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112.素材探し

 むしむしと鳥の羽をあっというまにむしりとってしまったアルルに少しびっくりする。

 彼女は生活感が無く天真爛漫な少女に見えるのだけど……彼女自身、実際に料理があまり得意ではないと言っていた。サバイバル技術も本人曰くそんなにらしい。

 だけど、少なくとも俺なんかより遥かにサバイバル技術があるし、野外料理も慣れたものなのだ。彼女の得意ではないというのは、主体的に自分で考え実行することなのではないだろうか。

 指示をもらえば忠実にテキパキとこなす力を持っている。


 彼女とバルトロが料理の準備をしてくれている間に、俺は木苺を摘む。

 ついでに周囲に生えている植物のチェックも忘れずに。

 お、このトゲトゲの付いた茎……バラの一種みたいだけど、傷薬になるんだって。

 アロエみたいな薬草と似た感じか。

 こっちの茜色の葉は……食べると超苦いのだとよ。絶対食べないぞ!

 栄養価が全くない代わりに多少魔力の回復を早めるらしい。魔力の動きを変えるものは片っ端から集めたい。こいつも確保だな。


 お、おお。

 木苺の後ろには大木があるのだけど、その後ろ……かさりと何かが動いた気がした。風かなあ。


 気になった俺は木苺の枝をかき分け大木へと向かう。

 そこで後ろから誰かに肩を掴まれた。


「ヨシュア様、ちいとばかし危ないぜ」

「そうなの?」

「こっちから、奥を大賢者の力で見てみな」


 先導してくれるバルトロについていき、大木を大回りして彼の指す方向を見やる。

 一見して大木に緑のつたがぐるぐる巻きついているだけに見えるが……。


 植物鑑定の結果「ツリーピングバイン(蔦寄生型)」という表示名が出た。

 こいつは大木の根に張り付き魔力と養分を吸収する。

 雷獣を発見したところにいたツリーピングバインと同じ種族らしく、近づいた獲物を絡めとり溶かすこともある。

 全く獲物を捕獲できなかったツリーピングバインは成長が止まり、いずれ枯れてしまう。

 俺たちが肉も野菜も食べなきゃ栄養が偏るように、蔦寄生型のツリーピングバインも木から吸い取ることと捕獲することの両方が必要ってことだな、うん。

 

「ツリーピングバインの一種みたいだ。人間も襲うの?」

「……ま、まあ……そうだな……」


 珍しくバルトロの歯切れが悪い。彼はいつもハッキリとした物言いをするのだけど……。

 あ、察してしまった。

 探索慣れしたバルトロや探知能力に優れたアルルなら、まずツリーピングバインに絡めとられることはない。

 一般人でも捕まったとしても力で振りほどけるのかも。だけど、小さな子供や老人だと難しいかもしれん。

 そこに俺も含むってことだ……。

 うん、そらバルトロであってもハッキリと言えないよな。一応、俺は彼の雇い主なわけで。

 

「危なそうだし、近寄らずにしておくか」

「ヨシュア様の目的には合わねえしな。蔦の化け物は。あれは魔力だけじゃなく肉も溶かす」

「……想像したら、ちょっと」

「すまねえ! つい、な」

「いや、バルトロは全然悪くないって。説明してくれてありがとうな」

「ほんとヨシュア様は。っと、その草は使えそうなのか?」

「傷薬とちょびっとだけ魔力を回復できる元になるぞ」

「すげえ。魔力回復は結構値打ちものなんだぜ!」


 気をつかって話題を変えてくれたのかなと思ったけど、どうもバルトロは素でやっているみたいだ。

 彼の興味は雲の動きのように移ろいやすい。

 些細なことでも興味が持てる彼の性格は冒険者に向いているのかな。

 何かあっても引きずらない竹を割ったような性格はとても接しやすい。

 うじうじ悩んでいることが多い俺としては、彼に癒されることも多々ある。


 ◇◇◇

 

 食事をしながら、アルルにも俺が探している植物について伝えたんだ。

 彼女はうーんと顎を上にあげてにーっと笑顔になり言葉を返す。

 

「魔力をちゅーっと吸うんだね!」

「そそ。そんな感じだ」

「だったら、バルトロさんに聞けばいいよ! ヨシュア様、アルルね、ちゅーちゅーするの知ってるよ」

「ん?」

「ヨシュア様とほら穴に行った時ね、コウモリに会ったよ」

「そうだな。うん」


 アルルの手前、はにかんでうんうんと頷きを返しておく。

 ちゅーちゅーから吸血コウモリを想像したのかな。って、アルルが言う洞窟って街の南側の崖下のことだよな。

 あそこに吸血コウモリがいたのかよ……何事もなくてよかった……。

 探しているのは吸血されるのではなく、体内の魔力を減らす何かなんだけどね。

 

 そこへ、香ばしく焼けたもも肉にかじりついていたバルトロが何気ない感じで口を挟む。


「お、ヨシュア様。吸血系は良いんじゃないか。血より魔力を多く吸う奴もいる。小さな吸血生物なら傷も無視できるほどじゃねえか?」

「え?」


 意外なバルトロの言葉に変な声が出てしまった。

 言われてみると、確かに悪くない手かもしれん。

 ある種のヒルは医療用に使うこともあるという。でも、医療用は無菌処理されたものだったはず。

 外で捉えてきた吸血コウモリやらヒルやらを使って……は雑菌が怖くないか?

 いや……そうでもないのか?

 この世界には治療魔法がある。コウモリならアルコールで牙を除菌してから、喰いつかせて即座に治療魔法をかけたらどうだ?

 治療魔法の代わりに傷薬に魔力を加えて作るポーションを使ってもいい。

 領民の中に一人くらいは薬師もいるだろうから、元になる薬草さえあればポーションは製造可能のはず。検証実験が必要になるけど、バッテリーに傷薬をつっこんでみてもいい。

 魔力を含んだ製品を量産できるバッテリー(魔力タンク)は何かと応用が利く。

 

「そんなに珍しくもないから、この辺にもいるんじゃねえか? 公国の奴らと種は違うかもしれねえけど」

「それ、実際に吸わせてみるまで分からないってことかな」

「んー。見ればだいたいわかる。あ、いい手があるぜ。アルルとヨシュア様に並んでもらって、どっちに多く集まるかですぐ分かる」

「確かにそれなら……ん、アルルの魔力密度は……」

「魔力密度ってのはよくわからねえけど、アルルはヨシュア様より内包魔力が大きいぜ」

「そうだな。うん、そうだよな」


 俺の魔力密度は常人の三分の一……ごめん、見栄を張った。四分の一から五分の一しかないのだ。

 まあ、俺と並べば誰だって俺より魔力密度は高くなる。

 血をメインに吸うコウモリなら、俺とアルルどちらにも寄って来るだろう。それとは逆に魔力をメインに吸血するコウモリなら俺の方に殆どこないはずだ。

 魔力が低くても使いようだな。は、ははは……。ち、ちくしょう!

 綿毛病といいコウモリの見分けといい、いい事ばかりのはずなんだけど、なんか釈然としねえ。


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