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381.王とは

「こちらでよろしいでしょうか?」

「うん。棚はそこに。その上に板を乗せてもらえるかな?」

「はい!」

「あああ。片手で持つと落とすかもしれない。順番でいいよ。ゆっくりね」


 指先で挟んだだけで、執務机と同じくらいの大きさがある棚を軽々と持ち上げてしまうエリーに慌てて注意した。

 そうそう壊れるものではないけど、せっかくこの日のために準備した棚だものね。

 上に乗せる黒い板は繊細なものなので、念のためエリーに加えアルルにも手伝ってもらう。

 黒い板は魔工プラスチックで裏と枠を補強し、自立できるように二又の脚を取り付けた作りだ。

 見た目はパソコンのモニターに近い。といっても液晶部分は黒い板なのだけどね。

 黒板のようなもので作ってある。こいつはガラムの力作だ。

 もう一つ付属品として、全て魔工プラスチックで作成したキーボードがある。

 もちろん、地球のものとはキーの配置が異なっているぞ。公国語の文字と数字がそれぞれのキーの表面に刻まれたものだ。

 こっちはトーレ作である。

 どちらもパソコンにあるようなコード類はない。

 そして、本体となるのがタワータイプのデスクトップパソコンにも似た長方形の箱だ。これもデザインを揃えるため、魔工プラスチックでコーティングしてある。

 

「セコイア。そう、そこのボタンをポチっと押して」

「任せるのじゃ。ボクに栄誉を譲ってくれるとはヨシュアの愛じゃな」

「あ、うん」

「照れずとも良いぞ」


 ふふんと鼻息が荒いセコイアはペンギンに案内され、長方形の箱のボタンに指を乗せた。

 

「その前にこれが何なのか説明してくれんかの? ずっと待たされたからの」

「名前か……決めてなかった。魔法の箱でいいか?」

「何じゃその適当な名前は」

「ま、まあ。動かしてみてくれよ。ささ。ささ」

「トーレみたいなことを言っても騙されないのじゃ」

「みんな待ってるだろ。ほら」

「そうですぞ。ささ。ささ」


 「ほら、ボタンを押して」とセコイアに促すと、本家本元のトーレも長い眉を動かし催促する。

 もちろん、片手に酒を持ちながら。

 隣に座るガラムは飲む方に集中しているような気が……。

 ともあれ、セコイアがようやく魔法の箱のボタンを押してくれた。

 すると、音も立てずに黒板に白い光の文字が浮かび上がる。

 白い四角の枠が二つあって、中には「文字」と「計算」と記載されていた。

 

「お、おおおお。変わった魔道具じゃな」

「さすがのセコイアでもこの魔道具は珍しいか。機構は魔力の流れで分かるのだっけ」

「ううむ。この発想は……カガクかの?」

「そそ。エルフのイルミネーションの魔道具技術をそのまま使った」


 どうだ凄いだろとこの時ばかりは得意気な顔でセコイアに語る。

 後ろで控えるエリーが胸の前で両手を合わせ目を見開き、彼女の隣で立っていたアルルが彼女の腕を引く。

 

「あれ、エリーの字」

「うん。ヨシュア様に文字のサンプルが欲しいとご依頼を受け、書いたの」

「すごーい」

「ビックリし過ぎて腰が抜けそう」


 小声で囁き合うエリーとアルルに対し、ペンギンが右のフリッパーを上げる。


「エリーくんの字が良いとヨシュアくんの希望だったからね。ヨシュアくん。エリーくんの字だ。「文字」はエリーくんにやってもらおうか」

「うん。エリー。この文字が書いた板……キーボードの前に座ってもらえるか?」

「は、はい」


 突然ペンギンと俺から話を振られたエリーは戸惑いつつも、着席した。


「まずは、キーボードに手を触れて『文字』と言ってもらえるか?」

「『文字』……きゃ。黒板の字が変わりました!」

「うんうん。それでさ。キーボードに刻まれた字のボタンを押してみて、どれでもいいけど、せっかくだ。アルルって押してみよう」

「『ア』……『ル』……『ル』。アルルと黒板に字が出てます!」

「そんで、次は……『印刷』と発声してみて」

「『印刷』」


 彼女の発言に応じ、魔法の箱から印刷の魔道具に指令が送られ一枚の紙が吐き出された。

 ふ、ふふふ。これぞ魔道具版のワープロである。

 言い忘れていたが、印刷の魔道具が既に俺の執務室に設置してあったのだ。

 コピーの魔道具を改良して、印刷機能を付けたんだよ。難しいかなと思ったのだけど、ティモタに相談しあっさりと改良できたんだよね。

 そして、魔法の箱とキーボード、印刷の魔道具は全て無線で繋げることができた。

 これは魔法ならではなのだけど、音声認識でも無線でも、有線で繋ぐこととさして技術的には変わらない。

 やろうと思えば全て音声認識で実行させることもできるのだけど、音声認識だと他の人の声とかも入るし、調整が難しいんだ。

 そこで、キーボードを使うことにした。


「計算の方は以前ペンギンさんが作ってくれた計算の魔道具を中に組み込んである。魔法の魔道具一台で文字と計算二つの機能を持っているんだよ。キーボードの右側に数字があるだろ。それを使って計算もできる」

「いずれは書類や表計算もできるようにアップグレードする予定だよ。機構が異なるから、少し時間がかかると思う」


 俺の言葉をペンギンが補足する。

 魔法の箱はパソコンの中の文字入力機能だけを切り取った機能を持つが、考え方はまるで異なっていた。

 ペンギンはパソコン的な発想をしていたんだけど、それじゃあ時間がかかるということで、俺の案を採用してくれたんだよ。

 偉そうに述べたが、ハンコと同じなんだよね。仕組みは。

 エリーの書いてくれた文字をそれぞれ光るようにして、押したボタンに応じてその文字が光るだけ。

 計算の方はペンギンの発明品をそのまま使っているのでもっと複雑な仕組みを使っている。

 

「こ、これは革命であります! 抜本的に政務の在り方が変わります!」

「さすがシャル。もう仕事に結びつけたか」


 シャルロッテは感涙し、強く拳を握りしめた。


「入力、印刷、そしてコピーに計算。ペンギン氏のおっしゃるようにもう一歩進めば全て魔法の箱だけで仕事ができそうです! それも、これまでより遥かに速く、正確に!」

「グラヌールやバルデスも喜んでくれるかな」

「もちろんです! 官僚全てが感涙し、魔法の箱の前で膝を折るでしょう! それだけではありません! 商店にも広がり、全領民が魔法の箱の素晴らしき恩恵を受けるに違いありません!」

「お、おう……」


 近い、顔が近い。そして、声が大きい……。

 後ずさろうにも後ろにアルルがいて、彼女にぶつかってしまう。

 俺に残された手は耳をガードすることくらいだ。

 その時、勢いよく扉が開かれた。

 

「ただいまー!」

「よ、ヨシュ、アさ、まの、おへやに、はい、っちゃ」


 リリーの元気のよい声と、彼女を諫め腕を引くマルティナが扉口に見える。

 きっと彼女らの後ろにはアリシアもいるのだろう。

 ズルズルとリリーが引っ張られ、パタリと扉が閉まる。

 

「入ってもらっていいよ。アルル。呼んでもらえるかな?」

「はい!」

 

 パタパタと軽やかな足どりで扉を開け、リリー、マルティナ、アリシアの三人が入室してきた。

 

「予言と神託って本当に起こるんだね」

 

 入るなりあっけらかんとしたリリーの言葉にハッとなる。

 俺だけじゃなく、ペンギンやアリシアも同じく何かに気が付いた様子。

 

「そうか。王とはこの魔法の箱のことだったのか!」

 

 つい大きな声で叫んでしまう。それでも俺の発言は止まらない。


「シャルをはじめ、俺を含む政務に明け暮れる人にとって、魔法の箱は福音だ。感涙し跪いて有難がる。仕事の面でも革命が起こり、作業効率があがってみんな幸せに」

「そのためにより改良が必要だね。ソフトウェア的なものが作れるようにまでしたいね」

「ハードディスク的な記憶領域は既にある。開発を続ければきっと」

「魔法は本当におもしろいね。ヨシュアくん!」


 はははと笑うペンギンにつられて俺も笑う。

 あれほど悩んだ予言と神託ってこんなことだったんだ。

 予言と神託の解釈が間違えている可能性もあるが、これ以上に革新的なことなんてそうそう起こらないさ。

 だから、合っていると思うんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言語切り替えモード作らないと公国共通語(今だと連合国公用語になるのか?)以外の言語が滅び兼ねんな
[一言] ええ そうなん?w
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