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250.オマエヲマルカ……

 朝起きると黒い髪の亡霊が椅子に座っているのかとびっくりしたものの、エリーだったことでホッと一安心するちょっとした事件があった。

 座って見護るくらいなら、ベッドで横になってくれたら良いのに、なんて言うとまたややこしいことになりそうなので賢い俺はダンマリを決め込む。


 ハウスキーパーらのもう一つの顔を聞くことができ、以前より彼らとの距離が縮まったと思う。

 執務室で遠く共和国から取り寄せたコーヒーの香りを楽しみつつ、口に含む。うん、朝はコーヒーだよな。脳髄に染み渡る。


「閣下。おはようございます」

「いつもありがとう。今日のスケジュールをもらえるか?」

「はっ! ここに」


 牛乳瓶を執務机の上に静かに置いたシャルロッテが、ビッチリと書き込みがされた用紙を上に掲げた。

 彼女に秘書みたいなことまでしてもらっていて悪いと思いつつも甘えている。

 俺専用の秘書を雇おうとしたのだけど、彼女が「自分が」と言ってくれててね。

 事実、彼女以上に秘書の役割をこなしてくれる人なんてそうそういない。もちろん、彼女には通常の政務もあるのだけど。


 半分ほどに減ったコーヒーカップに牛乳を注ぐ。


「そういえば、シャルロッテ」

「はい! 閣下!」


 耳がキンキンするう。

 表情を誤魔化すため、コーヒーカップで顔を隠す。


「君のことを知りたいんだ。よければ、だけど」

「か、閣下……じ、自分でよ、よろしいので」


 シャルロッテが仕事中だというのにあからさまに動揺するなんて珍しい。

 それでも真っ直ぐ前を向いたまま、姿勢を保っているのはさすがだ。顔は真っ赤になってるけどね。彼女の過去に恥ずかしい何かかあったのかもしれない。


「ルンベルクたちが護衛能力もあることを知ってさ。シャルにも秘められた力とか、そういうのがあるのかもと思って」

「閣下は閣下でした。特にはありません! 風魔法を中級程度、剣術も同じくであります」

「中級程度ってなかなかのもんじゃないか」

「いえ、アルルさんとエリーさんに手も足も出ません! 閣下をお護りするのでしたら、ゲ=ララ氏を頼るのがよろしいかと」


 ゲ=ララ? 何者だそれ。

 どこかで聞いたような。

 思い出した! シャルロッテがお世話しているグゲグゲ汚い声で鳴く爬虫類だ。

 そういや、魔素を発散させる時にセコイアがゲ=ララが護るなら乗船してもよいとか言ってたな。

 覇王龍の眷属だし、小さいけど力を持ってるということか。「ニクニク」しかイメージがない。


「いずれ挨拶に行かなきゃな」

「挨拶でありますか?」

「ゲ=ララを派遣したのは覇王龍だ。この地域は覇王龍の勢力圏だったような気がする。このまま更に街が拡大していくだろうから、一応許可をと思ってね」

「是非、自分も参加させて下さい!」

「シャルにも来てもらわないと困る。頼むぞ」

「閣下……っ! 自分としたことが……ゲ=ララ氏の食事の時間であります」


 わざわざシャルロッテがゲ=ララの餌やりにまで手を煩わせなくても、と思うが、彼女の希望なので他の人に任せる予定はない。

 ペットとの触れ合いは癒されるものだからな、あの爬虫類に癒されるのかという疑問は置いておいて。

 俺も何かペットでも飼おうかな?

 ペンギンがいるからやめといたほうがよいか。


 シャルロッテについていってゲ=ララの元まで来た。彼は庭にある石畳の道の真ん中で気だるそうに寝そべっている。

 爬虫類らしく太陽の光で体を暖めているのだろうか。


「ニクニク」

「ゲ=ララ氏。遅くなりすいません」


 シャルロッテが皿に乗せた骨付き肉を地面に置く。対するゲ=ララはゆっくりと顎を動かし骨ごと肉をかじる。

 中型犬程度の大きさしかないゲ=ララであるが、大きな口であっという間に肉を完食した。あの体のどこに肉が……。


「ゲフ」

「い、いいのでありますか?」


 シャルロッテの膝の下までやってきたゲ=ララがのそりと首をあげる。

 おずおずと彼の頭に手を伸ばすシャルロッテ。

 トゲトゲに触れ、頬を染め感激した様子の彼女に「やはりペットを飼うべきか」と悩む俺であった。


「ゲ=ララ。この前のこと、覇王龍に報告したの?」

「コノ前とは何ダ?」

「飛行船に乗って公国東北部まで行った時のことだよ。覇王龍に伝えるとか言ってたろ」

「オレの目ガ、龍の目ダ」


 カッコいいことを言っているゲ=ララであったが、シャルロッテに背中まで撫でさせている。

 なるほど。ゲ=ララの視界がビデオカメラのようになっていてリアルタイムで覇王龍に見えていたというわけか。

 欲しい、その能力。能力ではなく魔法かもしれないけどね。

 魔法なら、セコイアに頼めば俺にも他人の視界が見えるかも?


「そのうち挨拶に行くからもう少し待ってて、と覇王龍に伝えてもらえるかな?」

「ニンゲンの尺度で時間を計るな小さきモノよ、と言ってイル」

「は、はは。すまんな。シャルとの時間を楽しんでくれ」

「このオンナ、オマエヲマルカ……」

「ゲ=ララ氏!」


 慌ててシャルロッテがゲ=ララの口を塞ぐ。

 何のこっちゃまるで分からないけど、楽しそうだし良いだろ、うん。

 懸念していた覇王龍訪問は特に急がなくて良いみたいだし。それでも、彼が領域についてどこまで許容するか不明なので、行ける時に彼の元へ行っておいた方が良い。

 その時は怖いのでセコイアも連れていくことを忘れてはならない。

 覇王龍とは旧知の仲らしいからね。


「シャル。先に戻ってスケジュールを見ておくよ」

「はい! 閣下!」


 シャルロッテの元気のいい返事を至近距離で聞いてもピクリともしないゲ=ララに対し、初めてこいつ只者じゃないなと感じた。

 俺から見ればシャルロッテだって十分な強者なのだけど、他の人はもっと上ってことだよな。

 彼らの実力はあの巨体を誇る豹頭のガルーガと肩を並べるくらいなのだろうか?

 Sランク冒険者ってのが世間的に見てどれくらいの強さか分からん。騎士団長もそれなりの実力者だと聞くし。

 そう考えると、俺の周りには実力者が揃っている……んだよな。ドラゴンがこんにちはしてきても撃退できそうな気がする。

 ある意味、怖い……。

 レーベンストックの武闘大会でいい線いくかも? 我が国の実力とくと見せてくれるわ、なんちゃってな。

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