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287.お風呂かい

「ふおお」

「まさかの浴場だね」


 いつもはお湯をバシャバシャとするペンギンが静かに湯船で立っている。頭にタオルを乗せて。本当は座りたいのかもしれないが、ペンギンの体は座ると窮屈になるのだそうだ。

 それでも人間の時の習慣があり、ついつい座ろうとするのだって。

 習慣って恐ろしい。いつまで経っても体ではなく頭の中に残るのものなのかな?

 前世の記憶があるってことは、習慣もそのまま今の肉体に持ち込んでいる。なので、俺が湯船で座ると変な声が出るのも習慣というわけだ。違うかも……。


 それはともかく、ジョウヨウ離宮に備え付けられた浴場は一つで時間を決めて入れ替わりで入る。俺の連れてきた部下たちは先にボスから入って、などと野暮なことを言わないように教育していた。ルンベルクがなかなか手強かったのだけどね。

 浴室に入る前に確認したところ、リッチモンドとルンベルクはまだの様子。しかし、彼らが俺の入浴時間の後で入るなんてことは考慮していない。仕事や食事で遅くなっているだけである。仕事は早めに切り上げて、と伝えたのだけどなあ……。

 ゆっくり二人で飲んでるとかなら良いけど、仕事で遅くなってるなら明日にでも言わなきゃならないな。

 過重労働は厳に処さねば。そういった地道な活動が俺の労働時間を短くするのだ。


「ふいいい」


 また声が出る。

 このお湯から昇る独特の臭いもたまらん。

 効能は何だろうか。

 そう、ジョウヨウ離宮の浴場は広い檜っぽい湯船があるだけじゃなく、温泉だった!

 なのでペンギンも静かに湯船に浸かっている……のだと思う。


「ネラック周辺にも温泉が出るところはありそうだよな」

「そうだね。ルビコン川の北側に火山灰がある。昔は活火山があったのなら今も源泉がある可能性が高い」

「温泉施設は是非とも作りたい。ネラックの宿にも提供できれば付加価値もつく」

「温泉街かね。首都っぽくはないが、面白いね。温泉まんじゅうも作るかい?」

「いいねえ。ホウライに小豆があったから輸入して……砂糖は虫の育成次第……」


 温泉を求めて多くの人がネラックを訪れる。

 そうなれば街が賑わい商業活動も盛況になるだろう。ヒト・モノが大きく動くことで連合国全体の景気に良い影響を及ぼす。

 連合国は観光産業が未発達だ。今後は力を入れていきたい。

 第一弾として温泉開発が趣味と実益を兼ねて良い感じだな。他にもスポーツ大会……が難しいならレーベンストックの祭りを真似してもいいかも。

 うーん。何をやるにしても膨大な事務作業が必要だ。人を増やし続けるのにも限界がある。

 以前にも同じことを考えて「いずれやろう」とか言っていた気がするな。忙し過ぎて思考がループしていることも分からなくなってきているのかもしれない。

 こいつは不味いぞ。

 フルフルと首を振り、話題を180度変えることにした。臭い物に蓋を、ではないけどね。


「そういえばペンギンさん」

「ん、何かね? 結婚相手の相談は勘弁してもらいたい。私は貴族制度がとんと分からないからね」


 吹きそうになったわ!

 のらりくらりと躱して来たことをペンギンも見ているだろうに。


「しばらくは独身のつもりだから……結婚話は必要ないよ。聞きたかったのは計算機のことなんだ」

「ふむ。今の技術で量産でき、かつ普及しやすく扱いやすいモノ……となれば」

「となれば?」

「そろばんならどうだい? 電卓の方が望ましいかね?」

「電卓なら誰でも直感的に使うことができるのが利点だけど、まだ電卓の量産はできないと言うこと?」

「そうだね。作ること自体は問題ない。設計は済んでいる。既にトーレさんに試作品を頼んでいるよ」

「な、なんだと……」


 まさかと思ってカマをかけたら、既に基礎理論は終わり、設計まで終わっていた。試作品を作り、検証して動けば、使いやすいように改良したり、耐久性のテストをしたり……と段階を踏んでいく。しかし、設計まで完了していたら動くは動くだろう。設計者がペンギンだし。


「コンピュータ的な何かを模索していると言ってなかったっけ?」

「その一環だよ。パソコンまでは我々の世代じゃあ、難しいだろうね」

「そっかあ。パソコンがあれば業務が捗るのに」


 うーんと顔を曇らせる俺に対し、ペンギンは器用にフリッパーを動かしふううと嘴から息を吐く。

 ペンギン流「肩を竦める」ポーズなようだ。


「タイプライターなら作ることができるんではないのかね。紙が思った以上に普及しているのも丁度いい」

「表音文字だし、日本語よりやりやすいよな」

「そうだね。まだ文字を勉強中だ」

「文字の学習もしていたとは……そんな時間がいつあったんだ……」

「まあ、色々だよ。ローゼンハイムには大量の書物がある。それを読みたくてね」


 彼の知識欲はまだまだ尽きない様子。

 タイプライターもいずれ、と思っている製品の一つだ。文字を書くのと比べて速いか遅いかと言われると、どうだろう。

 タイプライターがどれだけ安定して動くかによるけど、文字を書くより数倍の速度でいけるかもしれない。慣れた人なら。

 だが、そこまで行くには結構な学習時間が必要になる。普通の人なら文字で書くのとそう変わらないかむしろ遅くなると思う。

 ただし、羽ペンじゃなかったらという注釈が付く。

 そこでもう一つ思い出した。

 

「ペンギンさん。ボールペンちっくなものの開発って進んでいたんだっけ?」

「トーレさんの手作りなら問題なく作ることができる。量産については素材量の問題があるね」

「量産もできる目途がついているの……?」

「魔工プラスチックを使えば今の工作精度でも問題ない」

「あ、ああ。そうだった。お金の材料に全部回しているから他で使えないんだった」

「いかにも。連合国として成立したのだから、いずれ公国貨幣で統一するのかね?」

「うん。様子を見てにしようと思ってる。何のかんので経済政策って複雑なんだよね」

「貨幣流通量、貨幣価値……色々絡んでくるから仕方がない。経済は生活に直結するものだから慎重に」

「ん、待てよ」


 ばしゃっとお湯から手を出しポンと手を叩く。

 魔工プラスチックの素ならここにあるじゃないか。加工する職人がどれだけ確保できるかだけど、公国側のリソースを使えば量産体制をしくことができそうだ。

 いいね。帰ったら公国の大臣も呼んで一丁やってみるとするか。

 まずはイゼナに聞いてみなきゃ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分も湯船に浸かると「あ”ぁ~」って言います
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