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79.設計図

「ほう。ほうほう。こんなのを頭の中でイメージしていたのか……」


 鍛冶屋の中にはトーレが図面を引くために大きな紙とそれに合わせたテーブルがあるのだ。

 だからトーレの口調みたくなっているってわけじゃあないんだけど……。

 

 雷獣の分析を終えたセコイアに説明を求めたところ、鍛冶屋の中まで引っ張られ紙を用意しろとのたまったのだ。

 言われるがままにトーレから紙をもらって、テーブルに乗せた。

 するとセコイアが椅子の上に乗って、墨でかきかきしはじめたってわけなのだよ。

 こいつがまあ、複雑な立体図形の組み合わせでねえ。

 よくこんなものを記憶して、紙に描けると感心する。

 え? 全くなんのこっちゃ理解できないけどな。

 

「あのお。セコイアさん」

「なんじゃ、もう少しじゃから待っとれ」

「いや、いきなりですね、図面を描かれてもとんと分からんのですよ」

「気持ち悪い口調をしおって。じゃから、少し待て。ボクも記憶しているうちに書き記したいのじゃ」

「あいあいさ」


 後ろから覗き込んだら、しっしと手で払われた。

 いつもなら寄りかかってくるところだけど、この態度からセコイアが余程真剣などだと理解できた。

 茶化してしまったことに反省はしているが、謝る気はない。ははは。俺は悪い奴なのだ。

 

 仕方ない。待つか。

 その場であぐらをかき、セコイアの作業が終わるのを待つことにした。

 

 ん? エリーはともかく、俺以外だれもセコイアに注目している人がいないって?

 ペンギンは雷獣の毛を科学的に分析すべく準備中だ。後で情報共有してくれと頼まれている。

 いやいや、鍛冶屋なのだからペンギン以外にもこういうことに群がってくる親方たちがいるだろうって?

 うん、いる。

 だけど、彼らはもう……。

 

「悪くない。悪くない」

「ヨシュア坊ちゃんは飲まないのですか? なかなかにいけますぞ」


 すっかりできあがっていた。

 鼻を赤くしたガラムとトーレはお酒に夢中である。

 弟子たちがつまみを準備し、彼らもまた酒の輪に加わりもう収拾がつかないこと確実だ。

 ネイサンだけはまともだけど、杯をつぐのに忙しい様子。

 彼らが飲んでいるのはグアバ酒である。アルコールが熟成してきたので、試しにと持っていったところえらくお気に召したらしく、今晩中には樽が空になりそうだ。

 無くなる前にバルトロ、ルンベルク、そして俺の分だけは確保しておいた方がいいかもしれない。

 エリーとアルルはまだ未成年だからお酒はノーサンキューにしておこう。

 いや、飲んでも別によいんだけどね。これまで彼女らがお酒を嗜む姿を見た事がないからという理由からだ。

 一応公国の基準だと、年齢制限はない。だけど、慣習的に子供にはお酒を飲ませないようにしている。

 

 あ、ペンギンが連れて行かれた。

 飲んで大丈夫なのだろうか。生物学的に。


『これは?』

『うん、グアバの実から作った果実酒だよ』


 両フリッパーで器用にコップを持つペンギンの疑問の声に俺が答えておく。

 彼の言葉は俺にし分からないからな。

 ちょ、待て。

 嘴をパカンと開いて、一息に飲んじゃったよ。


『ほう。これは悪くないね。今日のところは仕事も終わりとしよう』

『いつも働き過ぎだから、ゆっくり休んで欲しい。だけど、お酒を飲んで大丈夫なの?』

『まあ、問題なかろう。ペンギンだけに』

『ペンギンだから心配なんだって』

『いざという時はセコイアくんに何とかしてもらって欲しい』


 ちょ、ネイサンもあっさりとお代わりを注いでいるし。

 まあ、ペンギンも元は成熟した大人だった。体の様子を見ながら飲むくらいの気遣いはするだろう。

 やれやれと肩を竦めたところで、机に向かっていたセコイアが墨から手を離す。

 

「よし、完成じゃ」


 彼女はうーんとばかりに両手を伸ばし背筋を反らしている。


「作業が終わったところで悪い。場所を変えないか? ここはこれから更に騒がしくなるに違いない」

「そうじゃの。ボクも参戦したいところじゃが、キミの誘いじゃからの」

「夕飯は我が家でご馳走するよ」

「うむ。食事の後は書斎じゃな。ヨシュアのベッドでも構わんぞ」

「それはちょっと……」 


 やんわりとお断りしつつ、セコイア、エリーと共に鍛冶屋を後にした。

 

 ◇◇◇

 

 食事の後、セコイアから複雑怪奇な図形が描かれた図面を見せてもらったものの当たり前だけどまるで理解できなかった。

 図面を見るのは諦め、魔法の構築について基礎から聞いた方が良いと判断。

 

「隣に来てもよいのじゃぞ」

「俺は椅子でいいから。そこに行けばセコイアが説明してくれなくなる気がしてな」


 自室のベッドでセコイアがゴロゴロ転がりながら、俺を誘う。

 しかし俺は椅子に座ったまま動くものかと決意している。

 絶対に誘いに乗ってはダメだ。ベッドにいかないと喋らないとか言い出しても、決して。


「やる気が起こらんのお」

「喋ったら行くから」

「えー、どうしようかのお」

「よし、それじゃあ今日はお開きにしよう、うん。もうヘロヘロだしな、グアバ酒を飲んで寝よう。セコイア、またあし……むぐう」

「冗談じゃって」


 飛び掛かられて口をふさがれた。

 体を揺するが、後ろから俺の肩に足をひっかけたセコイアは身体能力が異常に高く振り落とされそうにない。

 決して動かないという意思を通したまではよかった。しかし、こう来るとは。

 

「はあはあ」

「魔法の基礎じゃったの」

「お、おう」

「基本はこれじゃ」


 セコイアは机の上に置いたままのメモ用紙に羽ペンでさらさらと大きさの異なる立方体を二つ描く。

 立方体は縦に重なっている。


「これが魔法の構築? これを頭の中で思い描くの?」

「うむ。図形の組み合わせ方によって発動する魔法が変わるのじゃ」


 ふ、ふうむ。

 魔法の構築とは立体図形で描かれた回路とでも捉えればいいのか。

 単純な魔法構築だったら、大きさの違う立方体を積み上げるだけで発動するといった割に単純なものだ。

 だけど、複数の立体図形を……それもさっき見た帯電の立体回路なんてなったら頭の中で妄想するのは無理だろ。

 

「魔法を扱うには生まれ持った素質と想像を絶する長年の研鑽がいるな……」

「そうじゃろうそうじゃろう。ははは」

 

 コンピューターが無いと訓練をしていない俺には全く以て取り扱い不可能だ。

 図面に起こしてもらって覚えるのなら、あ、そういうことか。

 魔法を学習する場合、まず図面を正確にトレースして頭の中に思い浮かべることから開始するのかな。

 セコイアのような研究者のレベルにまで到達すると、描かれた図形の意味をミリ単位で把握し組み替えるのだろう。


「こいつはタフな学問だな。先人が残した魔法の構築回路を脈々と受け継ぎ、発展させてきたってことか」

「うむ。先人の遺産はとにかく重要じゃ。紙が安価に製造されるようになったのも、元を辿れば魔法のためじゃな」

「そういうことか!」


 必要は発明の母をこの世界では科学ではなく魔法が担っていたのかも。

 ちょっと語弊があるけどね……。この世界にだって科学技術はある。だけど、魔法の便利さがそれを遥かに凌駕しているんだよ。

 建物を建築するのにだって科学技術は必要である。だけど、魔法を基礎とした技術も併用して使う。

 それが、この世界の理なのだ。

 

「さてと、魔法のことが少し分かったところで」

「ほう? 何か掴んだのかの?」

「うん。理解を放棄する。だから単刀直入に聞こう」


 ずっこけそうになったセコイアを支え、「ふふん」と自慢気な顔で彼女に告げる。

一瞬78話をあげておりました。。すいません。

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