表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

249/382

248.アルルの力

「あのね。アルル」


 それじゃあ解散となったところで、アルルが待ったをかける。

 焦っているのか耳がピコピコ動いていた。不謹慎だと思うが、可愛い。

 

「アルルもヨシュア様に自分のことをお伝えしたいと」


 そっとアルルの手を握るエリー。

 アルルのことだけ聞かずじまいだったことは認識している。

 他の三人のことは聞いたし、彼女の都合のいいときでと思っていたんだ。自分本位で申し訳ないけど、秘密を知ったところでこれまでと彼女らの関係性が変わるのかと問われれば、「これまで通りだ」と断言できる。

 過去にネガティブな事件があったとしても、俺は現在の彼女らの仕事ぶりや人柄を知っているんだ。だから、それでいい。

 しかし、アルルだけ仲間外れにされたと思わせたのかもしれない。

 

「ごめん、アルル。聞かないつもりじゃなかったんだよ」

「うん。ヨシュア様。分かるよ。『見える』もん」

「見える?」

「うん。暖かい。優しい。気持ち。アルル大好き」


 にへえと子供のような笑みを浮かべるアルルにこちらもふっと口元を緩める。

 隣にいるエリーが首元まで真っ赤になって俯いちゃっているけど、どこに赤くなる要素があったのか疑問だ。

 

「俺もアルルのことが好きだよ。いつもありがとうな」

「アルル。ヨシュア様からいっぱい、いっぱいもらったよ。だから、アルルのできること。全部、やりたい。ヨシュア様に聞いて欲しい」


 なんて可愛らしい。子供相手じゃないって分かっているのだけど、ついつい頭を撫でたくなる。

 残念ながら対面に腰かけているので、手を伸ばしても届かないが。

 一方、エリーだが……触れない方がいいな。見てない俺は何も見ていない。

 何やらブツブツ呟いているけど、メイドの彼女が主人の前で怪し気に呟くなんてことはないのだ。だから、気のせいである。

 そもそも、俺は何も見てないし、問題ない。

  

「見えるというのはどういったものなの?」

「エリー、何だっけ、アルルのギフト」


 アルルに呼びかけられたエリーはハッと顔をあげ、再起動した。

 どうやら元の世界に戻ってきてくれたようだ。

 

「『超感覚』です。鋭敏視覚、鋭敏聴覚、熱感知、魔力感知、音波視覚を備えた知覚系最上位のギフトとなります」

「ふええ。すげえな。それでいろんなものが『見える』というわけなんだな」

「はい。アルルは壁の向こうであっても小さな虫の動き一つ見逃しません。しかし、見えるといっても服を……そ、その透視するようなことはできません」

「そこは別に言わなくても……」


 さしずめアルルセンサーと言ったところか。

 「見る」のではなく「見える」のかな。集中すれば「見る」……つまりアクティブに使うこともできそうだ。

 普段はパッシブ能力として常時発動していると思われる。

 

「ギフトの使用は疲れると聞く。ずっと「見えて」いて、アルルは疲れちゃわないのか?」

「うん。受動(パッシブ)? だから、疲れないんだって。ヨシュア様は疲れる?」

「いや、レーベンストックで植物鑑定を使い続けたけど何ともなかった。俺のギフトはアクティブ能力だけど、疲労しないみたいなんだ」

「そうなの!? 同じだね!」


 うんうん。

 俺の場合は元から貧弱……いやいや少しばかり体力が人より低いからか、アクティブ能力である植物鑑定を使っても疲れない。

 レーベンストックでギフトの連発を心配されて聞かれた時に初めてギフトを使うと疲れるってことを知った。

 例外があるけど、一般的にはパッシブ能力ならば疲れない。アクティブ能力なら疲労するのだそうだ。

 アルルはパッシブだから疲れないってことだな。アクティブでも使えそうだけど、その場合は疲労するのかもしれない。

 

 耳をペタンとして満面の笑みを浮かべるアルルに対し、身を乗り出して頭を撫でてしまった。

 すると彼女は目を細め、気持ちよさそうに喉を鳴らす。グルグルとまるで猫みたいに。

 猫族って猫のような特徴をいくつか持っているよな。全部が全部知っているわけじゃないけど、身軽さとか体の柔らかさに加えて動くモノを目で追ったりとか。


「話は変わるけど、アルル」

「はい!」


 元の位置に戻り、彼女に呼び掛けるとビシッと右手をあげて応じてくれた。

 その仕草を見ると何だか安心するよ。

 

「葦がゆらゆらしていた時に、『わたし、子供じゃないから』と言ってたけど大人になると気にならなくなるの?」

「う。わたし、子供じゃないもん」

「猫族の本能的なものです。身体的な特徴も人間と異なります」


 エリーの補足に俺の推測が間違っていなかったことを確信する。

 本能的なものなら、子供だとか子供じゃないとか関係ないよな。

 猫族の人は揺れる草木にパシッとすることにはしたないとか思っちゃうんだろうか。

 アルルにこれ以上聞くのも嫌がられると思うので、レーベンストックに行った時にでも猫族の人にそれとなく聞いてみることにしようかな。

 

「二人とも聞かせてくれてありがとうな。これからも陰ながら護衛しつつ、メイドの仕事も任せる」

「はい!」

 

 二人の声が重なった。

 俺が腰をあげると彼女らもすっと立ち上がり、揃ってお辞儀をする。

 扉口まで二人を伴って歩き、そこでアルルへ一言問いかけた。

 

「みんなのこと、ハウスキーパーやここによく来る人たちのことも好きか?」

「うん! エリーもバルトロもガルーガさんも、みんな、みんな、暖かくて好き」

「そっか。よかった。たまには俺からも何かして欲しいこととかある?」

「う、うん。だけど、失礼? だからダメ」

「失礼って不敬ってことかな」

「そう。だから、ダメなの」

「そんなことないって。俺のことを見ていて分かるだろ? 肩車だってしちゃう大公なんだぜ」

「じゃ、じゃあ。あのね。ヨシュア様――」


 柔らかな笑顔が固まる。

 え、えええ。まさかのお願いにぴしぴしっと崩れ落ちそうになった。

 彼女の精神状態は子供の時から止まっている。なので、理解はできるのだけど、体は少女にまで成長しているからな……。

 変な噂が立つことはないと思うけど、彼女がよいと言うならいいか。

 そうだ。一人じゃなく二人にすれば、誰も気にすることがなくなるだろ。

 

「エリー」

「は、はい!」

「エリーも一緒にいてくれると」

「わ、わわ私がですか! そ、そんな。もちろん大歓迎なのですが、心の準備が……し、しかし」

「あ、エリー。待って」


 あちゃー。後半は何を言っているのか分からなかった。

 だって、ぴゅーっと逃げちゃったのだもの。そのうち戻って来るかな?


「ペンギンさん……は鍛冶場か。この際、狐でもいいか。暑苦しいけど」


 もしエリーが戻って来なかったらセコイアを呼び寄せよう。

 彼女はペンギンと同じで鍛冶場にいる。だけど、この笛を吹くと神速でやって来る、はず。

 未だに一度も使ったことがないけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ