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161.国旗

「ほええ」

「ふぉふぉふぉ」


 翌朝、レーベンストックから来た客人へ挨拶をと思い鍛冶場を訪れたところ、「風車がもう完成した」とかトーレが言ったんだ。

 じゃあ見に行くかと客人には挨拶だけにとどめ、さっそく馬車でルドン高原に向かった。

 客人をそのまま放置するのかというと、そうではない。セコイアが世話を焼いてくれているからね。どうも客人は俺に見られていると硬くなってしまうようだ、と彼女から申告があった。なので、ちょうどいい理由をつけて移動したってわけだ。


「風車が二基も増設されているじゃないか」

「人員が格段に増えましたからな。某らの弟子だけでなく、新たに街に来た大工らにも参加してもらってます」

「彼らの面倒まで見てくれてたんだな。ありがとう」

「ふぉふぉ。みな腕を振るいたくてウズウズしております」


 長く白い髭を揺らし、眉尻を下げるトーレは好々爺といった様子。

 先立っていずれ風車を増設しなきゃなあとぼやいていた。トーレやガラムらも、このことをもちろん知っている。何しろ鍛冶場でブツブツと一人呟いていたからな。

 彼らの耳にも届いていたことだろう……。

 先日、燃焼石と魔石を増産すべく風車を一基建てたのだけど、人口の増加に伴う供給不足を予想して手を打ちたいと思っていた。

 更に貨幣のこともある。貨幣は魔法金属を使った現物硬貨とした。

 貨幣そのものに価値がある金貨みたいな形としたわけなのである。これだと貨幣の信用度やら精密な彫り、印刷技術は必要ない。

 だがしかし、魔法金属が無ければ話にならないのだ。

 魔法金属の元になる鉱石は日々採掘しているので問題はない。できれば鉄をもっともっと欲しいところなのだけどねえ。

 大量の鉄の使い道は別のところにあるけどさ。


 立ち並びクルクルと回転する風車を眺めつつ、腕を組んだまま唸る。

 そんな俺の姿を見たトーレの眉があがり、目を輝かせ食い入るようにこちらを見上げてきた。


「その顔、何か楽しげなことが浮かんだのですな。ささ、ささ」

「ん、いや。鉄がもっとあればやりたいことがあってね」

「ほうほう。模型を作りますぞ。言ってみなされ、ささ、ささ」


 だめだ。こうなったトーレは、構想だけでもいいのでちゃんと伝えないと、壊れたスピーカーのように同じ言葉がループする。

 苦笑し、彼に俺の妄想をそっと耳打ちした。


「ほほうう! 問題ないですぞ! さっそく計画に」

「いや、だから鉄が足りないんだ」

「ふむふむ。より近いところに鉱脈がないか、いえ、すぐに堀りつくさない鉱山の発見が先ですかな」

「まあ、ね。輸入ってのも考えてる。鉄は重いのがなあ」

「某にも協力させて下され。ガラムも呼びましょうぞ!」

「職人魔法だったっけ。あれで鉱物サーチでもできるの?」

「大雑把にですが。ドワーフの方が探索は得意ですな」


 すげえ。魔法のことはよく分からないけど、トーレとガラムらが扱う魔法のカテゴリーは素晴らしいの一言に尽きる。

 コンクリートを乾かしたり、鉱石の種類を鑑定したり、と地球の現代科学を以てしても実現できないことを易々とやってのけるのだ。

 鉱脈を探すことまでできるなんて脱帽する。

 といっても、露天掘りできるような場所はなさそうだけどなあ。もし存在していたら街の周囲二十キロ四方くらいならば、もう発見している。

 日々探索を繰り返し、狩猟・採集を行っているからな。大規模な露出した鉄鉱石なんぞ見つかったら、即報告が入る。

 

「技術的にはどうだろう?」

「問題ありませんな。某は作ったことがありませんが、公国内にもありますぞ」

「そうだったのか。鉱山とかに?」

「そうですな。ですが、ヨシュア坊ちゃんの発想と設計思想が異なりますぞ。とてもワクワクしますな」

「模型を作る?」

「よいですなよいですな。それでしたら、一つ提案があるのです」

「ん?」

「皆が……とまではいきませんが、カガクトシでしたかな。それの象徴の一つとなるわけではないですか?」

「ま、まあそうかな?」

「でしたら、辺境国のものだと分かるよう、紋章を作りませんか?」

「確かに。そろそろ旗があってもいいと思っていた。既にレーベンストック、ガーデルマン伯と交流があり、国交も開くから」


 権威やら仕来たりやらが苦手な俺であるが、国旗の重要性は重々承知しているつもりだ。

 旗を掲げることは自国を証明する最も一般的な手段である。

 たとえば、海洋を航行する船は旗を掲げることで、交差する船の国を識別でき、旗を掲げなければ敵対行為とみなされることまであった。

 他には軍隊だってそうだ。旗を掲げることで士気を奮い立たせ、旗と共に敵軍へ突撃をする。

 国同士の会談でもお互いの旗を持ち込み、両国の旗を議場に掲揚することが多い。

 他国と戦争をするつもりは全くないけど、交流をするとなると自国を証明するための識別としての旗は必要だ。

 辺境国民としての一体感も高まるし。

 メリットだらけである。デメリットは辺境国の旗を偽装して悪さをされることに警戒せねばならないってところかな?


「そうと決まれば、さっそく行きますかな」

「え。え」


 グイグイと俺の服を引っ張るトーレに困惑する。

 すると彼は待ちきれなかったのか、今度は俺の腰を押して馬車に乗るよう促してきた。

 

「旗を決めるのですぞ。ささ、ささ」

「お、おう。みんなで相談して決めようか」


 こうと決めたら即動き出すのはトーレとガラムに共通したことだったな。

 ものつくり以外でここまで彼が熱中するのも珍しい。いや、国旗作りもある意味「ものつくり」の範疇かも?

 

 ◇◇◇

 

 鍛冶場に戻り、すぐさま協議が始まるものの、関係者全てが揃っているわけじゃなかったので決まらず。

 夕方になり、ルンベルクらとも雑談交じりに旗のことを話すと、真剣な顔で議論し始めてしまった。

 

 次の日の朝、いつもの定例会でも旗の話題でもちきりになって……この日はセコイアらを含め関係者全員が集合する。

 どんだけ気合入っているんだよ、と思いはしたが、国の象徴になるものだから、これが普通なんだと思いなおす。

 で、でもさ。デザインとか苦手なんだよね。

 

「ヨシュアはどうなのじゃ? キミに思うところがあるのだったら、それが一番じゃろうて」


 ぼーっとみんなの様子を窺っていたところ、いつの間にか膝の上に座っていたセコイアに顎を頭突きされて現実に引き戻された。

 

「ん、んー。そうだな。あ、獅子なら紋章としてもアリじゃないか?」

「雄々しく家紋としても好まれます。偉大なるヨシュア様が統治する国に相応しいと愚考いたします」


 感激したようすのルンベルクの発言に仮面の老騎士リッチモンドもうむうむと頷く。

 獅子は好感触の様子。

 

「なら、辺境国の根幹を支えてくれている『雷獣』を象徴とするのはどうだろう?」

「ふむ。あやつの毛があってこそカガクトシとなる。よいんじゃないのかの」


 即座にセコイアが賛成の意を示す。

 他のみんなも彼女と同じように否はないようだった。

 

「不毛の地を変えた貢献者たる雷獣に敬意を示す。お主らしいの。ヨシュアの」

「ですぞ」


 ガラムとトーレが賞賛し、パチパチと両手を打ち合わせる。

 それがきっかけとなって集まったみんなも拍手をしてくれた。

 

「よっし、デザインはトーレに任せる。頼んだ」

「もちろんですぞ。腕によりをかけて。ふぉふぉふぉ」


 よおっし。国旗の大枠は決まったぞ。

 徐々にではあるが、国としての体裁も整ってきた。

 旗ができたとなれば……そろそろ制度を詰めねばならない……う、うう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 辺強国・・・あながち間違いでもない? いや、さすがにまだ早いか。 強い人は多いかもしれないが、軍隊らしい軍隊もまだないし。
[一言] 雷獣が照れそう(*;´〰`*)
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