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39.先生、思いっきりお願いしますな件

「ヨシュア。一つ尋ねる」

「ん?」

「思いっきりやってよいのか? と聞いておる」

「思いっきり、力一杯やってくれ!」


 セコイアを通じて雷獣に言葉が伝わったらしく、首を上に向け「うおおおん」と雷獣が吠える。

 次の瞬間、雷獣の体全体から閃光が走り視界が真っ白になった。

 ドオオオオン――。

 轟音が鳴り響き、もわもわとした土煙があがる。

 

「ぐ、すんごい音だな」

「なかなかの一撃だったのお。まさに雷の申し子よのお」


 自然現象の落雷でも、近くに落ちるともんのすごい轟音が響き渡る。

 雷獣の発した雷はそれに匹敵する音を立てていた。


「一体どれだけ発電できるのだろうな……」

「発電?」

「あ、いや。発電については必要があれば説明する。今のところはまだ何とも言えない」

「ほう。カガクかのお?」

「うん。だけど使えるのかも全く分からないからね。意味のない知識は判断を鈍らせる」

「確かにそうじゃ。ならばこそ、ボクもヨシュアに魔術の真理を伝えておらぬ」

「おう。必要ある時に必要なだけ、がとても難しい。その時は頼むぞ、セコイア」

「任せておくがよい、ぬはは」


 背筋を反らし魔王のように高笑いするセコイアだったが、致命的に似合っていない。

 子供のごっこ遊びにしか見えん。

 

「セコイア。雷獣に『ありがとう』と伝えてくれ。礼ができるよう赤い果実を研究させてもらうとも」

「……。伝えたぞ。腹も満たされたし、用が済んだのなら、行く、と言っておる」

「うん。ありがとう。雷獣!」


 雷獣に向け、両手を力一杯振るう。

 俺の意思が伝わったのか、雷獣は首を上にあげ小さく唸り声をあげる。

 首をさげた雷獣はくるりと踵を返し、悠然とした足取りでこの場を立ち去って行った。

 

 雷獣の姿が見えなくなるまで見送った後、雷にうたれた避雷針の確認に向かう。

 

 うはあ。銅線がダメになっちゃっているな。でも、これだけ威力があるのなら期待できそうだぞ。

 しゃがみ込み、避雷針に触れる。

 熱くなっていたりはしないな。

 

「誰か鉄製品を何か持っていないか?」

「こいつでいいかの?」

「おお、ありがとう」


 セコイアが見せたのは紐を括りつけた細長く人差し指ほどの小さな方位磁石だった。

 彼女から受け取った方位磁石を避雷針に近づけてみる。

 

 ピタ。

 方位磁石は避雷針に引き寄せられるようにして張り付いた!


「よおおおっし。うまくいったああ。雷獣さんありがとう」

「そいつは磁石なのかの?」

「ご名答。雷獣の雷で、この鉄の棒を磁化したんだ」

「ほう。雷で鉄が磁石になるか! そいつは興味深い」

「だろだろ。これがカガクだよ」

「魔法と異なる法則。やはり面白いものじゃのおお!」


 セコイアと両手を掴み合って小躍りしていたら、呆気にとられたバルトロとガルーガが目に入る。

 

「えー、まあ、なんだ。避雷針もとい磁石を持って帰ろうか。道すがら説明するよ」

「オレが持とう」

「帰りは俺が持つぜ。ガルーガは前方の警戒。俺は後ろを行く」

「分かった」


 二人は俺とセコイアの謎の踊りを見て見ぬ振りをしてくれたようだ。

 何事も無かったかのようにバルトロが磁石を担ぎ、ガルーガが先導を始める。

 

 ◇◇◇

 

 磁石にはいくつか作り方があって、古来から作られていた。

 地球の磁気を利用した方法や、他の磁石を使って磁石にする方法などなど。

 しかし、ここは異世界。地磁気を利用するとして、どの方向に向ければいいかとか、磁化できるのかとか不安が付きまとう。

 磁石作りは公国時代に試していなかったからなあ。

 これまでの経験から、何か一つ作り出すのに何十回、時には何百回と試行錯誤を繰り返さなきゃならねえ。

 ある程度、領地経営が安定してきてからならいいが、先を急ぐ情勢でちんたらやっていられないんだ。


「ぜえぜえ……そこで試したのが電気による磁化だ。この方法は次善の策だったんだけどな……ぜえはあ」

「言わんとしていることは理解した。しかし、ヨシュア」

「ん……」

「体力が無さ過ぎじゃろ。せめて普通に走れるくらいには鍛えたらどうじゃ?」

「はあはあ……善処する。今すぐには無理だけどな……んで、この磁石を使ってだな」

「使って?」


 ああもう。息が切れているから、喋り辛い。


「電気を作る。さっき言った『発電』をするってわけだ」

「ふむ。電気を作ることを発電というのじゃな」

「うん。発電の仕組みはとても簡単だ。コイルの前で磁石を回転させるのみ……はあはあ」

「コイル?」

「か、鍛冶屋に到着してから、にしよう。ガラムとトーレの協力が必要だ」

「情けないやつじゃの……ほれ」


 立ち止まったセコイアが、両手を腰の後ろに持ってきて指先をくいくいっとさせる。

 まさか、「俺を背負う」とか言うんじゃないだろうな。

 

「断る。幼女に背負われたなんてあったら、いろいろもうダメだろ」

「別にキミのためだけではないのじゃが。ボクはすぐにでも発電のことを聞きたい。キミが歩けば、遅くなるからの」

「ぐ、ぐうう。それでも、俺は歩くのだ。歩くったら歩く」

「全く……変なところだけ強情じゃのお。バルトロに背負ってもらうかの?」

「それもダメだ。歩くって言っているだろ。ほら、こんなに元気なんだ」


 両手を広げ、跳ねるように前へ進む。

 っと。足がふらつきバランスをおう。

 ぐい。

 後ろからセコイアに支えられ、こけずに済んだ。

 

「……」

「分かった分かった。歩くのじゃろ」

「お、おう」


 パンパンとワザとらしく自分の服を叩き、再び歩き始める俺なのであった。

 

 ◇◇◇

 

「ありがとう。バルトロ、ガルーガ」

「楽しい散歩だったぜ。こっちこそ誘ってくれてありがとうな。ヨシュア様」

「いつでも協力をする。用があれば是非また呼んでくれ」


 鍛冶屋の軒先でバルトロとガルーガに礼を言い、彼らと別れる。

 さて、暗くなるまでにはもう少し時間があるな。

 さっきからソワソワして仕方のないセコイアもいることだし、約束通り発電の概要について説明するか。

 

 中に入ると、既にセコイアとガラムの二人は椅子に腰かけ、俺を待ち構えていた。

 

「セコイアの嬢ちゃんから聞いたぞ。何やらまた面白いことをやるそうだの」

「燃焼石と魔石がないから、それを補おうと思ってさ。対策の一つだよ」


 セコイアの隣の席に腰かけ、軽く右手をあげる。


「ほれ、はよう『発電』について語るのじゃ」

「分かった分かった。トーレにもちゃんと伝えておいてくれよ」


 服の袖を引っ張るセコイアに向け苦笑した。

 引っ張り過ぎだってば、服が伸びるだろ。

 

「儂から伝えておこう」

「ありがとう」


 ガラムに礼を言ってから、俺は発電のことについて語り始める。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 裸の銅線を巻きつけた鉄の棒に雷落としても、電流は鉄の棒を通じて地面へ流れるだけで、磁石はできないのでは? エナメル線のように被覆されてないと隣の銅線や鉄棒に短絡しちゃって、そもそもコイ…
[気になる点] 避雷針に近づけたのが方位磁石なら磁化してなくても張り付くのでは……
[気になる点] 1.雷獣の全力がどれだけの力量か知らない状況で、全力での指示とは安全確保をしないマッドサイエンティストに近い開発者になりつつある気はします。 餌を獲る時の力量との差くらいは確認位しても…
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