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280.ジョウヨウ

 ジョウヨウがどんな街なのかワクワクが止まらない。ルンベルクとリッチモンドの正確な飛行により思ったより早くジョウヨウ上空まで来ることができた。

 空と地上では地図の使い方が違う気がするのだけど、よくもまあサクッと到着できたものだ。地図があるとはいえ、地域地域の地図を繋ぎ合わせたものだからなあ。山や大きな湖などの目立つ景色を頼りに距離を測り、方向を定めてきた……と思う。

 彼らに運転を任せて良かった。もし、彼らがいなかったらセコイアの魔法に頼っていたかも。


「お、おおー!」

「ほほう」

「朱色の街でありますか!」


 セコイア、シャルロッテ、俺と窓に並んで街の様子を覗き込んだ。お、おっと、ペンギンにも見せてあげないと、うん、心配しなくとも彼は自分で見やすい位置に移動していた。

 それはそうとシャルロッテの言うように「朱色」が特徴的な街だ。街というより都や宮と表現した方がしっくりくる。

 ジョウヨウは朱色の外壁を備えていた。屋根は瓦かもしれない。距離があるからまだ正確に特定できないけど……。

 もう一つ朱色が目立つものは街の中央にある宮殿である。首里城という沖縄の城を知っているだろうか、第一印象は首里城を思い浮かべた。もっともまだ遠いので、以下略。


「東洋風だね。これまでは南欧や中欧寄りの街並みだった。このような都もあるんだねえ」


 ペンギンがフリッパーをパタパタさせ興奮し、一人感想を呟いている。

 俺も驚きだよ。クレナイの服装を見てひょっとしたら街並みも、と期待していたんだ。だけど、小麦畑がなんてことをローゼンハイムで聞いたから、街並みは同じような感じなのかもとも思っていた。

 バーデンバルデンのマッチ箱のような街並みも感動したけど、ジョウヨウは中華風の歴史的建造物を見ているようで甲乙つけ難い。


「ヨシュア様、いつでも着陸の準備に入らせて頂けます」


 景色に夢中だったからまるで気がつかなかった。いつの間にかリッチモンドが優美な礼をしているではないか。

 あと一時間くらいと言っていたけど、もうそんなに時間が経過しているんだな。景色に夢中であっという間の一時間だった。


「みんな、着陸準備に入っていいかな?」


 俺の言葉を受けシャルロッテが敬礼し所定の席へ向かう。

 セコイアも名残惜しそうに窓から目を離し、俺の手を握った。うん、膝の上ね。知ってる。


「楽しみじゃ。どんな食が待っておるのか」

「はやる気持ちは俺も同じだよ。楽しみだ」

「先に行くかの?」

「絶対にお断りだ。飛び降りるとか言うんだろ」

「分かっておるではないか。残念ながら見たところ着陸できそうな場所があるのお」

「よおし!」

 

 などとガッツポーズをしてから、座席につく。そこへ、当たり前のようにセコイアが膝の上にちょこんと腰掛けた。

 ペンギンも固定しているし、これで準備万端だ!

 馬を使ってでも着陸しようと言ったところだろ。これで着陸しないとなったら暴動ものだぞ。


「では、着陸態勢に入ります」


 見計らったようにリッチモンドの渋い声が耳に届く。うんうん。やはり飛行船は着陸してこそだよ。

 空中に停止できる機能なんて必要ないんだ。

 ガクン。首が上下に揺れる。

 飛行船はジョウヨウの都へ降り立とうと急速に高度を下げる。


 ◇◇◇


 飛行船が着陸した場所は朱色の壁からだいたい300メートル離れたところか。入り口門までは壁伝いに歩かなきゃならないから結構な距離があるな。

 「そんじゃあ、さっそく飛行船から降りるか」とタラップに向かうと、「しばしお待ちを」と待ち構えていたルンベルクとリッチモンドに止められた。

 何かあるなと察した俺の服の裾を狐耳が引っ張る。

 

「馬……いや麒麟(きりん)か。麒麟が向かってきておるのお」


 ピクピクと狐耳を動かし、八重歯を見せてしたり顔のセコイアである。

 なるほど。二人が待っていた理由が分かったぞ。


「麒麟? 馬みたいなものなの?」

「うむ、そのようなものじゃ」


 あれよあれよと言う間に俺の目でも騎馬らしき影が確認できた。

 シルエットからすると馬にも見えなくはないけど、果たして。

 野生児セコイアはともかくルンベルクら二人まで騎馬に気がついていたことは、もはや驚くことでもないのだ。そういうものだと受け取るべし。

 むしろ、シャルロッテとペンギンは俺とさして変わらないタイミングで騎馬が見えたみたいだし、俺だけが分からないわけじゃないんだと少しホッとした。

 約三名は見えていなくても何かで察する能力を持っているというだけだ。ははは。


「あれが麒麟でありますか」

「シャルはどんな生き物か知っているの?」

「いえ、勉強不足で申し訳ありません!」

「俺も知らなかったし、同じだな」


 柔らかに微笑みかけると、頬を少し赤くしたシャルロッテが「そ、そうでありますね!」とカクカクな動きで一歩下がる。

 ふむ。タラップの下にはルンベルクとリッチモンドが並び、そこへ騎馬が二騎やって来た。

 彼らは変わった黒染めの鎧を着ている。硬い革に金属板を縫い付けたような装甲で、腰回りも同じ素材みたいだ。腰の方にも金属板が装着されていて、兜が日本の武士のような感じで三日月の紋章が入っていた。

 注目の麒麟はというと、体型だけ見れば馬の亜種かなと思うほど馬に似ている。

 ただ馬と見間違うことはまずない。モスグリーンと黒のヒョウ柄の毛並みで、頭からは二本の角が生え、尻尾が燃えるような赤だからだ。

 蹄の上にもふさふさの毛があるし、体型は馬だけど体色はまるで違う。


 麒麟に乗って来た二人は警備兵か門番か、はたまた騎士か。飛行船が見えた時から待ち構えていたとしたら案外位の高い兵なのかもしれない。

 彼らは武器を構えることもなく、ルンベルクらとやり取りをしている姿を見るに威圧的な様子もなかった。飛行船のことは先に調査やらに来ていた公国の人からか、クレナイを通じて聞いていたのかもな。飛行船を見たら俺たちだと思え、みたいな。

 

「ヨシュア様。ジョウヨウの騎士が是非ご挨拶をしたいと申しております」


 ルンベルクが俺の足もとで片膝をつき、報告してくれた。

 近くにいるんだからその場で呼びかけてくれてもいいのに、と思っても口に出さない大人な俺である。


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