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323/382

322.際に見たほうが、だが、ことわ

 走り出したと思ったらすぐ終わりになる……検証用路線だから短いものな、仕方ない。

 もう一度小型機車に乗りたいなあ、なんて考えている間に月日が過ぎていく。

 小型機車路線は一本目が完成し、二本目に取り掛かっている最中だ。俺はまだお楽しみのお預け中である。

 そして、「やった! 政務が片付いた」と喜んでいた昨日の俺、元気ですか?

 今日の俺は空の上です。

 同行はシャルロッテにセコイア、そしてリッチモンドだ。

 

「……であります」

「了解。ありがとう」


 相変わらず元気一杯のシャルロッテに対し会釈する。

 

「ヨシュア様の掲げられた六本柱は順調に推移しているであります」

「やっとここまで来たかあ」


 六本柱とは街の運営を滞りなく進めるための六つの項目「商業、住宅、交通、教育、娯楽、治安」のことだ。

 懸案事項だった交通も小型機関車路線の開通で解決の見込み。

 娯楽施設は公衆浴場に加え、劇場も完成した。もう一つ、俺の提案で競技場付きの公園が建設中である。他にもいくつか完成予定で……そうだ。一部の道に街路樹も植え初めていて、春になるのが楽しみなんだよね。ふふふ。

 技術開発は引き継ぎ進めているし、プラスチック製品に至ってはもう市場に並んでいる。

 六項目全て順調。市政は一旦落ち着いたと見ていいか。


「懸案事項はございますか?」

「シャルや俺がどこまで市政から手を引けるか、だな。国政と市政の官吏は分けたい」

「全て手を引くのは混乱を招くかと。決裁・確認が必要な案件の仕切りを定めるのがよろしいかと愚考するであります!」

「やっぱり、その辺が落とし所だよな」


 しかし、じわじわと市政側での決裁レベルを上げていき、いずれ……グフフ。

 緊急事態以外は対応しなくて良いところまで持っていきたい。

 国政も公国側はある程度まとまってきているし、辺境側も人が揃い、みんな仕事に慣れてきた。いいぞ、いいぞ。

 そろそろハンモックを準備すべきだな。

 

「いやらしい顔をしておるところ、すまぬがそろそろホウライに入ったのじゃ」

「いやらしい顔って失礼な」

 

 人が悦に浸っているってのに、お邪魔虫の狐が絡んできた。

 しかも何を想像しているのか頬が緩んで涎が出てきそうな体たらくである。


「ボクのあられもない姿を夢想しておったのじゃろう。構わぬが実際に見たほうが良いのじゃないのかの?」

「それは絶対にない」

「何をお! そ、そうか。分かったのじゃ。男の姿を……」

「何でそうなるんだよ! 俺はノーマルだからな、一応」

「覗きの一つもせんキミがか。やたら宗次郎やバルトロと風呂に行く割に」

「たいていは一人で入ってるって。たまには誰かと入りたくなるだろ」

「ふむ。ならば……」

「セコイアと入ったら、ゆっくりと浴槽につかれないからダメだ」

「むきぃぃー」

「ちょ、舵取り、舵取り!」

「問題ない。その程度で乱れるわけがなかろう」

「さすが、大魔術師」

「褒めて良いぞ」


 よおし、なでなでしてやるぞお。

 ……そうではなく、ホウライに入ったんだったな。

 政務を片づけたので、視察に行きたかったホウライにようやく向かえたってわけさ。

 今回はセコイアに活躍してもらわないといけないからね。なでなでしたらご機嫌になる狐はちょろい。


「リャウガ川に向かってくれ」

「どこじゃそこは」

「ユマラに出会った近くにあった川だよ。リッチモンドに頼んでくる」

「もう伝わっておるから問題ない」

「聞こえてたってことね」

「然り、じゃ」


 俺以外のスペックが高過ぎ問題は今更なのでもはや何も言うまいて。

 操舵席にはリッチモンドと普段飛行船を運行してもらっているスタッフを一人連れてきている。

 乗船前にリッチモンドへ航路を伝えているので、迷うこともないだろう。

 じゃあ何で「リャウガ川へ向かえ」なんて言ったのか。な、何となくカッコいいかな……何て思って……。

 

 リャウガ川に差し掛かったところで低空飛行に切り替える。

 双眼鏡から覗き込む景色に息を飲む。

 数キロはあるだろうコンクリートの堤防に、人工的に作られた支流。支流の先にはいくつかのため池も見える。

 上流にコンクリートの製造拠点を作り、そこから川を下って、人手は飛行船で運び、工事現場に人員を配置していたと聞いていた。

 飛行船は大活躍らしく、人・モノ・専門家による上空からの考察……と様々なことに活用されていると報告を受けている。

 活用の証拠に発着場らしき箇所もあるじゃないか。


「素晴らしい」

「工事の進捗率が凄まじいですね。春までに完了するかもしれません」


 そっちか!

 別のことを考えていたなんて、シャルロッテの前で言えるわけがない。

 

「……うん。そうだな。目標は今年度で4割だっけ」

「はい。38パーセントが目標と計画書に記載されているであります!」

「護岸工事はほぼ完了しているのかな」

「地図を確認するであります」

「いや、ジョウヨウに寄ってイゼナに聞いた方が早い。リャウガ川の視察を続けよう」


 護岸工事を行うといっても流域の全てに対しコンクリートの堤防を作るわけじゃないからな。

 ホウライでは過去に何度か治水工事を行っていた。なので、どの場所を強化すればよいのかは調査済みである。

 コンクリートで固める作戦は上手く行っているようで何よりだ。

 ダムや堤防といえばコンクリートというイメージがあるが、話はそう単純なものではない。

 コンクリートを固める魔法。これこそが秘訣なのである。

 ホウライで使用しているコンクリートはネラックで使っているものと同じものだ。地球風に表現するとローマンコンクリートというものになる。

 ローマンコンクリートは現代日本で使っているコンクリートより固まるまで時間がかかるが、その分、劣化し辛いと聞く。

 いくら固まれば水を通さぬ頑丈なコンクリートでも固まる前に水に飲まれると役に立たないのだ。

 

「竹林があるのお。ヨシュアが指示したのかの?」

「余裕があれば……と言ったけど、あ、あれか。自然のくぼ地に水を流したら竹が生えました、な感じにも思える」

「意図的であれそうでないであれ、丁度良い」

「ユマラと交渉できそうかな?」

「うむ。同じようなものを作る、として交渉しようではないか」

「飛び降りるなよ。あるだろ、発着場が」

「コンクリートの広場があるのお」

「広場じゃない、あれは発着場だ。いいな、発着場があるんだぞ」


 念を押し、絶対にハッチまで連れて行かれるものかとセコイアを後ろから羽交い絞めにする。

 

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