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312.ほくほくの図書館

 図書館で書物を購入……は難しかったのだけど写本があるものは貸し出してもらえることになった。

 正直、俺の地位が故の貸し出しである。気が引けたけど、使えるものは使うのだ。こいつは俺の為ではない、今後の技術革新のアイデアに使わせてもらうとしよう。

 ネラックで写本してもらって、借り受けた本は全て返却することで話が付いた。

 なら、片っ端からということで、写本があるものをとリリーがどんどん俺に手渡して来る。

 

「これも、これも大丈夫みたいだよー」

「お、おう……いいのか、こんなに」

「うんうんー。これもいいってえ」

「うお。おお!」

「ヨシュア様!」


 エリーに背中から支えられ、危うく落としそうになった本をなんとか維持した。

 積み上げるとバランスが崩れてダメだな。まさかこんな量になるとは思ってなくてね。写本があるものなんてそうそう多くないと思ってたんだ。

 写本が終われば各学校とか書店に並ぶものだとばかり。

 正確には俺が写本といっているものの他にも、必ずある写本がある。原本は痛まないように暗く湿気の少ない場所で保管されているんだ。

 図書館に並ぶ本は全て原本から書き写された写本。その写本を元に書き写したのが俺が「写本」と呼んでいるものである。

 ややこしいから、便宜上、図書館に並んでいる写本の他にもう一冊あるものを写本と呼ぶことにしたんだよ。

 

「木箱みたいなものってあるかな?」

「うんー。持ってきてー」


 すぐさまやたら恰幅のよい司書二人が大きな木箱を抱えてどすんと床に置く。

 いくら何でも大き過ぎないかこれ……中に本が入るんだろ。引っ越し用の段ボール箱6つ分くらいの体積がありそう。

 木箱だけでも結構な重さがあるようで、司書二人がふうと汗を拭っているほど。

 ま、まあ。せっかくだから本を入れるとするか。

 エリーにも手伝ってもらって木箱の中に綺麗に本を並べる。


「はいー。これも」

「お、おう」


 あっという間に木箱その二とその三が追加され、どれも本で満載になった。

 それをひょいひょいと積み上げたのはもちろんエリーである。

 あちゃあ。こうなる前に声をかけておかなきゃならなかったのに。本をさばくのに必死で抜けてた。


「馬……むぐう」

「何も言うな、何も言うんじゃないぞ」


 賢い俺はこうなることを予想し迅雷のごとくリリーの口を塞ぐ。

 司書だけじゃなく騎士までも苦も無く積み重ねた三箱を軽々と持ち上げたエリーを凝視している。

 よ、よおし。かくなるうえは平静を装って、このまま入口まで行くのだ。

 

「エリー。手伝おうか」

「問題ありません。ヨシュア様が上に乗られても平気なくらいです」


 これ! どう返せばいいんだよ!

 俺は結構重いと判断すりゃいいのか、俺より木箱一箱の方が遥かに重いぞ。

 

「あ、あー、その、なんだ。本を傷つけないように気を付けてくれよ」

「もちろんです! しかと運ばせて頂きます!」

「入口まででいいからね」

「飛行船まででも平気です」


 知ってる。知ってるけど、街中で木箱を運ぶ姿を見せつけちゃったら瞬く間に噂になるってものよ。

 自然に彼女を説得するには……。

 お、そうだ。

 

「ほら、エリー。中はまあ、外から入ってくる人もいないからいいとして、エリーの役目は護衛じゃないか」

「……! そうでした! ヨシュア様を御護りするのがエリーの役目」

「落とす、落とすうう!」

「大丈夫です。下を支えれば片手でも。歩くと不安定になっちゃいますけど」


 にこやかに微笑まれましても……。

 そんな彼女に気が付かれないように騎士と司書に目くばせする。「分かってるな」とばかりに。

 彼らは察してくれたようで、彼女に見えないように頷いたり、拳を握ってみせたりしてくれた。

 

「綺麗な人なのに護衛さんだったのね」

「そ、そうだな。うん」

「重くないのかな。エリーさん」

「全然大丈夫です! ヨシュア様のご負担を少しでも減らすことがエリーの喜びです」


 リリーよ。今のはかなりの危険球だぞ。どこかで彼女に事情を説明したいところだけど、生憎、木箱を抱えたエリーを放置しておくわけにはいかない。

 俺が目を光らせておかねば、どのような怪力ハプニングが起きるやら。

 おっと、ちょっとばかし力が強いだったわ。

 

「いいなー。わたしの護衛さんもエリーさんみたいな人がいいー」

「帝国騎士か宮廷魔術師辺りに女性もいるんじゃないのか?」

「いるとは思うけど、なかなかねー。第四皇女のお守をしても出世しないじゃない」

「世知辛いな……」


 うちは優秀な護衛が沢山いるのだ。ハウスキーパーの四人は言わずもがな。他にも衛兵やら騎士やら沢山いる。

 俺から見ると腕の差なんて分からん。女騎士は少なかった記憶だけど、魔術師ならそれなりにいたんじゃないかな。

 我が手元には世界最高峰の涎を誇る……違う。魔術を使う狐がいるから、魔術師に関しては他に必要ない。


「その顔。ヨシュア様のところにはたくさん護衛さんがいるのね」

「ま、まあ。それなりにいるな」

「可愛い子も沢山いるでしょー。ヨシュア様のところなら」

「俺を何だと思ってんだ。変わり種もいるかな」

「えー。見たいー。次にネラックに行った時に紹介してね」

「うん。肉を持っていけば喜んでくれる」

「どんな子なんだろ……」


 喋る言葉の大半が「ニクニク」という爬虫類だよ。帝国では飛竜が親しまれているし、ゲラ=ラならリリーも案外気に入ってくれるんじゃないってね。

 シャルロッテが大のお気に入りらしいし、案外、あのような爬虫類は需要がありそうだ。

 

「ペット兼護衛みたいな?」

「ペット……? ペットが護衛をできるの?」

「できるらしい。一応喋るし、大魔術師様のお墨付きだぞ」

「そんな子がいるんだ。すぐにでもネラックに行きたくなってきちゃった。うー」

「まあ、来た時にな! 写本のこと、ありがとう。まさかこんなに沢山借りることができるなんて」

「賢公様に読んでもらえるんだもん。作者さんも誇りに思ってくれるよ」

「あ、う、うん」


 賢者ってのは間違いない。曖昧に頷いておくとしよう。

 俺も読書する時間が欲しい。ハンモックに寝そべりながらタピオカミルクを飲みつつ読書。何て素敵なんだ。

 

 ◇◇◇

 

 図書館に馬車を呼んでもらい、飛行船まで移動した。木箱もしっかりと運び込んだぞ。タラップからはエリーにお任せしたんだ。

 俺たちとほぼ同時にグラヌールも戻ってきて、見計らったかのようにセコイアも起きて来た。


「相も変わらず、馬鹿……むぐう」

「寝ぼけるのはそこまでだ」

「寝ぼけてなどおらぬ。なんじゃ、突然口を塞ぎよってからに。どうせやるなら口で塞ぐがよいぞ」

「べとべとになるから嫌だ」

「なんじゃとお!」


 全く、エリーが木箱の位置を調整してくれてるってのに。

 こんなに重たい荷物を乗せて大丈夫かって? 重量は問題ない。乗船人数を抑えたのでその分積載量に余裕があるのだ。

 時間次第で帝都で買い物をするつもりだったからね。

 

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