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278.農業議論

「湛水で塩類を散らしてしまうのがベストだけど、農業ができなくなっちゃうもんな。もしくは牧畜をするとか……」

「湛水とは……?」

「ええと、ペンギンさん、俺の理解が変だったら指摘して欲しい」


 灌水とは一時的に水を張って抜くことによって塩化合物を外に流す方法だ。単に水を張って流すだけだと作物ができないので腹は満たされない。

 俺やペンギンさんに馴染みあるところだと、潅水させるついでに水稲を育てるのが良さそう。ホウライで水稲が育つかどうかは気候次第。

 彼らは中華風と日本風の間くらいの格好をしていたから、米を食べるのかなんて期待してたけど、結果は聞いての通り小麦である。

 大麦や粟も併せて栽培していたようだが、洪水が来ないと二年で大不作の有様だ。

 逆に考えると洪水があれば、それなりに収穫できるってわけさ。


「水稲を育てるのは良いアイデアだね。だが、連合国やホウライで水稲を育成しているのかね?」


 すっと手をあげるバルデスにうんと頷く。


「失礼して、農業担当から申し上げます。水稲は存じ上げておりますが栽培しておりません。ヨシュア様の命により輸入をしておりますが、国内にはある米は全て輸入品です」

「実験農場で栽培してみたことはあるんだ。手間がかかり過ぎて主食としては厳しいと判断した」


 ペンギンに補足するため、過去の水稲の栽培結果を彼に伝える。俺だって米を食べたかったんだよ。籾殻も輸入したさ。米もコーヒーと同じく共和国からの輸入品だ。米は彼の国から遥か西の地域で栽培されている。

 輸入した米は日本で作られている米と違って、細長いタイプのものだ。

 一応、水稲の育て方は概要レベルなら分かる。

 忘れがちだけど、俺には植物鑑定というギフトがあるのだ。ギフトのことなんて覚えてないって? 俺も忘れそうになっていたよ。

 最近だとレーベンストックで魔力を吸う植物の発見のため、ひたすら植物鑑定をして以来使っていない。

 他は塩害に強い作物に切り替えるって手段もあるけど、更に塩濃度が高くなるとどうする?

 洪水を願えばいいか。洪水が無かった年は塩害に強い作物を育て、洪水があれば小麦で良いだろ、ってのが素人判断なんだが、そうそう上手くいくとは思えん。


「難しい問題だね。キャッサバはどうかね?」

「おお、キャッサバならば彼の地でも育つかもしれませんな! ですが、辺境の隠し玉を提供するなど……私にはどう判断すれば良いのやら……」


 ペンギンと縋るような目をして頭を輝かせるバルデスに「うーん」と唸る。

 キャッサバは最初に考えたさ。塩害にどこまで耐えられるのか不明だけど、地球でのキャッサバは最も育てやすい作物として名を馳せていた。他の作物が育たない痩せた土地でもキャッサバなら育つ。

 問題は育てることじゃなく、キャッサバの毒なんだよな。

 辺境だとネラックの中だけでキャッサバを栽培し、食べる人の数も限られていた。

 人口が増える前にキャッサバの危険性も重々認識してもらい、必ず加工してからパンにして食べる。


「管理が必要でしょうな」


 バルデスが俺の想いを代わりに言ってくれた。

 注意点はもちろん事前に述べるとして、広い国内でのことだ。食中毒がきっと起こる。

 分かっていて、止めないのはちょっとな……ということなんだよ。

 所詮他国のこと。しかも、辺境秘蔵のキャッサバを支援手段が他にないからといって提供するのは温情措置ではなく、甘過ぎると言わざるを得ない。

 俺の前だからか誰も口にしないのもちょっと考えものだ。

 違うか。俺なら既にキャッサバがどれほどのものか分かっているから、キャッサバを提供する意味を踏まえた上で話をしている、とみんな考えてるわけだよな。


「素人考えで失礼しますぞ。確か農業には肥料を使うのでしたな。痩せた土地というならば肥料を加えてみるのはどうですかな」


 ビックリした。何故かって? 発言したのが、オジュロだったから。

 ネラックに一時避難していた彼は騒動の後、しばし領地に戻り今では元の通り衛生局で辣腕を奮っている。

 彼はくるりんと巻いた髭を指先で挟んだり、落ち着かなく膝をガタガタさせたりといつもながらコミカルな動きをしていた。

 医療の話以外に食い付かない彼から意見がくるなんて思ってもみなくて、まさに青天の霹靂ってやつだよ。さすがに言い過ぎか。

 彼だって重鎮として会議に参加しているのだもの。


「バルデス、ホウライに調査チームを派遣してくれ。塩害の原因は複数あると思う。連作障害の弊害で塩がたまるのが一番の原因なら、育成作物の改善でいけるかもしれない」

「キャッサバ案はいかがいたしますか?」

「一旦、原因の分析を行おう。ついでに現地の植物を採取してきてくれ。土もだ」

「土は提供を受けることで合意しております」

「ホウライは遠方に過ぎる。行く人の負担が大きいから飛行船を使おう」


 ここまで言って、俺はある一つの衝動に駆られていた。ホウライのことを任せると言った手前、口にするわけにはいかないが……。

 そこでグラヌールが渋い顔をして右手をあげる。


「ヨシュア様、恐れながら申し上げます。飛行船はメンテナンスと緊急事態用に一艇は必ずローゼンハイムに温存しています。残り二艇ございますが、乗組員が習熟しておらず遠方のホウライという初めての航路に不安が残ります」

「ヨシュアくん。セコイアくんに頼んでネラックの飛行船を使えばどうかね?」

「そうするか」


 と言いつつ、内心「やったぜ」と思っていた。

 調査チームと共にセコイア、ペンギンを加え俺も現地入りした方が話が早い。

 植物鑑定を直接行うことができるからね。問題点をなるべく早期に見つけたい。

 ……分かってるよ、建前だってことは。

 見たことの無い国を周遊するなんてワクワクするよな?

 元々本件はローゼンハイムの文官に任せる予定だったけど、最初だけ手を出すのもいいだろう。

 当初はこれ以上忙しくなる案件に関わりたくなかったけど、激務続きで休暇を取りたかったし。丁度いい。

 そんなこんなで、ホウライへ行くことになったのであった!


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