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374.ペンたんの過去

「そう。あの日も縁側で座りぼーっと外を眺めていたんだ」

「眺めていたら何が?」

「突然、水の中にいたのさ。ペンギンになって。はじめは死後の世界だと思ったよ。しかしなんでまたペンギンなのかと。死後の世界ならば妻もいるのでは? ならば、ペンギンの身となっても死ぬわけにはいかないと、必死で食事をとり何とか生きていたわけさ。そこで出会ったのが君だ」

「バッテリーの話をしていたときにペンギンさんが話しかけてきてくれたんだよな」

「実のところ、アレは君が気が付いた初回だね。私はその前に君と出会っている。カタツムリの時さ。あれ以来、君たちの姿を見かけたら、水の中で君たちの会話を聞いていたんだよ」

「他にもペンギンがいるかと思ってたけど、確かに今となってはあの時カタツムリをぺしーんしていたのはペンギンさん本人だと分かるよ」


 そうそう。エリーとカタツムリを見てたらペンギンが出て来てカタツムリを仕留めて食べたんだよな。

 何であの時これみよがしに彼がカタツムリを食べたのかも今なら理解できるぞ。

 エリーがいたからだ。彼にとって俺とエリーは敵か味方か分からない。

 そこで彼は考えた。少なくとも自分はカタツムリしか興味がなく、俺たちには気が付いてもいない、とね。

 もし地球の人間と同じようなものなら、ペンギンを捕える目的でなければ引いてくれるはずだと計算してのこと。

 敵意が無い、気が付いてない、のならば他に目的がある人間ならわざわざ襲い掛かってこないだろう、と。

 そうかあ。あの時のペンギンは決死の覚悟でカタツムリを食べていたんだな。そらまあ、エリーと敵対したら一たまりもない。


「ん。あれ。ペンギンさんはカタツムリを食べていた時、エリーの強さに気が付いていたの?」

「そうだね。ペンギンになってから動物的な勘が働くようになったのだよ。この生物は危険、とね」

「へえ。そうだったんだ」

「でなければ、カタツムリを倒そうなどとは思わないよ。懐かしいね」


 ペチンと白い腹を叩くペンギン。つられて俺も笑う。


「ペンギンさんにとってはこの世界そのものが感涙って感じなのかな?」

「そうだね。妻に先立たれて以来、灰色だった世界がこの世界に来て気力が戻ったよ。私の興味であるところが大きいのだが、君が形にしてくれることでネラックの街に実物となって行く。これに刺激されないわけがない。飛行船、魔石機車……あげればきりがないほどにね」

「全てペンギンさんあってのことだよ。今や飛行船と魔石機車は連合国の物流を支える根幹だ。ネラック発の物流革命だよ」

「ははは。お互い様さ。まだまだ開発したいものはいくらでもある。魔術回路も興味が尽きないさ」

「話をまとめると、ペンギンさんも俺も王が、ってところが余り関係なさそうだよなあ」

「世界は広い。研究者が私たちだけとは限らないさ。驚くべき発明品を目にしたら、ヨシュアくんも私も感涙するかもしれないよ」

「それはそれで面白いな!」


 お互いにまた笑い合った。

 長湯になり、話もまとまったところでのぼせてきそうだから出るとしようか。

 

 脱衣場に来たところで、服を脱ごうとしているセコイアとエンカウントした。


「脱ぐな。まだ脱ぐな!」

「何やら興味深い話が聞こえてきたからの」

「風呂は男女別だと言っただろ。それがネラックの取り決めなのだ」

「本当かのお? ローゼンハイムにはなかった風習じゃ」

「ネ、ネラックの人は繊細なんだよ」

「当初、風呂はここにしかなかったのじゃが。その頃から風習なんてあるのじゃろうか」

「いらんところで鋭いな。と、とにかく、俺とペンギンさんはもう出るから。ごゆっくり」

「むうう。部屋で待っとれよ。宗次郎も」

「分かった分かった。冷たい飲み物でも飲んで待ってるよ」

「ボクはタピオカミルクティで頼むぞ」


 ちゃっかり自分の分も注文するセコイアである。

 そして、俺がまだ着替えていないってのに脱ごうとした彼女をペンギンに止めてもらいつつ服を着た。

 

 ◇◇◇

 

「ふむ。風呂上がりにキーンと冷えた飲み物はたまらんのお」

「氷さまさまだな。研究開発万歳だよ」

「そうじゃの。魔法で氷を作る以外にこのような発想があったとはの。魔道具の歴史は長い。魔法で氷を作ることができるのじゃから、魔道具でもできる。当たり前の発想であるが、今まで生まれてこなかった」

「研究開発のコストと利益が見合わなかったんじゃないか」


 俺とペンギンはちょっとリッチにアイスコーヒーで、セコイアは希望通りのタピオカミルクティである。

 氷も作ることができる冷蔵の魔道具だが、一般に流通させるとなるとどうしたものかと首を捻ってしまう。

 まずは飲食店や貴族の家用に販売し、その後一般家庭にというのが定番ルートなのだけど……設計が複雑で高度な技術も要求されると来たものだ。

 職人の高度な技術に頼っていては量産化が不可能。量産化できないとなると、バカ高くなる上に不具合が起きた時に修理するのも大変になってしまう。

 これを解消するにはどうしたらいいか?

 他の製品と同じで部品を規格化するところからはじめなきゃならん。

 複雑な製品でもそうでない製品でも、工程を分解するとやることはそう変わらない。

 規格化し、組み立て方を確立し、流れ作業にするところまで持って行かないと製品を流通させることは難しいんだよね。

 

「そうだ。セコイア。俺たちの風呂での会話を聞いたとか言ってたよな」

「いかにも。途中からじゃったがの」

「そうかそうか。それは話す手間が省ける。神託と予言について意見を聞きたいんだ」

「感涙する、とかのところかの?」

「それそれ。そこまで把握してくれていると説明は必要ないよな。セコイアにとってはどうだ?」

 

 何だ何だ。いきなりしな垂れかかってきて。

 涎で汚れそうなので、ぐいっと押しやり席に座ってもらう。


「ボクの興味はキミと宗次郎じゃ。ヨシュアと接してからの数年間はそれ以前の百年より濃く、興味が尽きぬ」

「百年……」

「なんじゃ?」

「いや、何でも。百年って、更に前の百年もあるの?」


 セコイアの仕草を見る限り、あるらしい。

 三百年くらいは生きているのかなあと思っているのだけど、実際のところはどうなのか怖くて未だ聞けていないのだ。

 この機会に聞いてやろうと思ったけど、早くも眉間に皺を寄せ、狐耳もピンと立っている。

 これは彼女がご機嫌斜めの時に見せる表情なので、触れない方が良さそうだ。

 

「ボクにとってはこれまでと同じじゃな。新たなカガクの(ことわり)を知ることで感動し興奮するじゃろう」

「魔法関係ではなさそう?」

「そうじゃのお。カガクと魔法がセットなら或いは」

「結局のところ科学が関わったところ、なんだな」

「そうじゃな。これからも見せてもらうぞ」

「まだまだ開発はする予定だから楽しみに待っててくれ」


 誰がとは敢えて言わなかった。もちろん、開発するのはペンギンなのだけどね。

 一方でペンギンはというと、エリーが持ってきてくれたクッキーを食い散らかしていた。

 ペンギンって上品な人なんだけど、何でああも食べる時だけ豪快なんだろう。

 人間じゃなくペンギンになってしまったため、嘴に食べ物を運ぶのが困難なのかもしれない。

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