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378.カレー大会

「ヨシュアくん、セコイアくん。あれは電飾ではないかね!」


 フリッパーをはためかせ、ペンギンが興奮したように嘴を上に上げた。

 彼の注目する先は、運び込まれた大きな板である。

 薄暗いから俺の目では板の詳細を確認することが出来ないけど、電球が密集して装着されているようなボコボコした感じはない。

 大きな板は後ろの観客席からでもよく見えるよう配慮された角度と大きさをしている。三枚準備して三角形になるように配置されたのも同じくだ。

 あの大きな板で観客を楽しませようとしているんだよな、多分。

 しかし、電飾ではない。だってここには電気が通ってないんだもの。

 何て言うのは野暮か。ペンギンが言う電飾とは、魔道具の灯りのことであろう。

 セコイアはともかく、俺には意味が通じるので良し。


「ふむ。看板かの? 板の表面に機構があるのお」


 興奮したペンギンと対照的にセコイアは落ち着いたものだった。

 両腕を組み、狐耳の片方をペタンとさせ首を右に傾けている。

 どちらかと言うと退屈? なのか? 彼女の態度は。

 彼女にとって魔法や魔道具は見飽きたものだからかなあ。いや、ああ見えて興味津々かもしれないぞ。さっきからずっと板から目を離さないし。


「お集まりいただきありがとうございます。それでは神食選定の儀を取り行わせていただきます」


 大きな板の前に立ったフォレストエルフが高々と宣言する。拡声の魔法か魔道具を使っているようで、彼女の声がハッキリと聞こえてきた。

 右手を胸に当てた彼女は、公国式の礼をして俺たちの座る席の方向へ体を向ける。


「神食選定の儀は、本日ご足労いただいた連合国の偉大なる賢者であり大公であられるヨシュア様にご意見をいただき、開催の運びとなりました」


 一斉に観客の注目がこちらに。

 連合国と異なり、エルフたちは目を向けるも拍手や絶叫はせず、お行儀良く座ったままだった。

 叫ばれるのもあれだが、これはこれでどうしていいのか座り心地が悪い。

 立ち上がって挨拶すべきか、軽く会釈するだけでいいのか。迷っていたら、司会のフォレストエルフが言葉を続ける。


「大森林一同、ヨシュア様に感謝いたします。それでは、開会の儀をはじめます。魔道板に注目ください」


 ここでみんなの視線が俺から板に移った。

 あの大きな板は魔道板と言うらしい。なんだかワクワクする名前だな。魔道や魔法といった言葉は大好物だ。


「お、おおー」

「おおおー」


 ペンギンと俺の感嘆の声が重なる。

 魔道板全体が緑に光り、消え、そして、青に光り、白に光る。

 消えるたびに色を変える光の次の色は白の光で……何と文字が浮かび上がってきたんだよ!

 滑らかな光の文字でないことから、あの光は小さな魔道具の光源をいくつも貼り付けて作っているのかな。

 LEDの電飾みたいなものか。色が変わるところもLEDに似ている。

 お、おお。今度の文字は公国のものじゃないか。

 「ようこそ、大森林へ」だって。粋な計らいをしてくれるじゃないか。

 お次は花火のようなアニメーションが表現され、最後に大森林の文字が表示された。

 何と書いてあるのか分からないけど、「終わり」とか「ありがとうございました」とかではないかと。


「あの明減の仕組み。あのような制御もできるのだね。魔道具とは」

「光を点滅させることは公国でもやっていたけど、ここまで見事なものを見たのは初めてだよ」


 光のイルミネーションと呼べるものを見たのはこの世界で初めての経験なんだ。

 帝国や連合国にはこれほど見事なイルミネーションを魅せる技術はない。

 一体どのような魔道具を使っているのだろう。実は魔道具ではなくて、魔法で全てやっているのかもしれないけど。

 うーん、こんな時は専門家の意見を求めるに限る。

 俺の膝の上でじーっと会場を見つめていた狐耳の頭にポンと手を乗せた。

 

「何じゃ?」

「さっきのイルミネーション……光は魔法なのかな? それとも魔道具で?」

「機構がある。魔道具に魔力を通しておるな」

「魔道具であんな複雑な光の動きを実行させることができるものなの?」

「そうじゃの。予め決められた動きをするだけじゃ。ボクの魔法でも再現はできるぞ」

「なるほどなあ。魔道具か、アレが魔道具……」


 隣にいるペンギンと目を合わせ、「うんうん」と頷き合う。


「ヨシュアくん。魔道具の新たな発見だね。発見という言い方はおかしいか。既にここにあるものだから」

「俺たちにとっては『発見』でいいと思う。これは面白い」

「そうだね。どのようなものなのか、彼らに聞くことはできないかね?」

「打診してみるよ。詳細を聞けることになったらペンギンさんにも同席してもらいたい」

「是非とも頼むよ」


 魔道具で光のイルミネーションは革新的だ。

 予め決められた動きをする……つまりプログラムされた動きをする、ってことなのか。

 言い過ぎかもしれないけど、あれほど複雑な光を作ることができる魔道具の仕組みはどのようなものなのか、気になって仕方ない。

 何てペンギンとセコイアと会話していたら、開会の儀が終わり、いよいよ本選スタートとなった。

 

 ◇◇◇

 

「ほ、ほほお。これは……」


 俺とペンギンにセコイアも特別審査員として先ほどまで魔道板のあった場所に用意された特別席に案内された。

 他にもエルフの族長らが勢ぞろいしている。更には一般から選出されたという審査員もずらりと並んでいた。

 審査の基準を教えてもらって、もっとも点数が良かったカレーが今年の神食になるという仕組みだ。

 審査員は最高点が10点で、最低点が1点とそれぞれのカレーに点数をつけて、審査員全員の合計点が一番高かったカレーが優勝……じゃない神食に選出される。

 そんな中、まず最初に出てきたカレーは紫色のルーが毒々しい。

 ボコボコと湯だったかのように泡が出てきているけど、まさかルーが沸騰しているわけじゃないよな?

 具材はなんだろう。カボチャのようなものと、何かの肉が入ってると思う。

 匂いはどうだ?

 ん。意外にもフルーティな香りがするぞ。この紫色って何かの果実なのかな?

 ともかく食べてみなきゃ、何とも言えんか。

 スプーンでルーを掬い、口にしてみた。

 

「ほ、ほお。これは意外な」

「これは見た目と異なり、懐かしい味だね」

「少し辛いのじゃ……」


 舌鼓を打つ俺に続き、ペンギンとセコイアが感想を漏らす。

 これはレトルトカレーの中辛にそっくりの味わいだった。いや、中辛より少し辛さが控え目か。

 この見た目と香りでレトルトカレーと同じ味わいとは意外過ぎた。

 

「悪くない。これって俺の完全な好みで決めていいんだっけ」

「そう言っていたね」


 点数をつけなきゃいけないところが審査員の辛いところだ。

 部外者の俺たちが神食選定に関わっていいのか抵抗感があったのだけど、族長らに押し切られたんだよな。

 試食だけだったらとても気楽で大歓迎だったのだけど。

 しかし、カレーを目の前にして食べるチャンスがあるのに食べないという選択肢はない。

 付けてやろうじゃないか。点数を。

 全部味わってから、ね。

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