367.舗装工事
「よっし。じゃあ、アスファルトで行くとして……シャル。どうやってここまでアスファルトを運ぼうか」
「ネラックからダグラスまででしたら、全く問題ございません」
必殺。シャルロッテに丸投げしてみたら、即答してくれた。
お。彼女には何か妙案があるのかもしれないぞ。さすが、優秀なワーカホリックである。
任せておけば何でもやってくれるんだぜ。難点は俺も同じように忙しくなっちゃうことだな。
「一つ問題がないか? 黒い湖からネラックまでどうやって大量のアスファルトを運ぶかどうか」
「でありますね。確かに一度に大量のアスファルトを運ぶことは困難です。しかし、備蓄がございます!」
「え?」
「ダグラスの街全てを覆うには足りませんが、十字路でしたら問題ございません」
「いつの間に……」
「飛行船の習熟訓練であります。ちょうど着陸が困難かつ着陸実績のある場所でしたので」
「ついでにアスファルトを持って帰ってきていたのか」
「はい! 『防水に使う』とヨシュア様がおっしゃってましたので、いずれ量産することを見越してであります」
確かに船の防水にとシャルロッテに説明したことがある。
訓練で行ったとはいえ、量を持ち帰るのは大変だぞ。飛行船は改造を繰り返し積載容量が増えたとはいえ、重量制限もあるのだし。
飛行船の定期便が日に日に増発していることもあり、かなりの回数の訓練を行ったってことだな。
おっと、科学話だと察知した狐が目を輝かせているではないか。
彼女はペンギンに任せると……な、何だ。その顔は。
うわあ。何をするこの涎え。
「あにふてるんらあ」
「またボクを放置しおったな」
セコイアに口を引っ張られ、言葉がうまく出てこない。
やっと離してくれたのでため息を一つ。
「以前説明したじゃないか。アスファルトの道について」
「うむ。聞いたな」
「ダグラスで実践しようとしていただけだよ。セコイアなら仕組みも覚えているだろ」
「そうじゃな。しかし、具体的にどうやるのか聞いておらんぞ」
「親方らもいるから、概要を説明しようか」
「うむ」
実物を運んでから説明しようと思っていたのだが仕方ない。
飛行船にミニチュアを積んでいなかったかなあ。
「エリー。ペンギンさんと親方の指示で動いてもらえるか? アルルはペンギンさんを抱っこしてもらえるかな。シャルは他の工事担当者と協力して道の長さを測定して欲しい。セコイアは俺の護衛な」
と指示を出しセコイアと共に飛行船へ向かおうとして足を止める。
「先にみんな休憩してから、作業開始でお願い」
休憩はちゃんと取らないとね。
◇◇◇
「木箱の内側には薄く伸ばしたブルーメタルの板が貼り付けてある。そんで、スイッチを押すと温まる仕組みだ」
「既存の魔道具を改造したものだよ」
飛行船にあったミニチュアで説明を始める俺とペンギン。
暖める魔道具は既に日常的に利用されていて、屋敷の風呂、キッチンなどなどあげればキリがないほど。
なので、箱の中が高温になる魔道具を見ても驚く人は誰もいなかった。
「アスファルトを加熱するんじゃな。気になるのはもう一つじゃ」
「順番な。箱に入れてアスファルトを加熱する。んで、地面にアスファルトを敷く。しかし、このままでは綺麗に仕上がらないし、ひび割れしてしまう」
「ほう。それでこの円柱形魔道具なのじゃな」
「魔道具ではないけど、説明しよう。ペンギンさんー」
いきなりペンギンに話を振った俺に対し、ガクンとセコイアの首が揺れる。
思いっきり彼女の機先を制してしまったからな。
ところが、当のペンギンは横に首を振る。ペンギンだけに首の可動域が広い……首がもげそうでハラハラしてしまうよ。
「実際に見た方がいいのではないかね? これでは却って本質を見誤るかもしれないよ」
「宗次郎。ここまで来てお預けとは酷いのじゃ」
「まあまあ、セコイアくん。百聞は一見に如かず、だよ」
「ううむ。宗次郎がそう言うなら我慢するかの」
あっさりと引くセコイアに対し、「うむうむ」と頷くペンギンである。
一方の俺は彼女の態度に目を丸くしていた。
ペンギンに言われたら素直に聞くのに、俺の時はそうじゃないぞ。
じとーっと彼女にねちっこい視線を送っていたら、嫌そうな顔をされた。
「ヨシュア。準備には何日くらいかかるのじゃ?」
「うーん。シャル。どうかな?」
メモ帳を携えた赤毛のシャルロッテに問いかけると、ボールペンでトントンと紙を突っつき答えが返って来る。
「最短で三日ほどかかります。四日後、現地集合でいかがでしょうか?」
「だってさ。予定を開けておいてくれよ」
そんなこんなで四日後に集まることになったのだった。
シャルロッテに予定を調整してもらわなきゃだな……。
そんなこんなで四日後、再びダグラスにやって来た。
今回は本格的な工事が始まることもあり、作業をする人もかなりの人数が集まっている。
実物大のアスファルトを熱する箱を並べ、次から次へと地面に敷いていく。
ここで登場するのが、横幅一メートル半、高さ70センチほどの横長の円柱だ。円柱には鉄の棒が通してあり前方に引っ張れるよう手すりとなっている。
テニスコートを整備したりする時につかうコートローラーを大きく、重くしたものが今回準備した円柱だ。
整地用ローラーとでも呼ぼうか。
整地用ローラーはローラー部分が石で出来ており、非常に重い。人間が引っ張るには辛いので、馬に引っ張ってもらおうと考えているのだ。
「ヨシュア様。こちらをアスファルトに沿って引けばいいのですね!」
ふんすと自分の役目だと勘違いしたエリーが整地用ローラーの手すりを掴む。
当たり前だが、彼女は無手と同じように軽々と歩く。馬でも進み始めは多少苦労しそうなんだけどな……。
エリーが余りに自然に歩くものだから、真似した作業員が整地用ローラーを押し、ひっくり返りそうになっていた。
ざわつく作業員たちに向け、親方が「アスファルトの作業を続けろ」だの「馬を用意しろ」だの指示を出している。
「ふむ。あの円柱で踏み固めるのじゃな」
「整地用ローラーというものなんだ。今俺が勝手に名前を付けた」
ようやく見れた現場に対し、満足気に頷くセコイア。
彼女の注目は整地用ローラーに向いている。
「ほうほう。整地用ローラーで踏み固めなければ、ならぬものなのか?」
「そうなんだよ。アスファルトは高温かつ敷いた後に圧縮しなきゃ、ボコボコになってしまうんだよね」
「魔法で圧縮となると、固めるよりかなり高度になるのお」
「みんなセコイアのような魔法を使えるわけじゃないからな。セコイア一人で全ての道を圧縮するわけにはいかないからさ」
「うむ。魔法を使わず整地用ローラーを使うのならば、人を選ばぬ。馬に引かせるにしても、現地に運ぶのが難点じゃの」
「そうだなあ。重すぎて馬車で運ぶのは難しいと思う」
魔石機車なら運搬も余裕なんだけど、線路沿いじゃないところに持って行くのは難しいな。
アスファルトを利用するにはやはりコスト高になっちゃうよねえ。
しかし、コンクリートを固める魔法使いを用意しなくていいのは利点だな。
アスファルトそのものを運ぶことを考慮すると、トータル的にまだまだコンクリートには及ばない。
しかし、いずれアスファルトを利用する時が来るかもしれないものな。ペンギンの提案に感謝だよ。
瞬く間にできていくアスファルトの道に一人頷く俺であった。




