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121/382

120.経過良好!

「いや、気分転換に外へ出ることもなく、熱中した時間を過ごせたのはいいんだけど……」


 セコイアが戻ってからも、結局そのままボードゲームを続けたんだよ。

 四種あって、一回終わるまでに2時間近くかかるからセコイアを加えてもう一回となると、かなりの時間が経過する。

 しかし、しかしだな。

 

『開拓村のヨシュアくんになっていたね』

「ボードゲームの中でもゴールできずに働かされるエンドなんてあんまりだ」

『現実世界ではゴールできるさ』

「そ、そうかな」

『そうだとも』


 慰めてくれるペンギンを思わず抱きしめた。

 対する彼は俺の背中にフリッパーを伸ばそうとしたのだけど、短すぎて脇腹を少し過ぎたところまでしか届かない様子……。


「ヨシュア様。私が代わりに開拓村で働きます!」

「それならボクも」


 エリーとセコイアが駒をつまみ、ゴールのマスから俺の定位置である開拓村のマスへと動かそうとする。


「ミーシャも、ヨシュア様と一緒です!」


 彼女らに合わせミーシャも駒を掴む。

 いやいや、そういうことじゃあなくてだな。

 ま、まあいい。気持ちだけありがたく頂いておくとしよう。


「とまあ、冗談はさておき……頑張ったな。ミーシャ」

「もういいの? ヨシュア様。ミーシャまだまだ大丈夫です。ヨシュア様たちが遊んでくれるから」

「無事18時間が過ぎたよ。これで完全に症状が収まれば病魔を克服したと見ていい」


 ミーシャの頭を撫で、優しく微笑む。

 しかしペンギンが、フリッパーを上にあげ待ったをかけた。

 

『ヨシュアくん。せっかくだ。検体を取って検査しよう』

「え? 試薬ができたの?」

『いや、試薬……ではないのだが。説明するより見た方がいいだろう』


 ペンギンがぺたぺたと扉口に向かおうとするが、セコイアが彼を抱えエリーが扉を開けた。

 彼はそのままセコイアに運ばれて行く。おっそいからな、地上でのペンギンは……。

 抱きかかえられても足をぱたぱたさせていたけど、あれは進みたい気持ちを表現しているのかな。真実はペンギンのみぞ知る。

 

『待たせたね』


 セコイアに後ろから抱えられた姿で戻ってきたペンギンが両フリッパーで手の平に収まるくらいの小箱を持ってきた。

 あのサイズだとフリッパーがギリギリみたいで、先端に思いっきり力が入っているようだった。フリッパーがぷるぷる震えているんだもの。

 

「それは?」

『こいつは魔道具さ。簡単な仕組みだから、トーレさんに作ってもらったのだよ。だが、出力が必要だったため、水晶の魔石を使っている』

「へえ」

 

 水晶は通常の魔石に比べ20倍の魔力を溜め込むことができる。高出力の電池みたいなものだ。

 小箱を受け取った俺は、パカンと蓋を開けてみた。

 中は小さな水晶がはめ込まれていて、中央に小さなシャーレが設置してある。

 あ、ピンと来た。


「なるほど。発想の転換か。すごいや、ペンギンさん」

『試薬は難しいため、シャーレを小型化することから始めてみたのだよ』


 俺たちのやり取りに対し、コテンと首をかしげるエリーとポンと手を打つセコイア。


「シャーレでバンコファンガスの胞子を培養する手法は知っての通りだ。この箱は魔石から魔力を出力し、箱の中を一定の魔力密度に保つ魔道具ってわけだ」

『その通り。さっそく、ミーシャくんの口内から検体を採取してくれないかな?』

「よっし。ミーシャ。口をあーんとしてもらえるか?」


 ミーシャは素直に大きく口を開く。

 そこへ、エリーが小さなスプーンを彼女の口に入れ、頬の裏側を擦る。

 

「ヨシュア様」

「ありがとう」

 

 シャーレの蓋を開けてスプーンを擦り付けた。

 そこへセコイアがぽっけから出した小瓶から液体を三滴ほど垂らす。

 

「それは?」

「宗次郎が胞子を見やすくする試薬とか言っていたの」

「いつの間に……綿毛まで育たなくても胞子が分かるのか」

『その通りだよ。ルーペもあるから、これまでより早く結果が分かるだろう』


 ペンギン曰く、二時間以内に胞子が確認できなければミーシャの体内にある胞子は死滅したと断定できるとのことだ。

 先ほどの液体で胞子は薄い赤色に染まるのだと言う。色がついた胞子を見てみたいところだけど、今回は勘弁して欲しい。

 

「よし、今日のところはこれにて解散としよう。俺はもう少し起きているよ。結果が見たいからね」

「ならボクはミーシャの様子を見守っておく」

『私はヨシュアくんと観察をしようかね』

「でしたら、私はみなさんに何か飲み物を持ってまいります」


 セコイア、ペンギン、エリーがそれぞれ自分のすることを述べた。

 ミーシャには寝てもらうことにして、今しばらくの時間が流れる。

 

 ミーシャと彼女の両親の看病はセコイアに任せ、俺とペンギンは小箱の蓋を閉め今か今かと待ち構えていた。

 間もなくエリーが紅茶を持ってやってきて、彼女も交えてリラックスした時間を過ごす。

 ホッとすると眠気が襲ってきてあくびが……。

 

「ふわあ」


 俺のあくびにエリーもつられたようで、可愛らしく口元に両手をやり目から涙がにじんでいた。

 机の上に魔法で針が動く懐中時計と小箱を置き、ついでと言っては何だがペンギンも置物のように机の上に乗っかっている。

 紅茶の入ったカップまであるものだから、ペンギンをどけるか迷う。

 うーん。彼の発案で作られた培養用の小箱だし、特等席で見るのを妨げたくないな。

 よし、彼のことは、そのまま放置で。

 

『ヨシュアくん。そろそろかな。開けてみてくれたまえ』

「おう!」


 そろりと小箱を開け、シャーレの様子を確かめる。


『うん。これなら大丈夫だ。ひとまず、「綿毛病」に対する最低限の対処はできたと見ていいだろう』

「やったな! みんなで知恵と力を出し合い、迅速に対応することができた」


 ペンギンとハイタッチし、続いてエリーへ手を向けた。

 彼女はおずおずと肩口当たりへ手のひらをあげる。そこへ、俺の手を合わせにーっと笑みを浮かべる。

 ぽっと頬を染めた彼女が顔を逸らしてしまった。

 

「やったのじゃな。カガクの力、存分に見せてもらった。不謹慎じゃが、非常に興味深かったの」


 ミーシャの母親から目を離さぬまま、セコイアが嬉しそうな声をあげる。


「少しでも体調に変化が現れた領民は小箱を使って検査をしよう。そのために小箱を量産しなきゃだな」

「うむ。魔力密度測定器も、もう少し数が欲しいところじゃ。一番の難点はスギゴケじゃなあ」

「あれは生ものだからなあ。水につけておくと多少はもつけど」

「薄い魔力で保てるのならば、水の中に魔石でも突っ込んでおけばどうじゃ」

「そのまま突っ込むだけだと難しいんじゃないか。能動的に魔石から魔力を出力させなきゃ」

「それならば、小箱の仕組みを使えばよいじゃろう」

「あ、そうか。うんうん」


 全ての道具・素材について目途がついた。

 あとはパニックにならぬよう、「綿毛病」の流行を収束させれば片が付く。

 

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