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132.許可もらった

『ほう。お主……』


 うはあ。見るんじゃなかった。覇王龍の興味が俺に移ってしまった。

 このままセコイアと無難に会話して立ち去ってくれることを期待していたのに。

 

 どうしよう。

 困った俺は縋るようにセコイアへ目線を送る。


「こやつはヨシュア。お主の言うところの『可笑しな物』の建造を指揮した者じゃ。ボクが今最も寵愛してやまない者でもある」

『妖狐。お主がこの小僧に注目するか。お主は変わったものが好きだからな。儂にはとんと分からぬよ』

「何を言うか。ヨシュアは比類なき者じゃ」

『ふうむ。確かに比類なき……ことではあるのか』


 セコイア。頼むから持ち上げるのをやめてくれ!

 覇王龍の興味を俺から逸らして欲しいってのに。

 奴がこちらに目を向けるだけで、どくどくと心臓が高鳴る。手からじんわりと汗もにじんできた。


「ヨシュア様。安心してくれ。万が一の時は、俺が……斬る」


 にかーっと白い歯を見せて片目をつぶるバルトロが、親指を立てる。

 護ってくれるのは嬉しいし頼もしい。

 こんな相手にセコイアはともかく、他がどうこうできるとは思えないし、俺はなるべくなら平和的に事を運びたい。

 言葉が通じ、会話が成立する相手なんだ。譲れない物があるなら別だけど、あえて敵対する必要はないだろうに。

 

『人の子の勇者よ。儂は争う気でここに来たわけではない。もっとも、儂をここで討伐するつもりであるならば……』

「俺だってそうさ。だが、ヨシュア様に手を出そうってんなら、叩き斬るまでだ」

『勇者よ。お主ほどの傑物が。それに……他の者も、妖狐まで、この男にそこまでの価値を見出しているのか』

「何当たり前のこと言ってんだ? ヨシュア様の盾になるために、俺はここにいる。たとえ、ここにいるのが俺とあんた。それにヨシュア様だけだったとしても、俺はあんたと戦うぜ」

『カカカカ。それほどか。それほどまでなのか、この男。セコイアならば、価値を見出すであろうことは、有り得ない話ではない。だが、人の子ら。お主らも同じとはな』


 バルトロ! 煽らないでくれええ。

 彼が本心から、「自分の命に代えてでも」と言ってくれることに胸がじーんとしてしまったけど、覇王龍の笑い声が腹の底から響き、それどころじゃなくなってしまった。

 

「セコイア、バルトロ。ありがとう。俺は覇王龍「リンドヴルム」と争う気なんてこれっぽっちもない。それだけは、先に言わせてくれ」

『真なのだな。人の子……ヨシュアと言ったか。お主の声を聞いた他の者全ての意識がお主に向いている』


 心底驚いたのか、覇王龍は翼をばっさばっさと震わせる。

 それだけで物凄い風が吹いて、女性陣のスカートがめくれそうになった。エリーはちゃんと太ももの辺りを両手でおさえてバッチリガードしている。

 アルルとセコイアは風に吹かれるがままだ……ちょっとは隠そうな。俺に対しては気にしないのかもしれないけど、バルトロもガルーガもいるのだから。


「今日は黒じゃない」


 アルルが唇に人差し指をあて何やらのたまっているが、俺には何も聞こえていないことにしよう。

 緊張感のないメンバーだな……俺一人だけ覇王龍におののいているように思えてくる。

 実際問題、この場にいる仲間たちのことが少し心配になってきた。

 覇王龍は間違いなく、絶対王者の風格を備えている。戦闘の心得の無い俺でさえ感じ取れるプレッシャーに加え、笑うだけでも物理的な風圧となって帰ってくるんだぞ。

 

 そんな中、黒じゃなかった狐耳が顎をあげ覇王龍に向け鼻を鳴らす。

 

「何を当たり前のことを」

『確かに、ヨシュアは特殊だ。だが、お主はともかく、勇者も含め、戦士も他の者もあやつに心底従っているように思えた』

「そうじゃの。まあ、ボクの愛してやまないヨシュアじゃからのお。誰からも求婚されて当然じゃ。まあ、ボクのものになる予定じゃがな」

『そろそろ、本質を突かぬ問答は止めだ。ヨシュアは儂が見てきた中で、最も脆弱。こやつほど魔力の薄い者を見たことが無い。特殊性故、お主が興味を惹かれたのだと思ったが……』

「違うと分かったじゃろ? ヨシュアの首から下は役立たずじゃ。人並みにも動けやせん。じゃが、首から上は至高の領域にある。お主も見たじゃろう。可笑しな物――空飛ぶ船を」

『あれを作ったとなれば、それなりに敬意を表するものなのだろうな。人の世とはそのようなものだ。己の強さ以外にも尊敬される要素があるのだろうて』

「人の世に興味を示さぬお主らしい。帰りも通る。お主の領域に降り立つこともせぬ。告知はしたぞ。これでよいじゃろ?」

『都合のよさは変わらぬな。妖狐。変わらぬお主が惹かれたのがただの人間とは』

「ただの人間ではない。さっきも言ったろうに。至高の域に到達せし者じゃ。人間だろうが獣人だろうが、関係ない」


 ふう。どうにか話がまとまりそうだな。

 覇王龍に敵意はなかった。旧知の間柄だったらしいセコイアがいてくれて助かったよ。

 

 つんつんと肘でセコイアをつっつき、彼女の耳元で囁く。

 

「もう帰ってもいい雰囲気かな?」

「素材を集めるとか言っておらんかったか?」

「そうなんだけど、お帰りくださいって感じだろ?」

「キミのことだ。またここへ来ようと思っておるじゃろ?」

「もちろん。次にここへ来る時は迂回して行けばいい。次はちゃんと方位磁石も持っていくから」

「揺れの激しい船内で方位磁石かの」

「羅針盤にすりゃいいだけだ。問題ない」

「またカガクかのお! 興味深い!」

「それは後だ。とりあえず、俺たちが覇王龍の領域を侵犯したのは確かだ。知らなかったとは言え、世も世なら領域侵犯は重罪だからな。おとがめなしならとっとと帰ろう」

「全く、本当に争うことを毛嫌いするのじゃな。そこがまた、好ましくはある」

「だああ。寄るな。こんな時に寄ってくるんじゃないって。バルトロたちが真剣に俺を護ってくれているというのに」

「ボクだって真剣に護っておる。キミが気づかぬだけじゃ」


 そうだったのか。といっても、セコイアを引っぺがすことには変わりない。

 それはそうと、セコイアが羅針盤のことを知らなかったことに驚きだ。自分の専門外だからと言えばそれまでなんだけど、彼女は知的好奇心が非常に強い。

 船に乗ることがなくとも、船にどんなものが取り付けられているのかってことくらいは調べてるのかと思っていた。

 公国の西部は海と繋がっているところがあるのさ。なので、交易船だってもっているんだぞ。

 それらの船には羅針盤が標準装備されているのだ。

 

『ふむ。儂の関知せぬ分野で神の域に到達した者か。よいだろう。我が領域を自由に通過するがよい。踏み入ることも許可しよう』

「え?」


 覇王龍からの思わぬ提案にすっとんきょうな声が出た。

 突然何を言い出すんだ、こいつ……。だけど、とっても嫌な予感がするんだ。

 たらりと額から冷や汗が流れ落ちる。


いつも感想いただきありがとうございます!

レスが少し遅くなることもありますが、とても嬉しいです。

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