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334.ニクニク遊び

「ニクニク」

「齧ったらダメだぞ!」


 日向ぼっこをしていて動かなかったオレンジ色の爬虫類をむんずと抱き上げ……思った以上に重たかったので手を離し……。

 いやいや、その話じゃなくてだな。

 彼はそもそもテラスにいたから動かす必要なんてなかった。

 セコイアがお届けもののおもちゃを取って戻ってくる。

 彼女が胸に抱えるのはボールだ。バスケットボールより一回りくらい小さい。色は紫色である。

 覚えているだろうか。アストロフィツムで染めたんだよ。アストロフィツムはサボテンの一種でここネラックに自生していた。

 ダイナマイト型魔道具を染める時にもアストロフィツムで染めようかなと思ったのだけど、毒々しい色だってことで止めにしたんだ。

 ダイナマイト型で紫だと毒霧が出てきそうなのだもの。俺の偏見であることは認める。

 

「ほれ」

「ありがとう」


 セコイアから紫色のボールを受け取った。

 しげしげと縫い目を見つめる。

 ……俺に分かるわけがないので、使い心地を試してみることにした。

 こいつはホウライから輸入したゴムで出来ている。

 ゴム製品で作ってみたかったものの一つがタイヤだったのだけど、工業製品だけじゃなくて遊具も作りたいと思ってさ。

 革のボールがあるにはあるんだけど、革にゴムで補強する形がいいかなとガラムに相談中である。

 既に革とゴムのボールもサンプルが出来ているんじゃないかな……ガラムのことだし。

 てなわけで、こちらはお試し用のボールで製品化する際にはもっと小さくする予定。ハンドボールくらいがいいかなと思ってる。

 紫色のボールを地面に落としてみた。

 土の上だとあまり跳ねないか。石畳の上ならどうだ?

 ぽーん。

 落としただけでも腰上くらいまで跳ねた。


「どうじゃ?」

「いい感じだよ。丁度いいと思う」


 ピクピク狐耳を動かすセコイアにうんうんと頷く。

 紫色のボールを軽く押すと、いい感じで反応が返ってくる。

 どうやってボールの中に空気を入れようか、とか頭を悩ませたけど自転車用の空気入れの設計図をペンギンが作ってくれていた。

 設計図を見たところ、そんなに複雑ではないことが分かる。チューブ部分に使うゴムがあれば、量産も問題ない。

 

「この分だと自転車も作れそうな気がする」

「何じゃそれは?」

「ペダルをこいで進む台車みたいな」

「押すよりは動かしやすそうじゃの」

「うんうん。馬よりは遅いけど、走るくらいの速度は出るんだ」

「ヨシュアが走るくらいの速度ではないんじゃよな?」

「……アルルやバルトロよりは全然遅い」

「ゆっくり走る馬車くらいのものかの」

「んー。それくらいじゃないかな」


 などとセコイアと会話しつつ、オレンジ色の爬虫類ことゲラ=ラに向けて紫色のボールを転がす。

 コロコロと彼の前を転がるボール。

 しかしあろうことかこの爬虫類は目を開けもせず、前脚をピクリとも動かさなかった。

 ボールが虚しくそのまま転がっていく。

 

「ほおら。ゲラ=ラ。ボールだぞお」

「……」


 呼びかけてもピクリとも動かねえ。

 たまにはペットとキャッキャウフフしようと思ったけど、所詮爬虫類では上手く行くわけがないか。

 無言でボールを拾い上げ、近くにあった平たい籠をズリズリと引っ張ってきた。

 葦を編んで作ったものかな。平といっても食器のボールを大きくしたようなもので、丁度いい。

 

 籠から少し離れてボールを投げる。

 明後日の方向に行ってしまった。

 

「何をしておるんじゃ?」

「ここからボールを投げて、あの籠に入れる遊びをしようかと」

「ほう。ボールは良く跳ねるからの。石を入れるより面白いかもしれんな」


 選手交代。

 今度はセコイアがボールを両手で挟み、えいやっと投げる。

 ボールが真上から籠に入って、ぽーんと垂直に跳ねるもまた籠へ。もう一度ボールが跳ねて籠の中に収まった。

 

「え、えええ……」

「こんなところじゃな」

「いやいや。たまたまだろ」

「全く。疑り深いのお」


 再度セコイアがボールを投げる。今度も同じ軌道で籠の中にボールが収まった。

 いやいや。まぐれが続いただけだ、ともう一回お願いしたら結果はまたしても……。

 こいつ、何か魔法を使っただろ。

 ちょうど尻尾をフリフリして歩いていたアルルを捕まえ、彼女にもボールを投げてもらったんだ。


「えい」

「そうだよな。普通そうなるよな。籠に行ってもボールの勢いで外に出る」

「ん?」

「セコイアがさ。真上からボールを落として籠に入れたんだよ」

「分かったー」


 えへへーと笑顔を見せたアルルがぽーんとボールを投げるとセコイアと同じ結果となった。


「念のため、何か魔法を使っていたりしないよな?」

「アルルは魔法。使えないよ?」

「セコイアが何かしていたり」

「遊びに魔法を使うわけがないじゃろ」

「ええええ。いやいや、ボールを投げる練習をしていたわけじゃないだろ」


 セコイア、アルルは同じ仕草で頷く。

 揃って耳を動かしている姿に癒された。

 ……じゃなくてだな。


「最初からそんな上手く行くはずがないって。それに全く同じ軌道を描くとか人間技じゃない」

「ボクは人間ではないからの」

「アルルも。猫族だよ」


 種族の人間を指しているわけじゃないんだああ。

 と突っ込むのもあれなので、大人な俺はスルーすることにして今度は自分でボールを投げる。

 籠にさえ当たらない。

 何度か投げてみたが、籠に当たるだけでもラッキーくらいだったぞ。

 

「閣下! このようなところに!」

「やべ」


 少し休憩するだけのつもりが結構な時間をここで過ごしていたらしい。

 シャルロッテに捕捉されてしまった。

 ん、書類を持っている感じじゃないな。手提げ用の籠を握りしめているが……。

 どうしたんだろうと様子を窺っていると、シャルロッテが顔が引っ付きそうなくらいまで接近してきた。


「シャル?」

「も、申し訳ありません。閣下のお考えに少し興奮してしまい」

「んん」

「ゲ=ララ氏のお食事時間にこうして閣下にお会いできるなど思ってもみませんでした! 政務の合間を縫って閣下もゲラ=ラ氏と」

「え、あ」

「ご心配なさらないでください! 私がお食事を持ってきております!」


 籠にかかった布を得意気に取り去るシャルロッテ。

 中はブロック状に切り分けられた生肉だった。

 

「ニクニク」

 

 肉の匂いを嗅ぎつけたオレンジ色の爬虫類がむくりと起き上がる。

 さっそく籠を地面に置いて彼に肉を与えようとしたシャルロッテに待ったをかけた。

 

「これだ! 行くぜ」


 籠から肉の塊を掴み、ぽいっと軽く投げる。

 地面に落ちる前に大きな口でキャッチし咀嚼するゲラ=ラ。

 

「まさか落ちて来る軌道じゃなく空に向かう軌道の時にキャッチするとは。次行くぞ」

「ニクニク」


 投げる。ゲラ=ラの口の中に納まった。

 そうか意地でも肉を落とさないつもりだな。

 いいだろう。まだまだ肉はある。

 ボールのことはどこへやら、肉を必死で投げ込む俺であった。


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