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23.鍛冶屋が完成した件

 この分だともう俺が手伝えることはないな。ガラムの作業をじっと見つめるセコイアから目を離し、鍛冶屋予定の家屋、水車と順に目を向けていく。

 見事なもんだ。機械にも頼らずともこんないい仕事ができるのだからな。職人ってすげえや。

 さっき考えたことと同じ思考になったなと苦笑してしまう。

 その時、家屋の窓からひょっこり顔を出したトーレと目が合った。

 

「ヨシュア坊ちゃん、来られていたのですな!」

「うん。来てみたらビックリしたよ」

「家屋の準備も完了いたしましたな。ガラムを待って、後は組み合わせるだけですぞ」

「もう少し時間はありそうだな」

「ですな。某は若いのと共に伐採にでも行きましょうかな」


 言うや否やもう体が動いているトーレである。

 この感じだと朝日と共にここにきて、朝ごはんも食べずに作業を始めていたに違いない。

 なら俺は食事の準備をしておこうかな。

 

 川べりまでてくてくと進み、しゃがむ。

 手を伸ばし流れる水に触れたら、心地いい冷たさが指先から伝わってくる。

 エリーも俺と同じように隣にしゃがみ込んだ。

 

「魚はいるな……」

「はい。泳いでおりますね」


 魚影は見えた。

 屋敷まで戻ると食材はあるけど、戻って来る前に作業が終わっちゃっているかなあと思ったんだ。

 ならば、近くで何か取れないかと川の様子を見に来た。

 しかし、来ておいてなんだが、大事なことが抜けていることに今更気が付く。

 釣り竿も無ければ、銛もない。

 ナイフなら持っているけど、こいつで泳ぐ魚を突き刺すなんて無理に決まってる。

 よし、ならば。

 立ち上がったところで、エリーが俺に疑問を投げかけてきた。


「何をされるおつもりですか?」

「釣り竿を作ろうかなって。といっても簡易的なものだ。枝に葦の茎を結び付けたら使えそうだなと思ってさ」

「それでしたら。私が魚を獲ってもよろしいでしょうか? ヨシュア様のお手を煩わせることはないかと」

「釣り竿を持ってきていたりするの?」

「いえ。魚を獲ることは苦手ではありませんので」


 エリーが両手をお腹の真ん中辺りで揃え、会釈を行う。

 ピンと彼女の纏う空気が張り詰め、彼女の右腕がブレる。

 

 びたんびたん――。

 次の瞬間、体長十五センチほどの魚が川岸で跳ねていた。

 え、ええええ。

 驚く俺をよそに、また一匹、更に一匹と魚がふえていく。

 

「ま、任せるよ……」

「お任せください」


 なにあれ、なんなんだあれえ。

 突っ込んだところで、「いざという時、ご主人様に食事を手配できるようにするため」なんて言葉が返ってくるだろうからあえて何も聞かないことにした。

 メイドのたしなみ怖えよ。

 武道の達人か何かなんじゃないのかな……うちのハウスキーパーたちって。

 いや、彼らがうちに来る前に何をしていたのなんてことは俺から聞くべきじゃないな。

 でも、ルンベルクとバルトロはともかく、メイドの二人の前職なんてものはないんだ。彼女らは働ける歳になって俺の元にやってきたのだから。

 推薦してくれたのはルンベルク。

 彼女らならば、安心してメイドを任せることができますと彼が太鼓判を押してくれたから、即採用したんだ。

 もちろん、反発もあった。

 公爵のメイドになるものは、ある程度の家格があった方がいいとかそんな懸念だ。

 あわよくば俺と令嬢を結婚させようという魂胆が見え見えだったので、そんな諫言は無視したけどね!


「おーい、ヨシュアの。トーレはどこに行った?」


 ん。この声はガラム。

 見ると彼は木箱から手を離し、きょろきょろと誰かを探している様子だった。


「トーレは木を伐りにって。もう終わったのか?」

「おう。あとは繋ぐだけだの。トーレ向きの仕事じゃ」

「終わったのですな。さっそくやりましょうぞ!」

「おうさ。ようやくじゃの」


 風のような速度でトーレが戻ってきた。

 すげえ。この距離でもトーレはちゃんと会話が聞こえていたんだな。

 

 ◇◇◇

 

「これで最後ですぞ!」


 ギアを締め、水車を稼働させる。

 くるくると回った水車の力がギアを伝い、ゴム(カエルの表皮)で補強した筒を通って家屋と隣接するように置かれた木箱に向かう。

 水車の力で箱のレバーがどったんばったんと動き、炉へ空気を送り込む。

 

 こうしちゃおれん。鍛冶屋の炉を見に行かねば。

 考えは俺もセコイアも同じだったようで、駆け足で鍛冶屋の中に入る。

 

 鍛冶屋の中ではガラムと彼の徒弟二人がまだ火の入っていないがらんどうの炉を開け、中の様子を窺っているところだった。

 

「よし、ちゃんと空気が来とるぞ。空気の流れを変えてくれるかのお」

「ボクがやってもいいかの?」

「いいのかの。こちらは見ずとも」


 セコイアはガラムの言葉に応えず行動で彼に示す。

 つまり、てとてとと走って外の木箱を触りにいったってわけだ。

 

 まもなく、炉に吹き出していた空気の流れが止まった。

 

「おお。完璧じゃないか。あとは実際に火を入れてみてかな?」

「うむ。試してみるかの」

「いや、先にお昼にしないか? みんな朝も食べていないんだろう?」

「おお。いい香りじゃ。飯を作っていてくれていたのかの」


 確かに、魚を焼く香ばしい匂いが鍛冶屋の中にも流れ込んできている。


「うん、エリーがね。魚だけですまないけど」

「ありがたい。先にいただくことにしようかの。お主らも一緒に来い」


 徒弟にも声をかけたガラムなのであった。


 ◇◇◇

 

「数は十分に準備しております。どうぞお召し上がりください」


 エリーがそう言ってペコリと頭を下げる。

 それをきっかけにして、枝につきさした魚を集まったみんなが次々に手にとっていく。

 

「ヨシュア様、この装置は一体どのようなものなのでしょうか?」

「疑問に思ったことをちゃんと聞いてくれたんだな。その調子で頼むぞ」

「は、はい!」


 俺の返した反応が意外だったのか、エリーは戸惑ったように返事をする。

 しかし、彼女は口元を綻ばせ自分の胸に手を当てていた。

 一方で俺は行儀悪く魚を貪りながらエリーに説明をし始める。

 

「あの家は鍛冶屋で、外にある木箱は空気を送り出す『ふいご』なんだ。水車の力でふいごを動かし、鍛冶屋の中にある炉に空気を送る」

「空気を?」

「うん。燃焼石を使えばそれだけで炉の温度は鉄を溶かすにまで至る。だけど、燃焼石が無く、薪や木炭を燃やしても温度が上がらないんだ」

「そうなのですか!」

「薪に火を付ける時にさ、ふーふーと息を吹きかけたら燃えるだろ。あれと同じ感じで、ひたすら空気を送り込むことで炉の温度をあげるって仕組みになっている」

「よく理解できました。ありがとうございます!」

「手押しポンプで空気を送ってたら、それだけで人手がいるし、何より息絶え絶えになってしまう。そこで、水車を使うことにしたんだよ」

「皆さまの叡智の結晶が、この設備というわけなのですね」

「うん。ガラム、トーレ、セコイア、弟子のみなさんの力があってこそだよ」


 止まることなく魚を貪り喰らうトーレらに向けグッと親指を突き出す。

 こうして燃焼石を使わない炉が完成したのだった。

 これで製鉄問題は解決だな。ついでにガラス細工もここで制作できる。

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