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342.このままじゃ済まさんぞ……

「あ、えっと。さっきポールにさ。二人の屋敷を準備するように依頼したんだよ。他にも考えていることがあってさ」


 リリーとマルティナがエリーを凝視していたので、何とかこっちに気を惹こうと話しかけてみたものの、何とも中途半端になってしまった。


「え。私。ヨシュア様のお屋敷が良かったな」

「わ、わた、しはお、や、しきなんて。と、とんでも、ない、です」


 二人とも理由は異なるようだが、望むことは同じだった模様。

 うまくエリーから目を離してくれたので結果的に良し、だ。


「俺としても二人にはこの屋敷にいて欲しいところなのだけど、さすがの俺でも外聞がな」


 腕を組み眉をひそめ、首を振る。いかにも困ったという仕草なのだが、マルティナが真似をしていて可愛い。

 こういうところはまだまだ子供だよな。

 

「外聞? 確かに、そっか。私はともかく、マルティナも……? まさか。もう一人って」

「う、ん」


 あれ。とっくに紹介し合ってると思っていたが、まだ名前を伝えあっただけだったのか。

 伝えていないにしても、俺の屋敷に幼いエルフの少女がいることで察してくれていたと思ったのだが……そうではなかったらしい。

 マルティナとしても皇女って聞いたわけだから、俺の屋敷に招かれていても不自然には思わなかったのだろう。

 皇女なら賓客でもおかしくないからな。

 しかしだな。家財道具まで運び込んでいるのだから、何かが違うと察していても……。

 いや、これは俺の不手際だ。


「ごめん。ちゃんと紹介するつもりだったんだ。二人が仲良さそうにしていたから勘違いしてしまった」

「ううん。私。もう一人がマルティナで嬉しい!」

「わ、たし、も」


 リリーがマルティナの手を取り、「ね」と首を傾ける。

 対するマルティナは何かを言いたそうに口を開き、閉じた。

 何かを伝えたいのだろう。リリーに……いや、言わずとも彼女はじっとマルティナを見つめ続きを促す。

 大丈夫だよ。ゆっくりでいいんだよ。とでも言わんばかりに歳不相応の慈愛の籠った笑みを浮かべながら。

 

「わ、わた、し。ちゃ、ん、と。喋るこ、と。で、きない、から。はじめて、あって、わたし、と、おはな、し。してくれ、た。の、は」


 一息に喋るのは疲れるのだろう。マルティナはここで一呼吸置き、続ける。

 

「こう、じょ、さま。くもの、うえ、のひと。だけど、わた、し、にも。だか、ら。リリー、が。聖女さ、ま。うれ、しい」

「マルティナあー!」


 たどたどしくも言葉を紡ぐマルティナに感極まったのかリリーが彼女に抱き着く。

 二人を聖女に選んだ「神」とやらもなかなかやるじゃないか。

 彼女らなら人々に神託をもたらす聖女として慕われるに違いない。

 今更ながら、「二人」選んだのも神の粋な計らいだったのではないか、と思う。

 アリシアは聖女という重圧で病みかけていた。でも、二人なら支え合って責務を果たしていける。

 

「ヨシュア様。困ったことがあったら何でも言ってって。本当に何でもいいの?」


 マルティナから体を離したリリーがじっと俺を見上げてくる。

 コクリと頷きを返すと、少しの間があってから彼女が意を決したように口を開く。

 

「大魔術師様から魔法を習いたいの」

「大魔術師? 帝国の宮廷魔術師を呼べばいいのかな?」

「う、ううん。ヨシュア様は大魔術師様と親しいと聞いたのだけど、違った?」

「大魔術師……。大魔術師ねえ……」


 はて。そんな人物が俺と親しい間柄に?

 ローゼンハイムには一応宮廷魔術師がいるにはいるけど、帝国ほどじゃないと思うんだよな。

 大賢者なら知っているけど。

 ちょんちょん。

 む。誰かが背中を指先で突っついている。振り返る前に猫耳が顎に触れ誰だか分かる。


「セコイアさん」


 そっと耳打ちしてくれる猫耳のアルル。


「あ」


 そうだった。そうだったよ。あの涎のことだ。

 俺も自分で彼女のことを大魔術師って呼んだことだってあるじゃないか。

 

「リリー。大魔術師。知ってる。俺。知ってる」

「ヨシュア様。何だか口調が変……」

「そ、そうかな。セコイアから魔法を学びたいの? 専門の教師の方がいいんじゃ」

「私ね。マルティナともっと仲良くなりたいなって。それでね。頭の中に話しかける魔法を学びたいの」

「ほほお。俺が習得したい魔法のトップ3じゃないか。遠話って魔法だ。セコイア以外にも使えるとか聞いたけど」

「うん。だけど、せっかくなら世界で最も偉大な魔法使いから学べないかなって。何でも良いって言ってくれたから……」

「頼んでみるよ。もし学べることになったら、ハンカチは常に持っておいた方がいい」

「ハンカチ……? 修行が激しいのかな……」

「いや。ハンカチは引き受けてくれることになってから、考えればいい」


 俺の前だけなのかもしれないけど。涎まみれになるの。

 ああ見えてセコイアって他では年長者らしく振舞っている……と聞いている。本当かよ、って思うけど。

  

「よ、しゅあ、さ、ま。わたし、も。学び、たいです」

「もちろんだよ。すぐそこにいるからさっそく頼んでくるよ」

「その必要はないのじゃ」


 ババーンと登場したのは噂の大魔術師だった。

 ペンギンを抱えての堂々とした姿……には見えないな。人形を抱えた幼女のようでほのぼのする。

 ただし見た目だけ。

 この二人こそ、我が国が抱える知の最高峰なのである。

 

「科学と魔法談義をしてたんじゃ」

「不穏なセリフが聞こえてきたから来てみたのじゃ。宗次郎も一緒にの」

「ペンギンさんの悪口は言ってない。言ったこともないし、ペンギンさんに対する悪口なんて思いつかない」

「暗にボクに対して何か言っておることを認めておるぞ」

「失礼な。大魔術師様だ、って褒めてたんだよ」

「ほう。ハンカチとはどういうことじゃ?」

「それは必要だからだろ」

「そんなわけあるかあああ!」


 セコイアが来たら一気に騒がしくなったな。 

 「よおし、よしよし」と頭を撫でると大人しくなった。

 全く。どっちが子供なんだか分からなくなってくるな。リリーとマルティナと見た目こそ同年代のセコイアは俺の数倍は生きているだろうに。

 

「早速だが、一つ頼みがある」

「遠話を二人に教授すればよいのじゃな。先に言っておくぞ。魔力密度3には無理じゃ」

「5だと言ってるだろ! それはともかくとして、パッと見るだけでマルティナとリリーが習得可能って分かるの?」

「水準以上の魔力密度がある。問題なかろう。エリーより高いくらいじゃぞ」

「そいつはすごい」


 お。おおお。

 エリーの魔力密度は綿毛病に罹患しないくらい高いんだ。

 彼女よりも魔力密度が高いとなると相当だぞ。

 達人ぞろいのハウスキーパーの中で最も魔力密度が高いのはエリーだった。二人はそれ以上なんだものな。

 素直に感心していたら、狐が爆弾を投下してくる。


「ボクの恋のライバルであるアリシアよりは低いがの」

「アリシアってそんなに魔力密度が高いのか」

「そうじゃのお。ヨシュアと出会ってから今までで一番魔力密度の高い『人間』はアリシアじゃな」

「マジかよ」

「一番低い『生物』はヨシュアじゃな」

「余計なことは言わんでいい。ほら、俺もさ。大公って立場がだな。ここにはリリーとマルティナもいるだろ」

「いつものことじゃろ。問題あるまい」


 正論を言われて黙ってしまった。

 口惜しや。このままじゃ済ませんぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不穏なサブタイトルだと思ったけど、うふふふふ。にぎやかで朗らかになりそうで何より何より♪
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