24.ささ、ささと言われてもな件
食事の後、さっそくお楽しみの火入れ作業となった。
下準備として薪を燃やし炉の中に放り込み、薪の火力で木炭を燃やす。
「よし。空気を流せ」
「承知です!」
木箱もといふいご装置のところにいるガラムの部下が空気の流れを変更する。
おお、きたきたー。
炉に大量の空気が流れてきて、赤々と炉の中が燃え上がる。
炎の色が赤からオレンジにそして色が薄くなり透明に近くなってきた。
「行けそうじゃな」
熟練の鍛冶師ガラムが満足そうに髭をしごく。
「鍛冶はできそうかな?」
「うむ。鉄を溶かすこともできよう」
「ありがとう! これで燃焼石が無くとも製鉄、鍛冶ができるな」
「いかにも。今回も面白かったぞ。ヨシュアの。鍛冶は任せておけ」
ガハハハハと愉快そうに肩を揺らすガラムは自分の腕をポンと叩いた。
「それじゃあ。本プロジェクトはこれにて解散ということで」
「ヨシュア坊ちゃん」
ノームのトーレがやれやれと長い真っ白な眉をあげながら、俺を見上げてくる。
「トーレも本当にありがとう」
「これは『手始め』なんてこと、某には分かっておりますぞ。ささ、次は何をやるのです? ささ。ささ」
「やりたいことは確かにまだまだある。だけど、まずは鉄とガラスを作ってもらわないとじゃないか?」
「それなら心配ありませんぞ。これだけの人数が坊ちゃんを慕い集まったのです」
言わんとしていることは分かる。
今朝だって木材を乾燥できる人を募ったら手をあげた人がいた。
純粋な精霊術師だったという可能性があるかもしれないけど、木材を乾燥させることができる人はたいがい大工とかそれに準じる職人であることが殆どだ。
魔法には詳しくないけど、職人じゃなかったら乾燥を習得する時間で他の術を覚えるに違いない。
ガラムやトーレも言っていたじゃないか。ドワーフとノームは「ものつくり」に関する技術に特化しているってさ。
つまり、仕事あっての魔法なんだよ。
必要は発明の母ってね。
「村の職人なら、大工・鍛冶・細工までこなす人も多いからな。あの中にも職人はいるだろう。でも、三日ほどは待たないとじゃないかな」
「まずは家を、という方針ですな」
「うん。雨風も凌げないし。いつまでも野宿や馬車の中だとさ」
「テント、という手もありますな。しかし、暴風雨や雷雨……天災には無力。家の方が安全性が高い。分かりますぞ」
「そそ。だから、まずは家屋から」
「話は重々承知しました。ですが! が! 次は何をやるつもりです? ささ。ささ」
ループしとるがな。
年甲斐も無くはしゃぎ、目がらんらんとしているトーレに苦笑いする。
「俺たちは並行していくつものことを進めなければならない。安全・住宅・食事・生活設備の構築……だが、人員には限界がある。優先順位を決めて実行しなきゃならない」
「ですな」
「加えてここは『不毛の地』。魔石と燃焼石が無いときたもんだ。だから、ローゼンハイムのようにはいかない」
「そこが楽しみでなりませんな! どのような手を使ってヨシュア坊ちゃんが課題を解決するのかワクワクしているのですぞ!」
「ボクもだ。何を行う? 何をする?」
「儂もだ! ヨシュアの。聞かせてくれんかの? なあに、どれほど荒唐無稽でも、ヨシュアのが言うことなら全て信じる」
そうね。セコイアとガラムも話に乗っかってくると思ったよ。
「本当にざっくりと、いくぞ。魔石がないから、汚水処理と水道が必要になる。これについては下水道の整備を行うことで解決とする。ただし、大工事になる」
「あれじゃろ。コンクリートを使うのじゃろ」
ニヤリと口角をあげ、髭をさするガラム。
その通り。コンクリートで作っちゃおうと思っていた。
コンクリートだけでいけるかどうかは検討が必要だ。古代ローマの下水道設備を真似て切り出した石とコンクリートで作るのがベストかもなあ。
コンクリートだけでやるとしたら、鉄が問題になってくる。
鉄骨を大量に作るのは……厳しいだろう。鉄が唸るほどあったとしても加工がなあ……。
「その通りだよ。ガラム。それでさ。ガラス砂を運ぶために橋が必要になるだろ。その橋を工夫し、上水道設備に活かす。下水道の整備が一番の大工事かなあ。いや、外壁工事の方かな」
「確かに、人手が必要となりますな。しかし、熟練者は必要ありますまい。領民総出の勢いを持って解決してしまいましょうぞ」
入れ替わるように今度はトーレが口を挟む。
本当に楽しそうだな。この二人、いや三人か。
セコイアの尻尾がパタパタパタパタせわしなく動いていて、興奮した犬のように鼻息が荒い。
せっかく見た目は愛らしい少女なのに、いろいろ台無しである。
「橋の仕組みに理解を深めるため模型を作った方がいいかも」
「おお。某がおつくりしましょうぞ。工程概要を伝えてくれますかな?」
「うん。助かるよ」
ふう。ようやく少し落ち着いてくれたか。
ん? セコイアが右手を上にあげて「はいはい」って手を振っている。
じーっと彼女の顔を見て、プイっと顔を逸らす。
「暑苦しい」
「無視するからじゃあ!」
目を逸らしたら飛びついてくるとか獣か、セコイアは。
むぎゅーと彼女の頬を押し、自分の体から引っぺがす。
「一度にあれこれ言ってもな、と思っただけなんだって」
「楽しい話はいくらでも、じゃぞ。ガラムとトーレもそうじゃ」
「そうか。分かった。セコイアも意見を言いたいと」
「いかにも」
うんうんとハトが歩くかのように激しく首を縦に振るセコイアである。
振り過ぎだってば。本当に残念な奴だよ……。
生暖かい目で見つめていたら、待ちきれなくなった彼女が口を開く。
「ほれ、実験はせぬのか? 公都でやったような」
「やるつもりだ。魔石と燃焼石の代替手段を探さないといけないからな」
「おおお。何をするつもりなんじゃ」
「まだ、決めかねている。だけど、せっかく川があるんだ。水車を増設してそいつを利用しようと思っている」
「楽しみじゃのお」
セコイアはゴロゴロと喉を鳴らし、ほへえととろけた顔になる。
涎が垂れてきそうなんて突っ込んじゃあいけない。
「それじゃあ、俺とエリーは屋敷に戻る」
「うむ。……待つのじゃ」
「……ヨシュア様。どうかその場を動かれませんよう」
よっこらっしょっと立ち上がろうとすると、途端に引き締まった顔になったセコイアとすううっと目を細めたエリーが俺を呼び止める。
一体何があったのだろう。
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