199.目途が立ったぞ!
どうするか、時間はもう余り残されていない。
公国北東部にひしめくモンスターと別働隊は分けて考えなきゃいけないな。
数だけで見ると別動隊は公国北東部のモンスターらと比べほんの僅かだ。だが、危険度で見ると別動隊の方が高い。
公国北東部に釘付けなら、避難してさえいれば犠牲者が出ないからな。
別動隊と相対するとして、まず公国警備隊と接触しなきゃならん。この役目はルンベルクと仮面の騎士リッチモンドの二人に任せる。
恐らく警備隊を率いているのは騎士団長か彼の麾下の人だろう。二人なら騎士団長とも交友があったろうからな。飛行船を使ってローゼンハイムに向かうか迷ったが早馬とすることにした。
というのは馬で急げば「二日半くらいで到着できる」とルンベルクが見積もってくれたから。俺だともっとかかるがね。ははは。
飛行船組はそのまま監視。何か大きな動きがあればすぐに報告のためネラックに戻ると決めた。
鍛冶場組はこのまま研究開発を進める、と同時に雷獣にカンパーランドシロップと引き換えにもう少し毛を貰えるよう交渉することも同時並行で。
人材がいない……なのでこの役目はちょっくら俺がエリーと行こうと思ったのだけど、ガラムとトーレに立ち塞がられ、彼らが行くことに。
中央はシャルロッテ一人に任せることになってしまったが、しばらくの間耐えてくれ……。多少の文官は雇い入れたので、以前よりはマシになってるはず。
そんな感じで4日間が過ぎる。
「よ、よっし。これで完成だな」
「理論とのズレがなくて幸いしたよ」
「本当に作られてしまうとは……」
うんうん頷く俺とペンギンに対し、顎が落ちっぱなしのティモタ。
ついに、魔法回路の部分が完成した!
雷獣の毛だと吹けば飛ぶほど細く短いものなんだけど、人工的に作り上げた魔法回路はとてもじゃないけど雷獣の毛のようなサイズでは作成できない。
うまい棒より一回り大きいくらいかな。これでも最初より軽量化したんだよね。
感動に打ち震えたいところだけど、そうも言っていられない。時間が限られているからさ。
「ティモタが回路を作ったんじゃないか。君の力もあってこそだよ。誰一人欠けてもここまで辿り着けなかった」
「お心、感謝いたします。これより、街の全魔道具職人が総力で電気変換魔道具を作成いたします!」
「頼む。彼らの仕事を止めて申し訳ないが、事態は急を要する」
「はい!」
返事をするやティモタは部屋から飛び出して行った。
回路部分の量産は彼らに任せて、外側はもちろんこの二人に率いてもらう。
「ガラム、トーレ。形状は任せる。なるべく軽量で持ち運び易いものを頼む」
「壊れてしまっては元も子もないからの。まあ、悪いようにはせんよ」
「ですぞですぞ」
ガラムとトーレには彼らの弟子だけでなく、細工師、鍛冶職人を多数つけている。
本プロジェクトは街の職人らの総力をあげて進めるのだ。
こんな時は辺境伯特権が威力を発揮する。緊急事態に対する対応力は独裁政権ならではのスピード感なのさ。ははは。
仕事を止め、全てのリソースを一点集中する。日本じゃこうはいかないからな。
彼らの総指揮をするのはもちろん俺である。ひっきりなしに相談や決め事の来客が来るだろうな……。
辺境伯特権を使ったのだから、自分に業務が集中することは仕方ない。
お、終わらせて、その後は、ゆっくり休めばいいんだ。
「ペンギンさんは少し休憩を。ずっと寝てないだろ」
「ヨシュアくんも休みたまえ。倒れる前にね」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。川でさっぱりしようかな」
「それもよいね。ここにも風呂を作るべきだよ」
「終わったらなー。ガラムならちょいちょいっと作っちゃえるさ」
「それじゃあ、先に行っているよ。我が身はペンギン。何一つ準備が必要ないからね」
「ほおい。エリーも行く?」
「は、はい!」
何故か頬を赤らめるエリーに首を傾げる。
たまに彼女は謎の反応をするからな。別に俺が彼女の水浴びを見ようとかそんなことはないのだが。
彼女はいつものメイド服姿で遠巻きに俺とペンギンを眺めているだけ。
護衛だから、何かあった時に駆け付けることができる距離ではあるけど。
そんなわけでやって参りました。川です。
元気に水車が回っているので、てくてくと水車から離れこの辺かなと当たりをつける。
ペンギンは既にどぼーんしているようで、姿が見えないぞ。
「エリー」
「はい。あなた様のエリーはここに」
いやそれは分かってんだけど、ちょっとこう体を拭きたいなあと。察して欲しいのだけど。
その時、強い風が吹き抜けエリーと俺の髪の毛を揺らす。
「さ、寒い……」
「まだまだ暖かくはなりませんね」
「疲れすぎていて季節感さえ考えてなかったわ。戻ろう」
「……は、はい」
しゅんとするエリーの気持ちは分かる。
そうだよな。せっかく休憩を兼ねて外に出たってのにトンボ帰りだもの。
戻ったらたぶんすぐに……。
「早く休ませて」とも言えぬ状況が辛い。
「ペンギンさんは、ペンギンだけに寒さなんて平気か」
「中で体だけでもお清めされますか?」
「誰も来なければ、だけど。そうはならないと思う」
「そうですか……」
ますますずううんと暗くなるエリー。
俺のためにそこまで思ってくれるのは嬉しいけど、落ち込み方が少々あれだな。
「俺は気にしてないから。な、だからエリーも」
「は、はい!」
ぽんぽんとエリーの肩を叩き、できうる限り柔らかな笑顔を浮かべると、ようやくエリーも元に戻ってくれた。
必殺ヨシュアスマイル。
正直、効果があるとは言い難い。むしろ気持ち悪いかもしれない。
……やらなきゃよかったかも。いやいや、そんなことはない。彼女の気分が晴れたじゃないか。
なんて心の中で自問自答しつつ、鍛冶場に戻る。
「お、ヨシュアの。こんな感じかの?」
「それともこういう風ですかな?」
戻るや否や、ガラムとトーレが図面を持って押し寄せてきた。
近い、近いってば。
どっちの図面も顎に当たってる。
「は、はやいな。もう描いたのか」
「三案用意しましたぞ」
「儂も同じじゃの」
え、えええ……。
彼らの本気を甘く見ていた。
「よおっし、全部チェックするぞお。全部持ってきてくれ」
「それでこそですぞお」
「うむ」
満足気な二人はテーブルに向かう。
やれやれ。この分だと形状はすぐ決まりそうだな。
いつの間にやら200話目になりました!
一話分閑話を話数表記していなかったので、これで累計200話目です。
ここまで続けられたのもみなさんあってのことです。
まだまだ続きますので引き続きよろしくお願いいたします!




