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380.タワー型の

 忙しい中も建築ラッシュが続いていた。

 ネラック初の大学が完成し、同時に連合国最大の図書館も出来上がったのだ。

 図書館はガラスを多く使った開放的な作りをしている先進的なデザインで大満足である。

 といっても、日当たりが良い部分はエントランスとカフェテリア部分がある一階と吹き抜けの一部で、他は換気用の窓がある程度だった。

 本が日焼けしたら困るし、かといって紙って湿気に弱いから換気にも気を払って……と中々難しい。

 そんな中、素晴らしいデザインに仕上げてくれた匠の技に感謝である。

 

「じゃあ。行ってくるね!」


 リリーがブンブンと右手を振り、左手で握るマルティナの手を引く。

 対する俺は「いってらっしゃい」と右手を上にあげた。


「わたくしも後で顔を出します」

「教会はどうかな? 問題なく神事を行えるかな?」

「問題ございません。神にとって必要なことは贅を凝らすことではなく、敬虔に祈りを捧げることですので」

「そ、そっか。不自由あれば言ってくれよ」


 純白の法衣に身を包んだアリシアが無表情のままコクリと頷く。

 図書館が完成したことで聖女教育はますます捗って行くことだろう。

 枢機卿から聞いた話だと、あと一年ほどで聖女交代ができるのではないか、とのこと。

 二人とも覚えが早く、一度聞いたことを再度聞くことが皆無なのだってさ。

 すでに神託を二人が受け取っていることから、より早く聖女交代を行いたいところであったが、二人の聖女という特殊性から性急に行うことを避けた。

 俺も急いで交代することには反対だったので、枢機卿から決定事項を聞いた時はもろ手を挙げて賛成したさ。


「さて……俺は俺で政務をしなきゃ、だな」


 玄関先からくるりと踵を返した時、「やあ」と聞きなれた声で立ち止まる。

 

「ペンギンさん。ずっと鍛冶場にいたの?」

「そうだね。大森林で着想を得て、つい研究に没頭してしまったよ」

「大森林に行ってから、結構経つよね」

「二ヶ月くらいだと思うよ。しっかりカレンダーを見ていないからね」

「今日は俺も鍛冶場に顔を出すよ」

「なら私も鍛冶場に行こう」


 戻って来たペンギンとせっかくなので食事をとって、水浴びしたいという彼のご所望にゴシゴシと彼をブラシで洗い綺麗にした。

 血相を変えたエリーと様子を見に来たアルルから、「自分たちがやります」と提言を受けるが、固辞したんだよ。

 ペンギンにはお世話になりっぱなしだしさ。たまには俺からも何かしたいんだ。

 彼女らがやった方がペンギンがより綺麗になるだろうけど、気持ちの問題ってことで。

 

「おう。ヨシュアの」

「坊ちゃん。一ヶ月ぶりでございますね」


 鍛冶場にやって来るなり、職人の二人が赤ら顔で挨拶をしてくる。


「お邪魔させてもらうよ」


 挨拶もそぞろにさっそく鍛冶場隣の研究棟へ足を運ぶ。

 同行するペンギンはアルルに抱っこされた状態である。彼一人で歩くと時間がかかっちゃうからね。

 

 さてどれどれ。

 あれ、クローゼットくらいのサイズだった箱がなくなっている。代わりに置かれていたのは一抱えほどの長方形の箱。

 大きさとしては、タワー型のパソコンと呼ばれるくらいかな。

 

「え」


 思わず声が出た。思っていたものがなく、代わりにタワー型パソコンほどの箱が置かれていたのだもの。

 試しに持ち上げようとしたら、ペンギンから止められた。

 

「それなりに重い。腰に注意したまえ」

「無理に持ち上げてみることもないか」


 改めて箱を見てみた。

 上部に電源ボタンらしきものがあって、いくつか四角の接続口が付属している。

 上部以外は穴もなく、電源コードも出ていない。いや、背面の下部が開くようにツマミがあるか。

 ここを開いて魔石を入れ替えるのかな?

 

「改造したのだが、どうも出力が足りなくてね」

「結構魔力を喰うのかな?」

「いや、起動時以外はそうでもないよ」

「だったら、電池みたいに直列でやってみようか」

「直列、直列か。単純だが、起動時のみ引っ張ることが出来ればよい……ナイスアイデアかもしれないよ。ヨシュアくん!」

「よ、よっし。じゃあ、回路を組んで直列による魔力引き出しをやってみよう」


 あくせくとペンギンと二人で作業に没頭する。

 既に魔道具で利用する魔素回路はそれなりに解読しているのだ。

 しかし、水晶の魔石を直列で繋いで出力をあげると最後の魔石が砕け散ってしまった。

 整え方が良くないのか。

 あーだーこーだーとやっていたらいつしか外は暗くなっていた。

 既に本日の政務のことは諦めている。明日の俺が何とかしてくれるさ。

 だからこそ、この作業は何としても進めるのだ。

 

「よ、よっし……」

「出力はうまくいった。起動したが、12-Aと15-Bがエラーだね」

「繋ぎ方を変えてみる?」

「基盤をいじろう。エルフの魔道具は自由に組み合わせか利く。この発想は無かったよ」

「そうだよな。エルフの魔道具は連合国より100年進んでいたと言っても過言ではない」


 やんや、やんやとペンギンと議論を交わしつつ、結局長方形の箱を解体し中を弄っていく。

 アルルがサンドイッチを持ってきてくれて、そいつをパクつきながらもペンギンと設計図を指さし、あれやこれやと書き込みを行う。

 いつしか朝を迎え、ハッとなり目覚める。

 中途半端な状態で手を離すとまた理解するのに時間がかかってしまう。

 ちょうどアルルとエリーが入れ替わりの時だったので、屋敷に戻るアルルへシャルロッテに言伝を頼んだ。

 

 そして、その日の夜……。


「よ、よおおっし! 魔力の供給問題なし」

「二つの基盤も安定している」

「途中で魔力が切れたら大変なことになるよね」

「確かに。現場のことを考えていなかったね。ヨシュアくんがいてくれてよかったよ」


 魔石を二重化して、片方の魔力が切れたらアラートを上げるようにしよう。

 箱のサイズが変わってしまいそうだったけど、ペンギンがうまく隙間を使ってくれて事なきを得る。


「坊ちゃん、こちら出来てますぞ」

「ヨシュアの。こっちもちょうどできたぞ」

「ありがとう!」


 結局、更に三日ほどかかり、いよいよお披露目となった。

 この間、シャルロッテには多大な迷惑をかけてしまったが、お蔭様でここまで漕ぎつけることができたんだ。

 そんなわけで、セコイアを始め集まれる人には集まってもらい屋敷の俺の執務室でお披露目となった。

 自分の執務机に積まれている書類の山は見なかったことに……。

 

「みんな、集まってくれてありがとう。特にシャル。今回開発した魔道具は君にこそ感想を聞きたいものだったから」

「閣下の招集とあれば、たとえ火の中、水の中、眠っていても駆けつけます!」

「眠っている時は駆け付けなくていいからね」

「閣下がお休みの時には駆け付けません!」

「そ、そうだな。ベッドの中にまでは」

「ベ、ベッドでありますか。閣下のお呼び出しとあれば、か、構いません」


 首まで真っ赤にしたシャルロッテが、そんなことをのたまった。

 話が変な方向に行ってしまったが、今回の魔道具は結構な自信作である。

 大半はペンギンの手によるものだけど、俺も計画段階から関わったんだぜ。

 

「この箱は複雑な魔道具で、エルフの技術提供を受けている。快く技術提供をしてくれた大森林には感謝してもしきれない。もちろん、謝礼はたんまりと送ってもらえるように指示を出した」

「滞りなくお届けしております!」


 仕事の話で再起動したシャルロッテがビシッと敬礼する。

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