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ないものねだり  作者: 雛菊 兎月
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第四話 クラスメート


今日は、午前中で学校は終わり。

クラスのホームルームを終えて、新しい教科書を受け取ると、クラスメート達は帰宅の準備をする。


流川(るかわ)さん!』

カバンに荷物を詰め込んでいたときに声をかけられ、顔を上げると周囲にクラスメート達が集まっていた。


『私ね、流川さんを入学式で初めて見たときから、すごい綺麗だなって思ってたの』

『ずるいよ、私もだよ』

『私だって、一緒のクラスなれてすごく嬉しいの』


『みんなにそう言ってもらえて嬉しいよ。こちらこそ、よろしくね』

私は声をかけてくれた皆に伝える。


『流川さん、この後みんなでカフェに行ってお茶をするつもりなんだけど、よかったら一緒にどう?』

ふと、雪乃(ゆきの)に目をやると、こちらを見て『あっ』といったような顔し、そのまま出口へ向かっていた。


『ありがとう、今日も雪乃と一緒に委員会の仕事があるから、ごめんね』

クラスメート達は『えーそうなの!残念だけど、分かったよー。またね!』とカフェへ向かった。


私も荷物をまとめて、雪乃の後を追いかけて教室を出ると、出たところで雪乃が待っていた。


『お待たせー!』

『悠理、良かったの?…今日はそんなにお仕事はないから、私だけでも大丈夫だよ?』

『いいのー、じゃあ行こっか』

私の予定は、いつだって雪乃が最優先だ。



私達は二人で図書館へと向かう。図書委員会の仕事があり、今日は雪乃がカウンター係の当番だった。

普段から、お互いが当番のときは一緒にいることが多い。


図書館に入ると、生徒が数名と司書である(はるか)さんがいた。


『あら!白井(しらい)さん、流川さん、ごきげんよう』

遥さんは私達に気付くと声をかけてくれた。


『遥さん、こんにちは。今日は、何か良い本が入りましたか?』


『あらー、良く分かったわねー。また面白いシリーズが入ったのよ』

遥さんは発注した本が届く日、いつも顔がウキウキしているから良く分かる。


遥さんは、届いた本をまとめながら話を続けた。

『新しいクラスはどうだった?二人はまた一緒のクラスなの?』

『はい、一緒でした。3年生も同じクラスのようなので、雪乃とずっと一緒です!』

私はそう言って雪乃にぎゅっと抱きついた。


『ちょ…ちょっと、悠理…!』

そう言うと雪乃は少しバタバタ慌てて、その様子が可愛らしくて、私は少し意地悪に『照れちゃってー』と言って少しの間離れなかった。


『ほんと二人は仲良しね。図書委員会のメンバーは3人しかいないから、喧嘩だけはやめてねー』


遥さんは冗談混じりそう言って少し笑った。

現在、図書委員会は3年生の先輩が一人、そして私と雪乃しかいない。

とはいえ、基本的なお仕事は遥さんがこなしているため、なんとか機能している状態だ。


遥さんは、黒いショートヘアが特徴的なお姉さんだ。

いつも白いシャツにエプロンを付けて、お仕事をされている。


青藍(せいらん)女学院の図書館はそこまで大きくはないが、力作業もある中、ほとんどの仕事を一人で卒無くこなしているものだから常々すごいなと思う。


私や雪乃は遥さんのような大人の女性になりたいねって良く話すほど、尊敬している人だ。


『じゃあ、私は国立図書館で合同説明会があるから今日は出掛けるわね。時間になったら鍵閉めよろしくね!』

遥さんは、忙しなくエプロンを取って上着を羽織ると、図書館を後にした。


私と雪乃はカウンターに座り、仕事開始。と言っても、基本的な仕事は、本の貸し借りを管理するだけだ。

することがないときは、雪乃と私は本を読んで過ごすことが多い。集中して本を読む雪乃の横顔に、しばしば魅入ってしまう。


『あの。この本借りたいのだけれど』

『ああ、はい!』

私は、声にびっくりして反応した。


『あっ。…あなたは、波瑠末さん』

そこに立っていたのは、同じクラス波瑠末瑠璃(はるまるり)さんだった。


『あら、どこかであったかしら?』

『うん、私は同じクラスの流川悠理(ゆうり)。こっちは雪乃だよ』

『そうだったの。ごめんなさい、気付かなくて。ところで、この本を借りたいのだけれど』

『分かった、手続きするね』

私は波瑠末さんから本を受け取った。

【大仏の歴史】…変わった本を読むなぁ。


雪乃に本を渡して手続きを進めてもらう。

雪乃は、慣れた手際で登録カード発行すると、本と一緒に重ねた。


『…あの、こちらの貸し出し期限は1週間です。返却の際は、入り口横のポストに入れるか、直接こちらまでお持ちになってください』

そう言って、雪乃は本を波瑠末さんに差し出した。


『ありがとう』

そう言うと波瑠末さんは、本をカバンにしまって立ち去ろうとする。


『あの!波瑠末さんは本が好きなの?』

私は波瑠末さんに声をかける。

『いいえ、特に好んで読んでいるわけではないわ。強いて言うならばヒマ潰しね』

波瑠末さんは淡々と答えた。


『そうなんだ。普段あまり見かけないから、珍しいなって思って』


『そうね。図書館利用するのは初めてだわ。と言ってもこの学校くるのも、今日が初めてだから、当たり前ね』


『波瑠末さんは転校生だったんだね!波瑠末さんみたいに綺麗な人、一度見かけたら忘れない、って思ってたから不思議だったんだ』

私は少し浮き立つようにそう伝える。


『そう。もういいかしら?予定があるのだけれど』

『そっか、ごめんね呼び止めちゃって。またね』

波瑠末さんは、こくりと頷くと振り向いて去っていく。


波瑠末さんは不思議な雰囲気を持っているな。

腰辺りまで伸びた綺麗な髪を揺らして歩く姿は、凛としていて格好良い。


『…悠理だって負けてないよ。』

雪乃が、私が考えていることを見透かすようにそう言った。

『ありがとう。じゃあ、そろそろ図書館閉める?』

私がそう聞くと、雪乃は『うん』と頷き、私達は閉館準備を行い、生徒がいないことを確認し、図書館を後にする。


帰り際、職員室に向かう廊下で雪乃と話す。

『波瑠末さん、転校生だったんだ。綺麗な人だね』

私がそう言うと『…悠理の方が綺麗だもん』と雪乃は少し口を膨らませて言った。


『雪乃は可愛いなぁ!』と頭を撫でると『馬鹿』と一言呟き、耳を赤くした。


私は、今朝の桜先生の話を思い出す。

雪乃とこれからも仲良くしていたいな…。


外に出ると黄昏が綺麗に映えており、私は美しい夕焼けを見つめながら、これからの学園生活も雪乃と一緒に楽しみたいと、そう強く感じた。

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