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317.本日のランチといえば

「うーむ。いろいろあるなあ」


 シャルロッテと二人で外に出てきたわけではない。外出時には必ず誰か護衛がつくのだ。

 セコイアやニクニクのような例外を連れている時は護衛を付けないこともある。

 ハウスキーパーの誰かが俺の護衛役になるのだけど、本日はアルルの番。

 アルルとエリーの交代での護衛役はまだ続いていて、バルトロとルンベルクは俺と二人で行動する時以外は護衛役を行わないことにしている。

 そんな護衛役のアルルが耳をピコピコさせて俺を下から覗き込んできた。


「ヨシュア様。何か、探してる?」

「レストランが一杯並んでるだろ。この辺はレストラン街になってきたのかも」 

 

 アルルは満面の笑みで尻尾をふりふりする。


「そうなのー?」

「もちろん他の店もあるけど、飲食店が多いなあって」

「あれとかー?」

「そう、あれとか。ん、んん」


 僅かな香りに鼻をすんすんとさせた。これは……懐かしいスパイスの香りではないか。

 看板を見てみたら「大森林料理をネラック風に」なんて売り文句が書いてある。

 大森林という表記に不安が募るが、この香り……試してみたい。

 

「シャル。アルル。ちょっと早いけど、まずは食事にしないか?」

「承知いたしました!」

「うんー」


 そんなこんなで、いざ「大森林料理をネラック風に」提供するレストランに入ることにした。

 

 店に入ると香りが鮮やかになり、やはりこの香りはスパイスで間違いないと確信する。

 時間が早いからか、店内には客が殆どいない。


「いらっしゃいま……ヨ、ヨシュア様!」


 エルフのウェイトレスが座席を案内しに来たのはいいが、奥に引っ込んでしまった。

 すぐに血相を変えた店主らしき黒髪のエルフと先ほどのウェイトレスが深々と頭を下げる。


「ほ、本当にヨシュア様が……し、失礼いたしました。私は店主のフレイルと申します。こちらは妻のリンネです」


 二人とも二十歳前後に見えるが、エルフなので実年齢は不明。野暮なことは聞かず、にこやかな笑顔を作り、会釈した。

 

「いい香りがしたもので、私のことは普通の客として扱ってください。空いている席に座っても大丈夫ですか?」

「は、はい! もちろんです」

「大森林料理をネラック風にというところにとても興味を惹かれました」

「大森林料理はこの街の人の口に合わない、そのようなことはありません。少しアレンジすればきっとお口に合うと確信し、この店を開いた次第です」

「そうでしたか。堪能させて頂きます」

「ご来店ありがとうございます!」


 どの席がいいかなあ。窓際だと外から中の様子が見えちゃうし。

 人だかりができたら店主に迷惑をかけてしまう。

 奥まった席にするかなあ。

 

「ヨシュア様、ここでいいー?」

「お、いい感じだな。そこにしよう」


 アルルが示す席は観葉植物で仕切りがされているので、外からは見えない。


「それにしても、一目見て俺だって分かるとは……」

「広場のご尊顔は街の象徴であります! 知らぬ人などいないでしょう」

「そ、そうなんだ……は、はは」

「そうであります!」


 自信満々に言い切るシャルロッテに対し、乾いた笑いが出た。

 

 席に座るのを見計らって店主の妻ことウェイトレスの女の子が注文を取りにやって来る。


「こちらメニューになります」

「まず、水を三つください」

「承知いたしました。お決まりになりましたらお呼びください」

「ありがとうございます」


 さってと、お楽しみのメニューを拝見。

 ドリンクも種類豊富だな。ほうほう、アルコールの提供もしているのか。

 シャルロッテもアルルも真剣にメニューを眺めている。

 俺が頼むものは決っている。本日のランチまたはオススメのどちらかだ。大抵の店にはどちらかのメニューが存在するからな。

 せっかくだから飲み物も頼んじゃおうか。

 

「シャル。アルル。決まった?」

「ヨシュア様はー?」

「そうだな。ヨーグルトドリンクと本日のランチにしようかな」

「じゃあ。アルルも」

「自分もそれでお願いします!」


 それでいいのかと思いつつも、特に否はないのでウェイトレスに注文をしたぞ。

 本日のランチは窯で焼いた平たいパンと大森林風スープのセットだ。あの香りからしてスープとやらはきっと……。

 

「お待たせいたしました。本日のランチとヨーグルトドリンクでございます」


 トントンと本日のランチが置かれていく。

 銀色の盆のような皿に焼き立て熱々の平たいパンと茶色と同じく銀色のカップ二つが皿の中に乗せられている。

 カップは茶色と濃い緑色のスープのようだ。

 こいつは……焼き立てナンとカレーだよな!

 茶色は豆とソーモン鳥のカレーかな。緑色のは何かの野菜をすり潰したものと恐らく草食竜の肉。

 

「美味しそうだ。いただきまっす!」

「いただきますー」

「神に感謝を」


 それぞれ思い思いの言葉を口にして食事を始める。


「お、こいつはラッシーみたいだ」

「手でちぎって、食べていいの?」


 ヨーグルトドリンクはラッシーそのものだった! これはカレーの方も期待できるぞ!

 そんな内心をよそに、アルルの問いかけに首を縦に振り応じる。 


「アルルの食べやすい食べ方でいい。俺も手でいっちゃうかなあ」

「では自分も」

 

 スプーンとフォークは用意されているけど、ナンとカレーなら手でいくのが好みだ。

 ナンに触れたら出来立てだからか熱々で、手ぬぐいで手を冷やし再挑戦。

 ちぎったナンを茶色の方のカレーに浸して……食す。

 

「美味しい! これぞまさにカレー! ちょいと甘口かな」


 ネラックの人でも食べやすいようにと考慮したのはこの点だったのかもしれない。

 いや、考慮した結果カレーぽくなったのかも。

 料理人の考えることを推し量るなんて野暮なものだ。

 ここにカレーがある。それだけで俺はもう満足である。

 味わいはインド風カレーに非常に近い。地球の表現にするとこいつは豆をすり潰し溶かしたダルカレー。

 豆自体は公国でも広く活用されている。もちろん栽培もしているぞ。

 ソーモン鳥のむね肉もダルカレーの味を引き立たせ、口の中で溶けるほど煮こまれている。

 鳥の出汁と豆に各種香辛料でこの味わいが形成されているんだな。

 まとめると、美味しい。それに尽きる。

 

「からいー。けど美味しいー」

「確かに辛いです。ですが、ヨーグルトドリンクを合わせると」


 二人にとっては辛いらしい。

 インドカレーで言うところの1辛と2辛の間くらいかなあ。俺は3か4くらいが丁度いい。

 ともかく、パクチーのような独特の香りがするものは入っておらず、ネラックの人にでも馴染み深い食材と癖のないスパイスで作られているようだな。

 次に緑色の方行ってみますか。

 

「ほ、ほう。こっちはこっちでいける」


 緑の方はインド風に表現するとサーグという葉菜を用いたカレーに近い。

 緑色の元はホウレンソウだろうか。ホウレンソウは公国でも使われている。

 草食竜の肉は鶏肉と豚肉の間くらいで、あっさりな野菜とマッチしているね。うん、サーグも良いものだ。

 いやあ、まさかネラックでインド風カレーを食べることができるなんて、思ってもみなかった。

 定期的に食べに来ようかな。

 あと、スパイスのことは絶対に店主に聞かないようにしないとね。だって、大森林だぞ。

 大森林の調味料と言えば……後は何も言うまい。

 

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