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188.三角キャップ

 事態は急を要するかもしれない。

 最も重要な公国東北部の観察はセコイアら四人に任せた。だから、俺はモンスターのことを今は一切考えない。

 報告が来たら、都度検討する。

 動きがある程度分かったら、鍛冶場に訪れてくれと頼んでいるからな。

 俺? 俺は今日からここ(鍛冶場)で寝泊まりする予定だ。

 幸い部屋は余っているのだよ。は、ははは。以前、綿毛病で隔離した際にいくつか住居を作ってもらったからさ。

 

 よおっし。

 と気合を入れたが、ベッドの上だと締まらないな。

 三角キャップを装着したままだし、結構まぬけに見えるかもしれん。

 

「ヨシュア様」

「エリーにまで来てもらって悪いな」

「い、いえ。ご褒美です。そのナイトキャップも素敵です」

「そ、そうかな……」

「はい。先についているぽんぽんが特に」

「あ、うん」


 目を輝かせて言われましても。

 鍛冶場に泊まり込むと告げたら、世話役にとエリーがついて来てくれたのだ。

 ルンベルクも日中は街のことで出かけることも多いので、屋敷に誰もいない状態になることもあり得る。

 政務はどうしてもということが無い限り、シャルロッテに回すようにお願いしてきた。

 それだけ、今回は本気でやる所存である。俺にしては珍しく。

 下手したら多くの人の命が失われるかもしれないとなっては、激務なんてやだやだと言ってる場合じゃないからな……。

 

「そうだ。エリー」

「はい。あなた様のエリーはここに」


 そんな畏まらなくてもいいんだけど。ベッドに腰かける俺に対し、真剣な眼差しで構えるエリー。

 とってもシュールだが、これがエリーである。

 ここでたじろいたり、変な顔をしたりする俺じゃあない。

 彼女はこれがいつも通りなのだ。

 

 かりかりと頬をかきながら、もう一方の手で三角キャップを握る。

 

「気に入ったのだったら、これ、持ってく?」

「そ、そんな畏れ多いです!」

「いやまあ、公国から持ってきたものだけど。俺は別にこれが無くても」

「いえいえいえ。それを頂いたら、私は……」


 消え入りそうな声でエリーが「悪いことに使ってしまうかもしれません……」なんて呟いていた。

 エリーがグレたら困るな。仕方ない。

 こいつはこのままベッドに置いておくことにしようか。

 

「よっし、みんな揃っているかな?」

「はい。もう朝食を済ませていらっしゃいます」

「それは……俺だけ寝てしまってすまなかった」

「いえ。ヨシュア様は昨日遅くまで政務を引き継ぐとかで」

「何とかなっ……てないけど、シャルとルンベルクで何とか持ちこたえてもらう」


 んーと伸びをして立ち上がり、みんなのいる部屋に向かうことにした。

 さよなら、枕さん。また後で愛しにくるからね。

 

 ◇◇◇

 

 トーレ、ガラム、ペンギン、エリー、俺の五人でテーブルを囲む。

 もしゃもしゃとエリーが作ってくれたサンドイッチを食べながら、行儀悪くも口を開く。

 

「公国北東部に発生した、いや、流れ込んだ魔素の塊は通常の数十から数百倍の密度になっている」

「聞いておるぞ。お主のことだ。何か対策が浮かんだのじゃろう?」


 早く喋れとらんらんと目を輝かせるガラムは、もうワクワクして仕方ない様子だった。

 状況が切迫しているが、公国民の避難は済んでいると聞くし今すぐ人命が失われる状況じゃない。

 彼とて北東部のことを案じていないわけじゃないが、職人としての彼が腕を振るえと心の中で叫んでいるのだろう。

 少なくとも俺は不謹慎だなんて思わないし、彼に悪気がないことは確かだ。

 

「まず、空気中の魔力が見える人はこの中にいるかな?」

「はて?」


 トーレがよくわからないと言った風に片眉をあげる。

 一方でエリーがおずおずと手を伸ばす。

 

「おお、エリーは魔力……魔素と言った方が適切なのかな。魔素が見えるのか?」

「はい。一応は」

「凄いじゃないか。セコイアとシャルも見えるらしいけど、この中に魔素が見える人がいなかったらどうしようかと」

「ヨシュアの」


 喜ぶ俺に水を差すように呆れた声でガラムが俺の名を呼ぶ。

 んん?

 はてと首を捻る俺に対し、彼が言葉を続ける。

 

「儂もトーレも魔素なら見える。魔素が見える者はそれほど珍しくはない」

「え、そうなの? 俺は全く見えんぞ」

「魔力密度3じゃったか」

「5だよ! 魔法の心得がある人だったら見えるってことかな?」

「そうじゃの。まあそれでよいかの? トーレ」

「ですな。細かいことはいいではありませんか。魔素を見ることができる者がいればいい。ここにいる。ですぞ」

「そうじゃな。ガハハハ」


 回答したトーレの言葉が余程面白かったのか、ガラムが腹を抱えて笑う。

 一応、今は素面(しらふ)のはずなんだけどな。


「まず、魔素を見ることができる魔道具を作りたい。既存の物で似たような物があったかな?」

「ティモタに聞いておきましょう。して、魔素を見て何を?」

「俺やペンギンさんが魔素の流れを見ることができるようにと思って。いや、どちらかと言うとペンギンさんが見えるようにだな」

「ほほお」


 俺とペンギンは魔素や魔力というものの性質をまるで分かっていない。

 魔素が川のように流れ、池のように溜まると聞いても、そのメカニズムが不明だ。

 魔力に物事の因果関係があるのかどうかを確かめたい。

 何故、川上と川下があるのか。その原因となるものは何か?

 ダイナミックに流れが変わる理由を解明することができれば、今ある魔素の動きと今後の魔素の動きを予想できるようになる。

 そうなれば、今回は仕方ないにしても次回より対策を打てるはず。

 魔素が溜まり、モンスターが集まって来る前に対処すりゃ、モンスター襲来という害獣被害は未然に防ぐことができるのだ。

 

「……というわけなんだよ」

「ほおお。しかし、それは『次回』よな。急ぐ必要がないんじゃないかの?」

「いや、今回も必要だ。対策を打つためには魔素の流れ、動きが計算できるものであることが望ましい」

「ほう。魔素を見ることができる道具は前提条件というわけじゃな」

「その通り」


 両手を打ち、ガラムに笑顔を向ける。

 続いて立ち上がって、チョークを手に取った。

 黒板にチョークをつけ、みんなの方へ顔を向ける。

 

「魔素の性質が解明でき、流動予想を計算できるようになれば」

「ふむ。効果的に発散させ、周辺への物理的破壊を最小限に抑えることができる、というわけだね」

「その通りだよ、ペンギンさん」

「ふうむ。魔素が物理化学で計算できるかどうかにかかっているわけか。いや、発散ができなければ、意味がなくなる」


 さすが察しが早い。それでこそ科学者ペンギンである。

 彼は科学者であるのだけど、理論構築を最優先しない。そこが、とてもありがたい。

 魔素の計算なんて涎が出る研究材料だろう。

 だけど、それよりも遥かに大事なのが魔素の発散である。

 

 チョークを走らせ、順に書きながらみんなに説明を行う。

 

「まず、魔素を見る道具を作る。それを元に顕微鏡の開発。魔素の詳細を見るためと、俺にはこれしか思いつかなかったんだけど。ここが第一の関門だ」

「雷獣の毛かね」


 テーブルの上に乗ったペンギンが両フリッパーを高く掲げる。

 嘴をパカパカさせていることから、余程興奮しているようだった。

 

ヨシュアさんのパジャマはコミカライズ版をご参照ください、、。

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