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375.公国の議論

 セコイアとの話はこの後たわいもないものとなった。

 「彼女以外の魔法の大家というと誰か」とか「賢き者」とはズレるが冒険者のことを聞いたり、リンドヴルムのことも聞こうとしたけど、触れると頭の中に声が響きそうだからやめておいた。彼のような超生物は世界に数体いるそうだ(以前セコイアから聞いた情報による)。

 聖獣や神獣、大精霊、そして古代龍と言った面々が。

 もちろん、超生物らに会いに行きたいとは微塵たりとも思わないぜ。だって、会ったら面倒ごとが増えそうなだけな気がしててさ。

 ともあれ、これら超生物たちが賢き者なのかとも考えた。彼らは人智を超越した存在なのだから。

 しかし、人智を超越というところで対象から外れるよな、と思ったんだ。

 神が告げる言葉は人の世についてである。人の世の賢き者を指すと考えた方が自然だろ。

 じゃあ、セコイアはどうなんだとなるが、彼女は人の世に溶け込んでいる。なので、対象になるかなと彼女にも意見を聞いてみた。


「ヨシュア。聞いておるのか」

「う、うとうとしてた。ペンギンさんは……船を漕いでるな」


 のしかかってきたセコイアの呼びかけで外に意識が向く。

 椅子に座ったまま考えを巡らせていたら、うつらうつらしていたようだった。


「もう寝るかの?」

「そうだな。さっき何を喋っていたんだっけ?」

「魔力と魔法で誰がとかじゃったな」

「そうだった」


 ポンと膝を打つ。

 対するセコイアは指を立て上目遣いで見上げてきた。


「聞いてなかったのかの。重要な方も」

「重要?」

「一番魔力量が多いのはボク。次はアリシアじゃ。人間の中ではアリシアが一番じゃの。連合国内じゃと」

「へえ。そうなんだ。アリシアすげえ」


 公国側のローゼンハイムには小規模ながら宮廷魔術師もいる。

 専門職の彼らよりアリシアの方が魔力量が多いとは恐れ入った。

 ん。何してんだ。狐耳がこちらに頭を突き出しているではないか。彼女の意図は分かったものの、黙ったまま見守ることにした。

 そのうち焦れて彼女から何か言って来るだろ。


「そこはボクを撫でるところじゃないかの?」

「よおし、よおし」

「犬猫じゃないのじゃ」

「そう言いつつ涎が出そうになるセコイアであった」

「こらあ! して、重要な方じゃが」

「な、なんだろ」

「15歳以上のネラックに住む者たちのうち」

「者たちのうち……いや、もういい。もう分かった」


 こ、こいつめ。本日一番の笑顔を浮かべおってからに。

 八重歯を突いてやろうか。噛みつかれそうだからやめておいてやるぞ。

 よし。彼女の言葉を止めるにはこうだ。

 おもむろにふさふさ尻尾を掴みわしゃわしゃする。


「し、尻尾は……力が抜けるのじゃ……」

「んじゃ、おやすみ」


 ベットの上で立って眠っていたペンギンを横に倒し、ゴロゴロ転がして俺のスペースを確保。よし、寝るぞ。

 狐が何やら言っているがもう俺の耳には届いて来なかった。むにゃ……。


 翌朝、牛乳を持ってきてくれたシャルロッテに緊急会議を開くよう伝達する。

 と同時に起きたてで申し訳なかったが、枢機卿とアリシアに可能であれば魔法でローゼンハイムに俺が行くことを伝えて欲しいと頼んだ。

 すると、既に昨晩のうちにグラヌールら大臣たちに伝達をしてくれていたようで、彼らが既に魔石機車か飛行船でこちらに向かっているだろうこと。

 こちらはシャルロッテを連れて行っても二人なのに対し、向こうは十人以上いる。

 なので俺が出向こうと思ったのだが……既に動いているのなら甘えるとしようか。


 ◇◇◇

 

「そのように取り計らいます」

「面倒事すまない」

「ヨシュア様が検討し、結果が……となりますと私どもではお力になれず申し訳ありません」

「そんなことはないさ。連合国の知が集まった二つの会議でも何ら進展がなかったんだ。ある意味俺もホッとしている」


 グラヌールに続き、深々と頭を下げる公国の大臣たち。

 公国の前に辺境国の官僚らを集めて神託と予言について議論をしたけど、何ら進展はなかった。

 そして、公国の大臣らもまた同じ。

 しかし、俺の言った「ホッとしている」という言葉に噓偽りはないんだ。

 領民全てから意見を聞いたわけじゃないけど、政治を取り仕切る専門家が集まっても答えが出なかった。

 ならば、解釈を提示しなくとも領民たちに与える影響が少ないのではないかと考えたわけである。

 

 グラヌールが着席し、入れ替わるようにして立ち上がったのが髪の毛が寂しいことになっている農業担当の大臣バルデスだった。


「ヨシュア様。領民への発表はどうされますか?」

「聞き辛いことを率先して聞いてくれてありがとう」

「いえ。ふがいない我々をお許しください」

「さっきも言ったけど、俺だって何も浮かばなかった。みんな同じさ。発表をすることで人心を不安に陥れるようにならないように一言加えたいと思っているんだ。他はいつもの通り、原文そのままで発表しよう」

「ヨシュア様の聡明な頭の中でもう答えがでているのですな。私どもにお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」


 「もちろん」と深く頷きを返し、集まった大臣ら一人一人に順に目を移す。

 オジュロの髭は両側共にピンと上を向いているのだが、片方だけ爆発したようになっており、大事な場面で笑いそうになってしまった。

 どこをどうやったらああなるんだよ!

 考え事をして、激しく髭をいじった結果かもしれない。

 

「一言、神託と予言は決して連合国へ混乱をもたらすものではない、と付けたい」

「どちらともとれる内容ですから、むやみに不安に陥ることなかれ、というメッセージなのですな」

「そんなところだ。神託は『幸せの下』、予言は『感涙』とある。決して悪い話ではないさ」

「『王』に不安を感じる者も出るでしょうからな」


 偉そうに語っているが、「そうあって欲しい」という俺の願いが込められたメッセージに過ぎない。

 「幸せ」というメッセージが入ってる以上、悪いようにはならないだろと安易に考えているんだろ? とか突っ込みは受け付けないのだ。

 

「そうですな。吾輩も完全に同意ですな。ひょっとすると全ての病を癒す何かかもしれませんものな」

「何か、とはオジュロ卿。王が薬だという発想ですか」


 グラヌールが興奮した様子で立ち上がる。

 王が人ではないかもしれない考え方は、俺から伝えていた。

 連合国の大臣と官僚たちに最初は自由に議論を交わさせたのだけど、誰しもが王を人だと認識していたんだ。

 俺だってペンギンと議論した結果、生まれた発想なのだけどね。

 王って聞くとやはり、王様を想像してしまうものらしい。

 オジュロもまた当初こそ王を人だと考えていたが、人ではないかもしれない、と伝えてからずっと黙っていた。

 それが、会議が終ろうとしている時に唐突に発言するのだから彼らしいよな。

 頭脳という点ではオジュロとグラヌールが双璧じゃないかと思っている。

 もっとも、オジュロは方向性がアレなのだけど……発想の柔軟さ、特定分野における理論構築能力において右に出る者がいない。

 そうだな。オジュロ。

 全ての病を癒す薬だったら、感涙するよ。ペンギンも俺もね。

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