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11.巨大なぬめぬめがいた件

 崖の色味はくすんだクリーム色といったところ。少なくとも黒系の色味ではない。

 ペタペタと崖に手を触れてみる。

 ひんやりと冷たい。

 

「触れると何か分かるのでしょうか?」


 エリーも俺の真似をして白磁のように滑らかな肌をした指を伸ばす。


「いや、触れてもよくわからん。こういう時は削るべし」


 ツルハシはさすがに持っていないけど、ノミとトンカチならポーチに入っているのだ。

 カーン、カーン、カーン。

 岩を削る甲高い音が響き、ボロボロと削った岩が地面に落ちていく。

 

 そいつを摘まみ、パラパラと手のひらに落としてみる。


「お、ここなら近くていいな。ほら」


 嬉々として手の平をエリーに向け掲げてみせるが、彼女は困ったように眉尻を下げるばかり。

 あ、そうだな。うん。

 

「ごめんごめん。つい自分だけ興奮してしまった」

「いえ、私が無知なだけです」

「ほら、この砂、よく見てみると一部透明なのが混じっているだろ」

「はい、確かに」

「こいつはガラスの材料になる砂なんだ。川のすぐそばだし、持ち運びもラクチンだぞ」


 この岩肌は石英を多く含んでいる。岩肌が白っぽいのも石英の所以だと思う。


「ヨシュア様! ガラスの元を求め、ここに来られたのですね!」

「いや、ガラスはたまたまだ。本命はこっち」


 腰からつるした麻袋を指さす。

 袋には先ほど採取した砂が入っている。

 

「それは、ガラスとはまた違った砂なのですか?」

「うん。屋敷に戻って調べてみないとだけど、ここらあたりさ、火山噴火か何かで植生が壊滅したんじゃないのかって」

「あり得ます。ドラゴンのブレスなどで焼かれた可能性もございますが」

「そっち……そっちのがありそうだ……」


 この世界が危険溢れる異世界ってことを忘れていたぜ。

 あ、そうなのね。ドラゴンなんかもいるのね。

 そんなのがきたら、どれだけ頑丈な柵を作っていても一発じゃねえか!

 

「ご安心ください。ドラゴンのような強力な魔物は人里には現れません」

「公国では災害級のモンスターになんて遭遇しなかったものな」

「はい! 万が一の時は私があなた様をお守りいたします」

「いや、そこは一緒に逃げようよ」


 背中から冷や汗をダラダラ流しながら、この砂が火山灰であってくれと願う俺であった。

 その時、エリーの目がすううっと細くなりただならぬ雰囲気を醸し出す。

 

「ヨシュア様……」

「え、あ」


 崖を背にして俺を隠すようにエリーが前に出る。

 何かいるのか?

 耳を澄ましてみると、藪がカサリと揺れる音がしたようなそうでないような。

 

「うわあ……あれに危険はないんじゃ……」

「そうですね。早計な判断、誠に失礼いたしました」

 

 出て来た生物を見て変な声が出てしまう。

 大きさだけでいえば、危険生物に分類してもいいかもしれない。

 だけど、動きがトロ過ぎる。ぬめぬめと進むその歩み、俺たちの元までくるのに数分どころじゃ無理かもしれん。

 

 藪から姿を現したのは巨大なカタツムリだったのだ。

 殻の直径が二メートルほどで色が蛍光イエローと、もう何かこう脱力する。

 二本の角がぴょこんと出たお顔も、俺の知るカタツムリそのものであった。

 

「行こうか」

「はい……っつ!」


 進もうとした俺に対し、エリーが右手を横にし押しとどめる。

 

 ペシイイイイン――!

 硬い物を弾くような音がして、巨大カタツムリが横向きに倒れ込んだ。

 相当強い力で叩きつけたのだろう、カタツムリの殻にヒビが入っている。

 そこに立っていたのは……。

 

「ペンギン?」

「愛らしい生物ですね。しかし、力はそれなりに持っていそうです。モンスターでしょうか」


 黒と白のツートンカラー、立派な嘴と水かきをもつ直立したクリクリお目目のペンギンだったのだ!

 体長は1メートルと少しくらいかな。ペンギンとして有り得ないサイズでもなく、却ってそれが不気味だ。

 きっとさっきはあのフリッパー(前脚の翼に当たる部分)で、カタツムリをぺしーんとしたんだろう。


「放置で大丈夫じゃないかな」

「はい」


 何故ならペンギンは俺たちには見向きもせず、カタツムリを捕食し始めたからだ。

 しかし、カタツムリを食べるペンギンか……異世界恐るべしだわ、ほんと。

 

 ◇◇◇

 

 その日の夜。夕食も食べずにセコイアがとって来てくれた小石を布の上に並べ品評会とあいなった。

 どこでもよかったんだけど、場所は邸宅の書斎に決める。

 もちろん、目を輝かせた彼女も俺と同席していることは言うまでもない。

 

「ほ、ほうほう。これは」

「どうじゃ?」

「分からん。何だこの金属」

「知らぬのか。こいつはブルーメタル。こっちはミスリルじゃ」


 知らんわ!

 いや、知らんというのは語弊がある。

 異世界独特の金属を見ても、どんな化学反応をするのか分からんからそれが何かってことが分からない。

 

「これは分かる。鉄だ」


 赤茶けた石を指先でつっつき、セコイアに目を向ける。


「そちらはボクには分からぬな。魔力が込められていないから」

「重さやこの液体に溶けるかどうか、いろいろ見方はある」

「カガクってやつじゃな。それよそれ。摩訶不思議な術理、それこそボクの興味じゃ」


 公爵時代に暇を見つけては試薬や天秤といった実験道具を集めておいたのだ。

 何かに使えると思ってさ。

 ん、まてよ。

 

「セコイア。『鉱物の鑑定』ギフトを持った人とかいないのかな?」

 

 そうだった。この世界にはギフトがある。俺が植物鑑定のギフトを持つようにいろんな鑑定を持つ人だっているはず。

 俺の問いかけに対し、セコイアは当然と言った感じで頷きを返す。


「そら存在するじゃろ。鉄やら青銅ならガラムに聞いてみるとよいんじゃないかの」

「そ、その発想はなかったああ」


 ドワーフの「魔法」ってやつに期待するって手もあったか。よし、ガラムを呼ぼう。

 酔いつぶれていなきゃいいんだけど。

 

 トントン――。

 腰を浮かせた時、部屋の扉を叩く音が耳に届く。

 

「どうぞー」

「お食事をお持ちいたしました」


 猫耳をぴこぴこ揺らし、お盆に料理を載せたアルルがぺこりと頭を下げる。

 

「すまん。アルル。食事はそのテーブルに置いておいてくれ」

「ヨシュア様。どこに? お外は暗いから。ダメです」

「ちょっくら、ガラムを呼んでこようと思ってるだけだよ。すぐに戻る」

「ダメです。わたしが行きます」


 お盆をテーブルに置いたアルルが尻尾をフリフリして再び扉から出て行った。

 

「……休憩もかねて、食べよっか」

「ありがたく」


 手を合わせ、夕食を頂くことにした。

 

「もぐ……ヨシュアの持ち帰ったものはガラスの砂ともう一つはなんじゃ?」

「もしゃ……これから調べようと思ってたところなんだけど、火山灰なら嬉しいなあと」

「ほうほう。見れば分かるものなのかの?」

「ん、調べることはできるけど。ガラムを待とうかなって。ギフトや魔法で見れば分かるならそっちのが確実だ」

「なるほどの」


 もしゃもしゃ、もぐもぐ。

 うめええ。

 ちょうど食事を食べ終えた時、アルルに手を引かれたガラムが姿を現したのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、カタツムリってあれで雑食性で獰猛 人間サイズ以上なら逃げられないと喰われ兼ねんよ?
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