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214.領都爆撃

 公国北東部上空をゆっくりと進む飛行船から次々に投下されたダイナマイト型魔道具。それら全てが激しい爆風を伴った閃光と化し、魔素を電気へ変換していった。

 俺には魔素の密度を推し量ることができない。実験で箱の中にある魔素くらいなら、計測器で見れば分かるのだけど。距離があるとまるで分からん。

 そこは専門家に任せている。

 頼りになる自称大魔法使いが、魔素の流れや量を感じ取りながら的確に魔素を電気へ変換している……と思う。


 遊覧飛行かのように進んでいた飛行船の旅も終着点に向かおうとしていた。

 高度良好。接近するモンスターの影は無し。竜のような魔物が数匹飛んでいることを確認。

 真っ黒でまるで影を切り取ったかなような竜に怖気が走る。

 あれを爆散することができるのか不安になってくるものの、ここまできたらうまくいくことを願うしかない。


「残りはザイフリーデン領の領都だけじゃ」

「ここが魔素の最下流なんだよな?」

「うむ。上流から潰さねば、結局ここへ流れ込むからの」


 腕を組み得意気に頷くセコイアである。

 魔素の流れは水にたとえると分かりやすい。

 水が高いところから低いところに流れ落ちるように、魔素にも高低差のようなものがある。

 低いところの魔素を発散させたとしても、高いところから流れ込んでしまうのだ。


「あ……」

「どうしたのじゃ?」

「いや、何でもない。安直な考えだったけど、少し考えれば無駄な動きだと分かった」

「ふむ? なるほどの。最も密度が濃い場所で魔素を発散し続ければ動かなくていい、とかそんなところかの?」

「うん。楽な方法かと思ったけど、そうなると水たまりのようなものが各地に残ってしまうよな」

「その通りじゃ」


 うむうむと頷くセコイアである。

 冗談めいた言葉を交わしたものの、双眼鏡越しに映る変わり果てた領都の姿にいたたまれない気持ちになっていた。あんな恐ろし気で巨大な竜が何匹も我が物顔で飛翔する街に生き残った人はいない。

 これから魔道具で爆破するから、残った街並みも瓦礫と化すだろう。あれほど発展していた領都がもはや見る影もない。

 今後二度と、ザイフリーデンのような悲劇を起こすまい。

 気持ちだけはそう固く誓う俺であった。具体的な対策はまだ先だが、ね。今後のことも肝要だが、今は目の前のことに集中しなきゃ。


「セコイア。魔物の動きに注意しつつ、魔道具の投下を頼む」

「任せておけい。万が一があったとしても、この高さじゃ。まず到達することはできんよ」

「そう聞くと安心した。だったら、ゲ=ララの役目はもうないかな」

 

 狐耳をピンと立てたセコイアが腰に手を当て胸をそらす。

 ホッとする俺に向け、彼女がにまあっと嫌らしい笑みを浮かべる。


「そうとも限らん。竜が船に体当たりすることはないじゃろうが」

「うへえ……」

 

 察したよ。竜のブレスなら到達するかもしれないって言うんだろ。

 想像して、思わず変な声が出てしまったよ。

 俺の嫌そうな顔に満足した彼女はすぐにルンベルクと相談を始め、いよいよザイフリーデンへのダイナマイト型魔道具の投下が始まった。


 俺? 俺は今回ばかりは倉庫ではない。船頭に残りの魔道具を持ってきたからな。ここで観察に注力するのだ。

 ザイフリーデン伯は優れた封建領主だった。俺が草案を伝えただけで、的確に改革を実行したばかりでなく更なる改革と発展をおしすすめたのだ。

 公爵直轄領以外の貴族領はなかなか改革がうまくいかないことが多かった。よくあるケースは改革をしないまま放置するパターン。次にあるのが、直轄領が劇的な改善を見せたことによる後追いだ。

 この場合、改革の意味を理解しないまま実行して、土地に合った改革ができずに失敗することがよくあった。

 ガーデルマンやザイフリーデンのように上手くいった封土は稀である。

 豊かだったザイフリーデン領が……天災とはかくも恐ろしいものだ。ありし日のザイフリーデンに想いを馳せるのは全て終わった後だよな。

 しかと見届けよう。この日のことを。

 双眼鏡を握る手に力が入る。

 その時、街の上空に閃光が走った。


 魔物はどうなった? 遥か上空の船の中まで魔物の咆哮が聞こえてくる……ことはなかったのだが、爆発音が僅かに耳に届く。

 そう考えると、爆発の凄まじさが分かるってもんだ。ブルリと身を震わせつつ双眼鏡で魔物の姿を探す。

 う、ううむ。分からん。先ほど使ったダイナマイト型魔道具は時限式Cだった。なので、街の上空で爆発するはず。

 その証拠に家屋は破壊されていないのだが……。

 こんな時は分かる人に聞くに限る。そう、そこで腕を組みうむうむしている娘っ子にな。

 

「真っ黒な竜はどうなった?」

「相性がよかったようでの。綺麗に粉々になったわい」


 素っ気なく応じるセコイアにあんぐりと口を開け目をぱちくりさせた。

 ほ、ほほお。ダイナマイトすげえ。地面にクレーターができるほどの威力だものな。


「粉々って」

「言葉の通りじゃ。あの竜はちと特殊な構造をしておってな。爆発で四散し、最後は閃光に飲み込まれ溶けてきえた」

「へ、へえ……」

「その顔、思考を放棄しおったな」

「科学の範疇を越えることは、考えても何も理屈が浮かばないからな」

「全く……カガクの更なる進化には魔法が必要なのじゃろ?」

「そうだけど。そこはほら、おいおいってことで。セコイアもいることだし」

「ふむ。ボクに任せておくがよいぞ」


 ご機嫌そうに耳をピクピクさせるセコイアにルンベルクが何やら耳打ちをする。

 すぐに表情が引き締まった彼女は次の指示を出し始めたようだった。


「ヨシュアくん。特殊な構造とは心躍るね」

「残念ながら調査はできないけど、ね」

「仕方ない。検体調査は是非ともしたいところだが、安全が最優先。時には我慢も必要だよ」

「そ、そうだな……あ、ペンギンさん、次が始まったぞ」


 研究熱心なペンギンは何にでも興味を示す。魔素密度の非常に高いところに出てくる竜だから、水圧の高いところに棲息する深海魚みたいなものなのかな?

 とすれば、魔素密度を下げるだけで魔物を倒すことができるかもしれない。試してみる気はないけどね。ペンギンも言った通り、「安全第一」である。

 この世界に進化論が適用できるのかは不明だが、環境適応の考え方は通じるものがあるのだ。複雑にしているのは同じように見える環境でも魔素の密度が違うってことだな。

 たとえば、同じように見える砂漠であっても、小さなトカゲくらいしかいない場所もあれば、巨大なバジリスクと呼ばれる魔物がいる場所もある。

 バジリスクってやつは書物で読んだだけで、実際に見たことはない。見たいとも思わないさ。危なそうな魔物をわざわざ見学に行こうなんて普通思わないだろ?

 中には猛獣大好きで、率先して観察に向かうって人もいるかもしれないけど、俺は願い下げだ。

 ハンモックで寝ている方が余程いい。……待っていてくれ、俺の枕よ。

 

 はあと息を付いたところで、閃光のさく裂が始まったのだった。

追放された転生公爵3巻が6月10日に発売となります。ウェブ版もまだまだ続きます!引き続きよろしくお願いいたしますー。3巻の表紙にペンギン気球が乗っております。是非、表紙だけでもチラ見してみてください!

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