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364.光って

「お待たせ。ガラム。トーレ」

「何を作るんじゃ?」

「実物はダグラスで作ることになるんだけど、検証用の小さなサイズのものをここで作って欲しい」

「ルビコン川から水を引くのですかな」

「そうしよう。まず固体を取り除くフィルター槽と曝気槽を頼む。曝気用のモーターの設計図はあったのだっけ」

「ありますぞ。魔道具になりますので、某が作りましょうぞ。お任せあれ」

「儂が箱を作ろうかの。コンクリートでいいかの?」


 ネラックの街に浄化設備はあるんだよね。

 当初はペンギンに頼んでモーターを使った曝気槽をと思っていたんだけど、最終的に必要なくなった。

 というのは魔石を生産できるようになり、浄化の魔道具で事足りるようになったからだ。

 そんじゃあダグラスでも同じようにすればいいじゃないか、と思うかもしれない。

 魔道具を使った浄化設備はメンテナンスが非常に手間なんだよね。街として成立し、ある程度人が住んでいれば人員を回すこともできる。

 しかし、ダグラスはまだ無人だろ。毒水がある状況で人を住まわせるわけにもいかない。

 ならば工事の人員のように魔石機車で輸送すればとも考えた。

 工事の人員に加え、浄化槽をメンテナンスするだけの人員を乗せて運ぶにはコストがかかり過ぎるし、魔石も運ばなきゃならない。

 まだある。地下水から魔素を取り除くための設備についてもメンテナンス要員が必要になるだろ。

 

「ヨシュアくん。私たちは魔素を取り除く設備の検証に入ろうか」

「うん。魔素を取り除く槽はフィルター槽の次か、最初かどちらかだよね」

「そうだね。最初が望ましい。が、大きな不純物によって魔素除去槽にどれだけ影響があるのか次第だね」

「うーん。魔素を発散させるとなればアレだよな」


 そう。公国北東部に魔素が流入し、大惨事となったあの事件の時に使ったダイナマイト型魔道具だ。

 魔素を電気に変えて発散させる。

 魔素が濃すぎて大爆発の花火となったわけだが……。

 

 どうしたものかと首を捻る俺をよそに、アルルがいそいそと水槽を運び俺たちの前に置く。

 続いてエリーが50リットルは入ろうかという(かめ)を抱えて水槽に水を注ぎはじめる。

 

「だ、大丈夫?」

「お任せください! こぼさぬよう慎重に注がせて頂きます」


 サイズがおかしいが、エリーにとっては缶コーヒーを持つのと変わらない。分かってはいても細腕の彼女が大きな甕を抱えている姿にはギョッとする。


「ありがとう。アルルくん、エリーくん」

「ううん!」

「ご用命あればお申しつけください」


 アルルとエリーがペンギンに笑顔を向けた。

 対する彼はフリッパーをあげて礼を述べる。


「ペンギンさん。この水って」

「ダグラスから持ってきたんだよ。魔素とは本当に摩訶不思議だ。水に溶けているのか、混じっているのかも分からない」

「ん。あ。ああ。そうか。確かに。自然と受け入れていたけど、疑問を持つべきだった」

「魔素が油のように水に混じるだけなのか、魔素水溶液になるのかは置いておくとして、水と一緒になった魔素は『漏れださない』」

「発電で魔力を生産する時には水槽から外に漏れだして大変だったものな」

「水に混じると魔素の特性が変わるのだとしたら、既存の電気魔素反応は使えないかもしれない」

「ちょっとまとめさせて」


 黒板に書きながらまとめていこう。

 魔素というのは人体にも空気中にもどこにでもある。空気中にある魔素の濃度を仮に1としよう。

 空気と異なるのは魔素は一定の箇所に集中し密度が高まることがあるってこところかな。

 身近なところにも密度が高まる事象がある。それは体内だ。

 人体には魔素が溜まり、魔力密度として測定可能である。

 人によって魔力密度が変わるのだけど、健康状態の魔力密度から上下すると体調が悪くなったりするんだ。


「空気中の魔素は自由に動く。水槽のガラスもすり抜ける。たぶん、俺の体も魔素がすり抜けているのかな? そこは考えなくていいか」

「水は魔素を捉える力があるが、どれだけ留めておけるのかは不明だね。鉱石と同じく一定の魔素密度でないと吸収しないのかもしれない」

「人体の九割だっけ、は水分らしいので、水に魔素を捉える力があるとすれば、体内に魔素を溜め込むことができるのも納得かも」

「ん。私たちはそもそも大きな勘違いをしてないだろうか?」

「な、なんだってえー」

「いや。そこまで驚くほどのことではないだろう。単に地下水の魔素は通常我々が飲んでいる水に比べて魔素が多少高いだけなのだろう。この世界のあらゆる物質には魔素が含まれているのだから」


 「なんだってえー」は様式美なのだけど、同じ地球出身のペンギンには通じなかったみたい。少しだけ寂しい。

 う、うーん。

 そうだ。ここには魔法に詳しい大賢者がいたじゃないか。


「セコイア。あれ。セコイアがいない」

「トーレ様とモーターの設計図をとりに行かれました。お呼びいたしますか?」

「いや。これから嫌でも顔を合わせるし、後からでいいよ」

「畏まりました」


 そこで俺は自分が白熱してしまったために他の人を放置してしまっていることに気が付く。

 ガラム、トーレ、セコイアは既にこの場にいない。

 バルトロは壁に背を預けふああと欠伸交じりにこちらを窺っているし、ルンベルクは最初の位置から微動だにせず俺たちを見守っている。


「非常に興味深く聞かせて頂いております」

「難しそうな話だが、結果が気になる。まとまるのを待ってるぜ」


 気を遣ってか二人がこんなことを言ってくれた。


「ルンベルクとバルトロは魔法を使わないんだっけ?」

「おっしゃる通りです。私には魔法の才がなく、ハウスキーパーの中で魔法を使う者はアルルーナのみでございます」

「おお。アルルって魔法が使えるんだ。すげえ」


 アルルへ目を向けると「えへへ」と八重歯を出してはにかんだ。


「うん! 見るー?」

「マジで。いいの?」

「見ててー」


 アルルが懐から小さなルビーがはめ込まれた鋲を取り出し手の平に乗せる。


「お願い。光って」


 これが呪文なのだろうかとペンギンと顔を見合わせているうちに、アルルの手にあるルビーがぼんやりと光ったではないか。


「すげえ。すげえよ」

「おおお」


 ペンギンのフリッパーを掴み小躍りする。

 そこへ、戻って来た狐がふふんと無い胸を反らす。

 

「魔法を使うには媒体と呪文が必要なのじゃ」

「媒体と呪文があれば誰でも使うことができるの?」

「素地が必要じゃな」

「媒体ってなんだっけ?」

「一般的なのは杖じゃ。猫娘の場合はそこのルビーじゃな。宝石が媒体となる」

「へえ。セコイアが杖を構えているのって滅多にないよな。呪文? 詠唱? も」

「まあ。そうじゃな。上級者じゃからな。ぬふふ」

「上級者……何というパワーワード」

「前にも説明した気がするのじゃが。してヨシュア。ボクがいない間にまたカガクの話をしおってからに。一から説明するがよい」


 ちょうどいい。いずれにしろセコイアには一から説明するつもりだったからな。


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