック死する!

それなら、あんまりお腹は膨れないけど多少は生きていける動物の血でも飲んで生活するのみである。


どこに行くかも決めずに私は屋敷を飛び出した。


なぜこんな事になったかというと、時は数十分前に遡る。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


爽やかなそよ風が髪をなびかせる時。

朝食を食べ終わると、気持ち良い眠気が私を夢へ誘う。

私は朝日に照らされながら、惰眠を貪るのだ。



そう、本来ならば。

いつもの私ならここで使用人から服を借りて気持ちよく睡眠に入るのだ。

しかし、今の私はそんなことが出来るだけの余裕なんてなかった。


私の現在の状態は、所謂飢餓状態なのだ。

最近血を飲んでいないからだろう、朝食を食べても食べても減るお腹を腹立たしく思う。

お陰で私の血液は起きてからずっと沸騰している。


あぁ、またあの地獄を体現した様なものを飲まなければならないのかと憂鬱になる。

毎度の事ではあるが、きっとこれだけは一生慣れることのないであろう。


「はぁぁあ…。」


本日何度目になるかわからないため息を吐く。


「あぁミカルラ様…。おいたわしや…。」


私が死人のような顔をしている側でメイドが涙を流している。


彼女はナンシーという、我が家の少ない使用人の中では比較的若いメイドである。


使用人は皆、身元がはっきりしている孤児院出身か天涯孤独な事、口が堅い事、そして何事にも耐え、限界を超える度胸を持ち、それを達成することが出来る素質を持っている事を条件に雇われている。


何故そのような条件か。

それは私達が吸血鬼であるからだ。 


使用人とあれば、私達の正体を知ってしまう可能性が高いどころではなく、確実にバレる。

なので、そこの事情を理解した上で外に口外しないような人間が適切なのだ。

孤児院出身や天涯孤独な人間は皆、辛い経験の中で生き抜いた強い者たちだ。

そんな人間たちの中でも一際強かで、信頼できる者を使用人に迎えているのだ。


それでもリスクは大きいので最低限しか雇わないので、人数は少ないわけだが。

また、それ以外のもう一つの理由として、素質を持っている人間が少ないこともある。

というか、こちらの方が本題であると思う。


この素質がなければ、一人前の使用人になる事は出来ない。

それは何故かというと、此処での使用人は吸血鬼に劣らぬ肉体を手に入れてこそ一人前であると定められているからだ。

別に他に吸血鬼がいる訳でもないので、そんな力要らなくないか?むしろ邪魔になる事だってないか?と疑問を持つだろうが、これにはきちんとした理由があるのだ。


昔、遊び相手として選ばれた使用人が赤ん坊に殺されてしまったという痛ましい事件があったのだ。

これには、屋敷中が悲しんだ。

大切な使用人が一人亡くなった上に、赤ん坊は殺人鬼になってしまったのだから当然だろう。

それ以来、二度とそのような事を起こさない為に使用人になるには、まず肉体強化を行う事から始める事を絶対とされたのだ。


そして皆、地獄のような修練を経て、強靭な肉体とともに一人前の使用人として迎え入れられるのだ。

つまり、今そこにいるナンシーも無事修練を終えて立派な使用人となった努力者だ。

素直に尊敬する。


閑話休題、本題に戻ろう。


お腹が空いた。 

しかし、血を飲むのはごめんだ。

そんな葛藤と己の頭を抱えながら自分の部屋にあった丁度良い布に噛み付いていると、不意にドアからノックの音が聞こえてきた。


「ミル、いるか?」

どうやら訪ねてきたのは兄様であるようだ。


「…ナンシー。追い返して。」

「申し訳ございません、ミカルラ様。ロイ様にこの様な場合はお通しするように仰せつかっておりまして。」

「裏切り者ぉ!」

兄様め、先手を打っていたとは!


「兄様の卑怯者!」

「そうか。ところでミル、その姿はあまりにもだらしないと思うぞ。」

私の想いが伝わっていても伝わっていなくても、どちらにしても入ってくるであろう兄様は案の定部屋に入ってきた。


「私入っていいって言ってない。」

「お前が言ってなくとも俺は入っていいと思っているので問題ない。」

問題しかない。

プライバシーガン無視とは、我が兄ながら恐れ入った。


普段であればさほど気にしないのだが、今は飢餓状態によってイライラしており、細かいことでも目くじらを立ててしまうのだ。

沸騰しきった血液がマグマへと姿を変え、下から上へと私の身体の中を巡った。

「兄様なんの用だ。速やかにお帰ろ。」


兄の用とは今までの経験と、その手にある小瓶から予測がついているのだが、一応聞いておく。


「今回もまた棘を隠そうともしないな。用はお前も察しているだろう。というわけで、いつもの血だ。」

やはりそうか。

これのせいで毎度毎度、痛い目に遭っているというのに…。

ぐつぐつと私の中にあるマグマは勢い増してきた。


今は目の前で微笑む兄が無性に腹が立つ。

ついでに可愛らしい小瓶にも腹が立つ。


「いいな兄様は。そうやって人の苦しみも知らないで。」

「まぁそうだな。願わくばお前の知る苦しみは一生味わいたくないな。恨むなら己の味覚を恨むがいい。」


そう言いながら私の目の前に血が入った小瓶を置く。

そこで私の頭の中にある、一本の線がプツンッと切れた。

ついにマグマは私の頭の頂点まで上り詰め、勢い良く吹き出した。

視界が紅く染まる。

大切な何かが何処かへ飛んでいき、私の感情は制御不可となった。


「こんのっ…へべけろばかがぁぁぁぁぁぁ!!」

「おいぃぃぃ?!!」

「お嬢様ぁぁぁぁぁああ!?」


私は小瓶を鷲掴みにし、今までのゲロマズ血液に対しての恨みを全てぶつけながら窓へ投げつけた。

クソ不味い、この世の汚物、糞尿の亜種。

様々な思いが交差し、消化しきれないものは外へと放出された。   

窓ガラスと小瓶が互いのガラスを激しく割り合い、その残骸は勢い良く外へと放たれる。

外からメリーちゃんに取り込まれたはずのあべの悲鳴が聞こえてきたが、それでも私の熱は引かない。


そして私の怒りの矛先は、これを持ってきた兄様にも向けられたのだった。


「みぎぃぃいっちゃぁぁぁぁぁぁぁぁああん!」

「おい落ち着け!お前はちゃんと知性があるだろう!」


私は奇声を上げながら兄様に飛びかかった。

兄様は私を抑えつけながら何やら声をかけてきたが、私は聞く耳を持たない。

今の私は殺意と怨念しか持っていないのだ。


とりあえずこの世すべてのものが憎い。

兄様も憎いし、父様母様も憎い。

そこで顔面蒼白にしているナンシーも憎い。

お気に入りのベッドも憎い、昨日拾った葉っぱも憎い。

憎くて憎くて、この手に余る憎さをどうすればよいかわからない。

「あばば、あばばばばばばば」

「にくしゃあぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」 

「ちょっ、大人しくしろ!」

「+$☆%8(1/!」

兄様が私に的確で強力なチョップを喰らわしてきたが、

そんなものなどせいぜい少し視界が揺れる程度だ。


私は全く怯まずに兄様に掴みかかる。


「だから…落ち着けと言っておるであろうがぁ!!」

「☆・→(5+゜々4(1(!」

「ばばばばばばばばばば」


ついに本気で怒った兄様のげんこつは、先程のチョップの比ではなかった。

年上と年下、男と女。

体格差など色々な要素から勝る兄からの本気のげんこつは、私を鎮めるには十分だった。


視界が反転し、紅一色に染まっていた世界は次第に色を取り戻していった。

それと同時に私の理性は正常に働き始めようとする。


理性と感情がせめぎ合い、溶けていく。

そして私は悟った。


この空を、大地を。

生き物たちの鼓動を、本能を、尊さを。

これまでの世界の動き、人類の進化、生物の滅亡。


これからの世界、未来を見た。

人間たちの本質を、真実を、醜さを知った。

あるものは命の生まれ死にゆく日常を見たふりをして、理解しない。

あるものは命の絶えていく様を見て、それでも己の手で命を摘み取っていく。

ついには、生きる為の行為を欲に振りかざすようになった。


なんと残酷な事だろうか。

何故このような事をするというのか。

人間には話し合う力があるだろう。


それが生きるものの定めだと答えるものがいる。

それが知性を持ってしまったが故の結果だと答えるものがいる。

話し合えるからこそ、思い通りにしたくなって力で支配しようとするのだと答えるものがいる。


それがどうしようもなく哀しくて、どこか納得してしまう自分に呆れて、同感して。


ふいに、塊を見た。

生き物の生気に満ち溢れた、青く澄み渡るもの。


それが何かを知らないはずなのに、その中に自分が存在すると分かった。

塊の周りには闇。

底のない、壁のない、天井のない、何か。

私は果てのない闇に飲み込まれているのか?

それとも傍観者なのか?


先程の塊のようなものの様なものが、形を変え、色を変えて遠くからこちらへとくる。


これは闇に引き込まれているのか?

それとも私が引き込まれているのか?



そして、私は考えるのをやめた。







−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




「おい、大丈夫か?すまない、やりすぎたようだ。」

「おじょっ…おじょうさっおじょじょじょ」

「…。」


やりすぎの度合いを超えすぎている。

先程までの事を全く覚えていない。

私の記憶は小瓶を投げたぐらいのとこで終わっている。

というか、ナンシーは一体どうしたのだ。

正直私よりも謎の動作を繰り返しているナンシーの方が重症な気がする。


兄様め、許さんぞ。


「兄様のばかたれ。」

「なっ、なんじゃと?!俺はバカじゃない!」

「ばかぢから!」

「だからバカではないと言うておろう!」

「あっあっ、お二人共お待ちをををっ」


そして冒頭へと繋がるのだった。

喧嘩中にあばばばしてたのはナンシーです。

ナンシーちゃん、若いのも相まって作中では強い方なんですよ?

まぁ、この小説戦闘シーンとか書くことは作者の実力とか諸々の事情でないので、この設定はほぼ活かされることはないと思いますが。


アドバイスなどがあれば是非教えて下さい。

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