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272.ご挨拶は大事だよね

 死んだ目で政務をこなした俺は飛行船で南へ南へと向かっていた。

 以前より見て見ぬふり……いや、知ることを避けていた案件をここらでやっておこうと思ってね。

 そんなわけで、辺境から遥か南にある海岸線へ降り立った。白い砂浜と青い海。

 この辺は季節感がなく、いつでも暖かいのかもしれん。南なら気温が高いとか北ならシロクマが歩いてそうな氷の大地だとか、先入観を持つのは危険だ。

 魔素が絡むと気候も一変するからな。

 辺境と公国の境目なんて馬車でも数時間かからずに抜けることができる。なのに、植生が一変するんだぞ。ペンギンに聞いても風や高低差はあるが、それら地質的な要因を考慮したとしても植生の変化の説明がつかないと言ってた。科学的にという但し書きがつく。

 俺の浅い知識ではなく、ペンギンの計算による試算はある程度正確性があるだろう。本人は専門外だと謙遜していたけど。

 何で暖かいのかは不明だが、この海岸線は泳ぐことができるほどの気温である。

 海と砂浜、そして適温……こうなると泳ぐしかないだろ!


「行くぞ。皆のもの」

「ヨシュア様、お召し物を……はわわ」


 エリーが水着を持ってきてくれたのだけど、顔を逸らし真っ赤になっている。しまった。つい調子に乗って……。これじゃあセクハラよな。俺は既に上着を脱ぎ、上半身裸になっていた。

 幌を張ってその中で着替えようとしていたんだけど、途中で面倒になってね。こんなことなら、素直に機関室で順番に着替えれば良かった。

 一応、エリーとアルルに手伝ってもらって幌を張り、その中で着替えをする。もちろん、一旦上着を着てからもう一回脱いだ。


 エリーとアルルの他には服をそもそも着ていないペンギンとゲララに操縦士が二名、風魔法役が二名という構成である。

 セコイアも連れてくるつもりだったんだけど……忘れてたようだ。昨日は電話のことを彼女と話をしたような、そうでないような。


『こらあ! ボクを置いて行きおったじゃろ』

『すげえ、これが遠話か!』


 頭の中に声が響く。通話と違って実際に喋る必要がないのが新鮮だ。

 着替えの必要がないので先に波打ち際でペタペタと遊んでいたペンギンを見やりつつ、セコイアと遠話を続ける。


『リンドヴルムが遠話を使っておったじゃろ』

『そうでしたっけ。ははは』

『待ってるがよい。キミの場所はマーキングしている』

『何それ怖い』


 プツンと遠話が切れたことが感覚的に分かった。こいつは便利だな。

 よおし、ヨシュアくん、遊んじゃうぞお。ついでにご飯も海からゲットだぜ!

 ちょうどエリーとアルルも水着に着替えてやってきた。二人ともビキニらしい。

 そう言えば、女子がビキニタイプの水着以外を着ている姿を見たことがないな。何か技術的な問題でもあるのだろうか。

 エリーはこの前着ていた花柄の水着で、アルルはクリーム色の胸の中央でくるんとねじったデザインのものを着ていた。

 ん、アルルが短槍のようなものを上に掲げ、にこっと笑顔で俺を見上げる。

 

「ヨシュア様」

「お、いいね。銛か。よく持ってきていたな」

「バルトロが置きっぱなし、にしてたよ?」

「バルトロのか。お、重たいな……これ」


 アルルから短槍もとい銛を受け取ったが、水中でこれを振り回すのは厳しいな。

 俺の知っている銛は持ち手がプラスチックでゴムで引っ張り手を離すとストンと刃の部分が突き刺さる感じものだ。

 この銛は鉄に何かでコーティングして錆びないように工夫がしてある。金属製だから重い。それにゴムのようなものがなく、落ちないように腕に括り付ける紐しかない。

 無理です。水圧がある中でこいつで突き刺すのなんて。そもそも重くて、海の中に沈む。

 そっとアルルに銛を返し、泳ごうかとにこやかに声をかけるクールな俺であった。


「アルルがやっていいの?」

「でしたら、エリーにもお任せください」

「泳がないの?」


 俄然やる気を示してきた二人にたらりと冷や汗が額から流れ落ちる。

 つい、突っ込みを入れてしまった。

 すると二人は揃って「およぐー」「泳ぎますとも!」と泳ぐに舵を切ってくれた様子。

 

「じゃあ、行こうか」

「うん!」

「はい!」


 他の乗組員の人たちにも休憩を伝えておかないとな。

 行こうとしたところで申し訳なかったけど、エリーたちには少し待ってもらって船内の乗組員に声をかけに行く。


 ◇◇◇


 いやあ、お昼まで海で遊んでしまった。少し泳いだら終わろうと思っていたのに、はしゃぎ過ぎちゃったよ。

 アルルとエリーとペンギンが魚を沢山とってくれたので、その場で焼いたりしてたのも遅くなった原因である。

 でも、美味しかった。やはり海魚は良いよな。

 

「待たせたの。ヨシュア」

「無駄にスペックが高い……」


 みんなで焼けたばかりの魚を突いていたら、空から狐耳が降りてきた。

 飛行速度は飛行船より若干遅いくらいのスピードかな。空を飛ぶことも容易いとか無い胸を反らしてうそぶいていたけど、本当に空を飛んで来るとは恐れ入った。

 ふわりとスカートを膨らませて地面に降り立ったセコイアはふふんと鼻を鳴らし、両腕を組んでいる。

 おっと、焼き魚を熱いうちに食べないと。

 

「はふはふ」

「こらあ。愛らしい女子(おなご)が駆け付けたというのに」

「食うか?」

「う、うむ。はふはふ」


 そうだろう、そうだろう。海魚は川魚とはまた違ったおいしさがある。

 海水で自然と塩味がついているし、新鮮・焼き立ては格別だ。

 おいしそうに焼き魚をほうばるセコイアを満足気に見つめ、もう一匹おかわりする。

 俺の獲った魚じゃないけどね。

 エリーは川で魚をとっていたのと同じようにして、アルルは目に見えない速度で魚を手づかみしていた。

 この二人が殆どの魚をとってくれて、残りの若干数はペンギンが嘴で咥えて運んでくれたものだ。

 そんなペンギンだが、相も変わらず汚らしく魚を食い散らかしている。

 ちょうど腹いっぱいになったらしく、ゲフっと息を吐いた彼と目が合った。

 

「ヨシュアくん。こうのんびりとしていてもいいのかね?」

「食べたら動こう。セコイアも来たことだし」

「なるほど。セコイアくんを待っていたわけか」

「ゲ=ララがいれば大丈夫とは思っているけど、セコイアがいれば百人力だ」


 そうじゃろう、そうじゃろうとご機嫌になるセコイアはちょろい。

 ふさふさの尻尾を上下に揺らす彼女の姿からは、とてもじゃないけど大魔法使いなんて誰も思わないだろう。

 見ていることに気が付いたのか、今度はセコイアが俺に問いかけてくる。

 

「リンドヴルムの元へ行くのかの?」

「ゲ=ララに頼んだら、前みたいにここへ来てくれるんじゃないかな?」

「そうじゃの。あやつにとって住処からここまでは瞬きするくらいの距離じゃ」

「へ、へえ……」


 覇王龍の巣って、遠くに見える山脈の頂上付近だっけ。相当な距離があると思うけど……。


『呼んだか?』

「どええええ」


 海の方角から風を感じ、頭の中に声が響く。

 と、さっきまで誰もいなかった海の上に神々しい竜の姿が。

 一度見たら忘れもしない覇王龍その人が、まさに瞬きする間に姿を現したのだった。

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[一言] 相変わらずRPGのMAPみたいな植生変化よのお
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