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273.きゃ、きゃあああ!

「こ、これが。見るのではなく感じろ……ということか」


 カッコよく決めたように見せかけて、覇王龍に対し一言目をどう話しかけようか頭を捻っていた。我ながら賢い作戦だ。

 俺の発言は嘘を言っているわけではない。といっても今気が付いたわけじゃなく、これで二度目だけどね。

 リンドヴルムは背を向けていたとしても、真後ろなのか右斜め後方なのかどちらの方向にいるのかが分かる。

 「気配を感じるなんて眉唾だぜ、ふふん」などと思っていたのだけど、そうじゃないと彼に会って初めて知った。

 リンドヴルムの圧倒的な存在感は視覚で捉えずとも分かるのだ。こう背筋がゾワゾワ……違うな。


『呼んでおいて何じゃ、お主は』

「ほら、セコイア。覇王龍さんがお呼びだ」

「僕じゃなかろう? こら、そんな目をするでない」


 じーっと縋るような目でセコイアを見つめていたら、俺の前に立ってくれた。これぞ、捨てられた子犬作戦。

 セコイアをけしかけたわけだけど、今のやり取りで肩の力が抜けた。というわけで、セコイアが喋る前に俺から彼に声をかけたのだ。

 

「覇王龍リンドヴルム。あなたの眷属のことについて尋ねに来た」

『ほう』


 相槌を打つだけで海面に波紋が広がる。セコイアの後ろにしゃがみ込まなかった俺を褒めて欲しい。

 規格外の存在を目の当たりにすると、人というのは恐怖するか畏敬の念を抱くかのどちらかだろう。俺はどっちも感じている。

 が、自分の立場がどちらも許さない。だからして、情けなくもセコイアに頼りつつ、覇王龍と会話を試みているわけなのだ。

 一方のセコイアは、喋ることを振られていて俺が先に話しかけたことでぷくっと頬を膨らませている。

 そんな彼女のいつもと変わらぬ態度にようやく俺も平静を取り戻せた。ありがとうな。セコイア。

 心の中で彼女に礼を述べる。


「あなたの眷属はこの付近で居住しているのか? 私たちは後から住み着いた身。深い山脈を二つも超えた先にあるこの地だが、私たちは決してあなたの眷属の生活を脅かそうとはしない」

『なんじゃ。そのようなことか。眷属といえども弱肉強食の摂理に従う。強きものが残る』


 え、いや……。何それ怖い。

 いやいや、言葉通りバトルしろってことじゃないよな。


「いずれこの先、生活圏が重なることがあるかもしれない。その時のためにあなたの眷属と友好的でありたい。あなたからでなくとも構わない。眷属と会って交流してもよいだろうか?」

『我に尋ねることでもない。好きにするが良い。お主らと似た眷属となるとリザードマンか』

「リザードマン? 彼らは一体どこに」

『この地より東。行けばそこの妖狐なら分かる』

「感謝……あれ、いない」


 出現も唐突なら去るのも同じ。

 覇王龍の姿が瞬きする間に忽然と消えていた。


「リザードマンに会うのかの?」

「うん。先住者に挨拶をと言っていただろ。俺たちが後から来たわけだし。摩擦を起こしたくない」

「これほど距離があれば、ネラックからローゼンハイム間より遥かに遠い。懸念するほどじゃないんじゃないのかの?」

「そうかもしれない。だけど200年後にはそうじゃないかもしれない」

「全く……キミらしい」


 リザードマンか。どんな種族なんだろう。俺のファンタジー知識によると恐竜人類みたいなイメージだけど。

 恐竜人類って何だって?

 何で読んだのか記憶してないが、イラストが印象的だったので覚えているんだ。

 確か恐竜が人間のように道具を使うように進化した姿だったかな。

 全身が鱗に包まれ、頭髪は無し、鼻も穴が空いているだけと恐竜の特徴を踏襲している。

 二足歩行で体躯が人間に似る。

 イラストは人間をベースに爬虫類ぽくしました、という感じだった。

 地球には人間以外の知的種族がいないので、こういった想像記事を読むとワクワクしたものだ。この世界に来てからはそうじゃないけどね! 何しろペンギンが喋るんだぜ。


 ◇◇◇


「あの辺りじゃ」

「飛行船ならすぐそこだったな。それにしても浮き上がった直後にもう分かるとは」

「目的がはっきりしておれば、後は魔力を感知するだけじゃ。容易いことよ」

「すげえな、涎センサー……」


 オホホホと高笑いしそうなセコイアの顔がみるみる変わった。

 「何じゃとお!」と向かってきた彼女の額に手のひらを押し込み、接近を阻止する。

 このままズルズルと別室へ……なんてことも考えたが、彼女にいてもらわないと場所が分からん。エリーなら彼女を軽々と連れて行ってくれるのだけど……。

 チラリと控えるエリーに目をやる。察した彼女はパタパタと飲み物を取りに行ってしまった。護衛ならアルルもオレンジ鱗の爬虫類もいる。いつかひいひい言わせてやるからな。涎の情けない声を想像し、悦に浸る。


「あれ、セコイアがいない」

「着陸場所の指示を出しに行ったよ」


 窓際に張り付いたペンギンが彼女の行き先を教えてくれた。ちなみにペンギンの背丈だと窓枠まで届かないのでアルルに抱っこしてもらっている。


「もうすぐか。挨拶は最初が肝心。覇王龍の眷属ってことだからゲララを小脇に抱えて、にするか」

「ニクニク」

「肉は挨拶の後な。ちゃんと肉を持ってきているから」

「オマエが用意したわけじゃなイ」

「まあ、そうだけど。細かいことはいいじゃないか。ニクニク」

「ニクニク」


 ゲララのご機嫌取り完了だ。これでリザードマンたちの元へ向かう準備が整った。

 餌こと肉を持たせてくれたのはもちろんシャルロッテであることは言うまでもない。

 ぐんぐん降下していく飛行船。どうやら着陸場所も見つかったらしい。

 ん、んん。

 飛行船がまだ地上ではないというのに止まったじゃないか。ホバリング技術はローゼンハイムの時より更に進歩しているのだ。空中停止など容易いこと。我が軍の技術力は……。

 むんずと誰かに腰の辺りを掴まれた。


「行くぞ。ヨシュア」

「行かない、行かないぞ! 地上、地上プリーズ」


 やめて、マジでやめて。何でわざわざ空から行くんだよ。

 スカイダイビング反対!あ、パラシュートあるよね、ハンググライダーも。

 ちょ、引っ張るな。待って、アルル、助け……。

 彼女の方へ手を伸ばすと、何故か俺に後ろから抱き着いてきた。


「アルルも。一緒でいいの?」

「あ、え。うん」


 そんな純真なお願いをされたら断れないじゃないか。

 じゃあ、行くとするか。

 

「違う! そうじゃねえ!」

「うるさい奴じゃの」

「え、ええと。行きはいい。だけど帰りはどうするんだ? 空中に浮かんでいる飛行船に戻る手段がないだろ。ロープを垂らしても地上まで届かない」

「キミはこれで二度目じゃろ? あ、そうじゃった。気絶していて覚えておらんかったか」


 こらあ。腹を抱えて笑うんじゃない。

 よおし、分かった。俺も男だ。行ってやろうじゃないか。

 

「や、やっぱなし。無し、無しだって! きゃ、きゃあああ!」

「うるさい奴め。猫娘。ちゃんと掴んでおれ」

「うん!」

「ニクニク」


 セコイアに蹴り落とされ、哀れヨシュア君、空に投げ出される。

感想返信滞っており、、、すいませぬ。

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