350.ダントツ一番人気
346話が抜けてましたので差し込みしております。
お次は鍛冶場付近から離れ、街の商店街に向かう。馬でね。セコイアが後ろに座り、ペンギンを間に挟むというなかなかぎゅうぎゅうな構成になった。
重量的には全く問題なく、セコイアならペンギンを落とすこともない。見た目が不格好なだけで、大公としてどうかと思わなくも……今更なので気にすることもないな。うん。
馬で移動する姿も十年後にはネラックで見かけなくなるかも……てそんなわけないか。ネラックには外からも様々な人々が訪れる。商人の多くは馬車だろうけど、護衛が馬の時もあるし、旅人は徒歩より馬であることが殆ど。
中には別の騎乗生物に乗っている人もいるが、ロバが最も低コストで次が馬だ。そんなわけで、馬の需要が無くなることはないだろう。
……しかし、魔石機車と飛行船もある。更に今開発中の……おっと内心悦に浸っていたら通り過ぎてしまった。
到着したのはショーウィンドウがあり、入り口の間口が広く取られたお店である。
ショーウィンドウにはスケードボードや革ではなく布の靴、サッカーのユニフォームのような服が飾られていた。
「職人の店には見えぬが」
「うん。ここで何かを作ってるわけじゃないよ。ここはスポーツ用品店なんだ」
「また聞いたことのない店を始めたもんだの」
「聞いて驚くなよ。この店は国が経営者なんだぞ」
「へー」
セコイアの目が死んでる。至極どうでもいい。まるで興味がないと目だけじゃなく、シナっとなったもふもふ尻尾まで使って態度に出ている。
こんな時すかさずフォローしてくれるのがペンギンだ。いつもありがとう心の友よ。
「新しい文化を根付かせようとしてるんだよ。ヨシュアくんは」
「文化? 文化は勝手に生まれるものじゃろ」
「そうだね。文化ではなくブームの火付け役になろうとしている、と言い換えてもいい。今後、ますます人々は豊かになっていく。そうなると娯楽がより肝要になってくる」
「娯楽施設には見えんがの」
「来月に競技会をすることになっている。そこで、いくつかのスポーツ競技を披露することになっていてね。試合も行うつもりだよ」
「レーベンストックでやったようなものじゃな。なるほど。祭りの下準備かの。楽しみじゃ」
ちょっと違うけど、セコイアの機嫌が戻ったようだった。
敢えて突っ込む必要もあるまい。競技会を開催することは事実だし、お祭りのように熱狂してくれれば大万歳だよ。一回目はお披露目程度になるだろうな。観客はどんなプレーがファンタスティックなのか分からないもんね。
スポーツ競技を根付かせていきたいと考えているんだ。見る人も競技を行う人も熱狂してくれるような。
ボールも作ったことだしさ。
この世界にはまだまだ娯楽が足りないと思っている。
レーベンストックでやったような闘技大会といった人気競技もあるにはあるのだけど、戦いと関係ないものも俺らしいだろ。
スポーツ全般苦手だろというツッコミは聞こえない、聞こえない……。
扉を開けるや否や店主が深々と頭を下げる。
「いらっしゃいませ。ヨシュア様! ご足労いただきありがとうございます! みなさん奥でお待ちです」
「まだ時間前だと思っていたけど……遅れてましたか?」
「いえ。まだお約束の時間前です。皆、来月の競技会が楽しみで仕方ないらしく。ずっと前に集合しておりました」
うんうん。気持ちは痛く分かるよ。俺も楽しみだもの。準備がとても大変ではある。
収穫祭の翌月にと、お祭り続きだものね。しかし、運営メンバーが異なるので問題無し。
俺以外はな……。ら、来年からは任せてしまうんだからね。今回だけよ。
収穫祭の方は大半お任せで、大量の書類を次から次へとさばいた……だけ、だったもん。
寝れなかったとか気のせいだ。
奥の部屋に通され、長テーブルに座っていた人たちが一斉に立ち上がる。
「ヨシュア様! お待ちしておりました!」
「ヨシュア様!」
すごい勢いに顔が引きつりそうになりグッと堪える。
「球技のうち、とっつきやすそうなものはどれだったかな?」
早速尋ねてみると、黒板を前にした若い男が胸に手を当て一礼し、説明を始めた。
「ダントツ一番人気はサッカーでした。二番はハンドボール。あとはどっこいどっこいでしょうか」
「おお。サッカーはルールが一番シンプルだからかな」
「はい。ボールの大きさ、蹴り心地などを考慮し、二種類用意しました。もちろんこれで決定というわけではないのですが……」
「いや。その二種類で好評だった方を採用しよう」
「あ、ありがとうございます! 実はもう意見をまとめております。こちらをご覧ください」
ささっと別の人が俺のために用意された席の前に紙を置く。
ふむふむ。
俺が座ると黒板の前の男以外が着席する。
一方のボールは固めにできており、飛距離が出ないもののその分ボールコントロールがし易いそうだ。
もう一方は柔らかめで少しだけ小さい。こちらは良く跳ねるボールで飛距離も出る。
蹴っていて面白いのは後者なのだけど、総合評価は同じくらいになっていた。
「なかなか、悩ましい状態ですね……」
ふむと顎に手をやると、黒板の前の男も同意のため息をつく。
集まっている人のうちサッカーに関わっている人たちも似たような反応だった。
「個人的な見解ですが、固く扱いやすいボールの方が良いのではと思います。まずは扱いやすく間口を広げる方向ではどうでしょうか」
「決めきれないところ、ヨシュア様に押し付けた形になってしまい申し訳ありません。ヨシュア様のご意見に賛成です!」
他の人ももろ手をあげて賛成してくれる。
これでいいのかな……ま、まあ。問題があれば後々修正していくことだろう。
ボールは適宜改良していくこと、という意見も付け加えておいた。
「サッカーのことを先に決めてしまいましょうか。他にユニフォームや競技場について協議を進めてもいいでしょうか?」
「もちろんです! ユニフォーム案ですが、デザインはそれぞれのチームに任せるとして基本はヨシュア様の案に近いものが好評でした」
半袖に膝丈のズボン。シューズにソックスか。
まんま地球のサッカーのユニフォーム風になった。アクリルが無いので使っている繊維は異なるけどね。
色んなチームのユニフォームが並ぶと爽快だろうなー、なんて想像するとついつい頬が緩む。
コートとゴールポストの広さと大きさも地球のサッカーとほぼ同じになり、意見がまとまった。
「次は個人競技に話を移したいと思います。まずは元々計画していたスケートボード競技からお願いします」
ちゃきちゃきと議事進行を務める俺である。
誰かに任せると俺がいるため恐縮して中々進まないのだよね。
それ故、俺が先陣を切るのが一番いいのだ。




