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165.神託と予言の考察

 クルトたちと会食を行い、あっという間に夜になった。

 今日もいろいろあったなあ……。

 

『では、失礼するよ』

『うん』


 ちょいちょいとつま先でお湯を引っかけてぱちゃぱちゃやっているペンギンが、湯船に浸かる俺に一言断ってくる。

 かけ湯のつもりだろうけど、全くもって体にお湯がかかっていないぞ。

 どぼーん!

 ちょ、腹から湯船にダイブかよ。

 顔にお湯がびちゃーんとかかった。

 

『ヨシュアくん、予言と神託だったかね』

『出てからにしようか?』

『それもそうだ。せっかくの風呂だしね』


 髪の毛から垂れるお湯が口に入りぷっと吹き出す。

 一方でバタ足をするペンギン。いろいろ突っ込みどころ満載の絵面だな……。

 ペンギンと風呂に入るのも、もう何度目になるだろうか。

 ここ最近はご一緒していなかったけど、一時は連日のように彼と入っていたような。

 そうそう、クルトから受け取った予言と神託の内容が書かれた紙はまだ内容を検めていない。

 ペンギンを洗っている時にふと思い出して彼に伝えていて、今の会話である。

 決して忙し過ぎて紙のことを忘れていたわけでないのだ。ないんだから。

 

『そういや、ペンギンさん』

『何かね? モーターのことかね? 最初に作るといったことは忘れてはいないよ』

『モーターかあ。構造的に難しそうだ』

『何かと物入りだからね。ヨシュアくんの優先順位に合わせて開発を進めているよ』

『うん。いや、仕事の話じゃなくてだな。ペンギンさん、俺がいない時、お風呂は一人で?』

『一人の時は失礼ながら、そのまま湯船につかってしまっていた。すまないね』

『いや、それは仕方ない。届かないもの……フリッパーじゃ』

『フリッパーは不便でならない。君がいない時、セコイアくんが洗ってくれたりしていたんだよ』

『へえ、セコイアが』


 セコイアがごしごしとペンギンを洗うなんて姿は想像できないな。

 彼女がペットの……いや、ペンギンの世話をするなんて。てっきりアルルや、ああ見えて世話好きのバルトロ辺りが手伝っているのかと思っていた。

 

『セコイアくんだけじゃない。バルトロくんもよく手伝ってくれていたよ』

『バルトロなら、うん』


 うんうんと頷いていたら、少しのぼせてきた。

 そろそろ出るとするかー。

 

 ◇◇◇

 

 「公爵がこの地に留まると不幸が起ころう。南東の外れへ向かうべし」

 「尊き者(公爵)の安寧はここにはない」

 

 紙に書かれた言葉をまじまじと見つめ、顎に手を当てる。

 机に乗ったペンギンは文字が読めないため、フリッパーをパタパタやって手持ち無沙汰な様子だった。

 風呂からあがった俺はペンギンと共に自室へ向かったんだ。

 そのまま椅子に腰かけ、さっそくクルトからもらった紙を読んだところである。

 

『読み上げてくれたまえ』

『うん。こっちの紙に日本語で書き写すよ。見ながらの方がいいだろうし。もちろん、読み上げもする』

『セコイアくんも呼ぶかね?』

『そうだな。でもセコイアは鍛冶場の横にある家に住んでるよな……』

『呼びかけだけしておくよ』


 ペンギンとセコイアは脳内会話ができる。どれくらいの距離まで可能なのかは知らないが、少なくとも屋敷から鍛冶場までなら可能なのか。

 脳内会話の魔法って、距離によっては「とても使える」。難しい魔法じゃなかったら、何人か魔法を使える人を準備して……。

 おっと、紙、紙。書き写しと読み上げだった。

 

『公爵が、の方が予言で、尊き者(公爵)が神託だな』

『ふむ。これは別々の意味合いなのか。そもそもだが、予言と神託に違いはあるのかね?』

『俺は似たようなものだと思っていたけど、厳密には異なる。予言は将来起こり得ることの可能性の一つが「見える」らしい。神託は文字通り神の言葉が直接聞こえるものなんだって』

『ふむ……。信憑性がまるでない。これほど曖昧なものに振り回されていたのかね』

『これがさ。曖昧なものじゃないんだよ。地球出身の俺たちじゃ及びもつかないんだけど、さ。直近では綿毛病の神託が降りたって、クルトが食事の席で言ってた』


 ペンギンが懐疑的なように俺も「神託? 予言? 非科学的な迷信だよ、ふふん」なんて思っていた。

 予言は全てではないか、神託については一言一句余す事なく文献に残っている。

 驚いたことに、過去から現在まで神託の言葉がただの一度も外れたことがなかった。また、予言は神託を補足するためのものだということも理解できたのだ。


『直近では綿毛病。覚えている限りでここ数年、12の神託と確か5つの予言があった』

『ふむ。フランスの予言集みたいなものではないと』

『うん。確実に起こる。ことは間違いない。だけど、神託に加え予言も加わった時、より大規模な被害が起こっていたと記憶している』

『二つとも災厄を予想……予定するものなのかね』

『喜ばしいこともあるよ。例えば「今年の海は荒れない」とかね』

『ふむ。いくつか疑問点がある。まず、一応の確認と認識合わせといこう。神の言葉を解釈するのは人間。ならば、解釈を間違うことがある』

『その通り。解釈を巡って、戦争が起きそうになったことさえある』


 国家間で揉めそうな時は聖教会が間に立って窘めていたな。


『一つ。予言は単独ではなされず、神託と必ずセットになる、でいいのかね?』

『その通り。予言は神託より更に大きな出来事に対してしか降りてこない』

『なるほど。その言葉で一つの疑問が解けた。神託単独より、神託と予言が揃った時の方が災害規模が大きい』

『逆もあるけど。その認識で間違いない』

『二つ。先程君は綿毛病の神託が下りていたと告げた。しかし、君が辺境へ行くことの原因になったこの紙に書かれている神託と予言はまだ成就していない』

『そう、そこが神託と予言の内容を知ろうと思った一番の理由なんだ』


 良いことが起こるのならそれでいい。しかし、俺が追放になるとか穏やかな話ではないだろ。

 ペンギンが推測するように神託が告げられて、事が起こるまでの期間には「とある」相関関係がある。

 それは小さな事件ほど、神託が降りてから事が起こるまでの時間が短いということなんだ。

 たとえば綿毛病は神託単独な上、告られてから発生するまで長くみて一ヶ月くらいか?

 それでこの被害だ。

 となると、未だ事が起こっていない俺が追放された原因となった神託と予言の規模は、計り知れない。

 下手したら大陸中に影響を及ぼすもの、なんじゃないのか。


『ふむ。疑問が解けたところで本題に入るとしようか?』

『うん』


 俺が日本語で書いた方の紙をフリッパーでペタペタやるペンギン。たぶん真剣なんだろうけど、嘴パカパカはちょっと……力が抜ける。


『個人的にまず気になるのは、尊き者の解釈だね。こう解釈したのは、予言が公爵とハッキリ告げているからだろうね。本当に尊き者とは公爵……つまり君を指すのかね』

『俺本人はともかくとして、公爵の定義は尊き者と表現してもおかしくない。公爵とは神に代わって国を治めることを任された身分……個人と言い換えてもいいか』

『神からというところで、尊きなのだね。ふうむ』

『といっても俺もこの解釈は違うかもしれないと思っている』


 神託単独ならば、「俺の安寧がここにないからどっか行ってね」という解釈でもそうなのかなと納得できたかもしれない。

 だけど、予言も併せると疑念が浮かぶ。

 予言と神託は言葉こそ違え、これから起こる何かを指し示している。

 

『予言の方に「公爵がこの地に留まると不幸が起ころう」って書いてるだろ。これがあるから神託の尊き者が公爵だと判断したはず』

『ふむ』

『そうじゃないんじゃないか。この尊き者ってのは聖女や枢機卿ら神の使徒、ひいては聖教徒を指すんじゃないか?』

『私は公爵の成り立ちを聞くまではそう考えていたよ』

『こいつは……だけど、起こるとしたら何が起こる? 意味合いから判断するに、いい事が起こるとは到底考えられない』


 突発的な大災害なのか、それとも予測できることなのか。

 いくつか考え得ることがある。

 聖教徒にとっての不幸なのか、公国の領民にとっての不幸なのかによっても起こることに対する予測が随分変わってくるな……。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 「公爵~」の方は暗殺されて大混乱からの世界大戦の可能性有るからなあ(明後日の方を見ながら
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