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「正直、ホテル一泊だしあと民泊だし、特に後半は全然期待してなかったの!」

「うんうん。」

「でもほんと楽しかった! すごい楽しかった! ちゃんと平和学習もしてきたよ!? 真面目に! でもほんと楽しかったの!!」

「はいはい。」

「最後もう号泣だから! 号泣!! 分かる!? 号泣!」

「目に浮かぶようです。」

「帰りたくなあああい! って号泣だよ。まじもうむしろ今すぐ帰りたい。沖縄に。」


 前回の反省を踏まえてなのか、四日間の修学旅行の写真から厳選した十枚を見せてくるナツキは、相変わらず青春真っ盛りだ。

 行く前の班分けでもめそうになった話から始まり、行きの飛行機の中の、まだ沖縄に着いてもいないのに出来上がったテンションの写真や、なんでか知らないが民泊のおじさんの一発ギャグ(動画)まで見せられた。写真を十枚に厳選しても、動画が同じくらいあったら意味ないと思うんだ、ナツキ。

 一番衝撃的な事実は、おじさんの奥さんが私より歳下だったことだ。しかも三人の子持ちだった。まじか。おじさんと奥さんの年齢差は、私が「おじさん」と言ってしまったその人と私の年齢差がこわくて聞けなかった。ほんとに、私が年齢に無頓着なのは、ナツキたちがユリちゃんユリちゃんって友達みたいな扱いしてくれるからです。ありがとう。


 今日はイツキも最初からいるというので、張り切って手土産はシュークリームを買ってきた。決してひいきじゃないよ。イツキは「俺もうシュークリームで喜ぶお年頃じゃないんですけど……」って言ってたけど、言いながらもカスタードとホイップの二択じゃんけんは真剣だった。結局カツキが譲ってた。え、どっちがお兄ちゃん? イツキです。

 関係ないけど、ナツキが買ってきた沖縄のおみやげのお菓子をもぐもぐしているミツキは最高にかわいい。もう一つ関係ないけど、今日のメインおかずのラザニアめっちゃおいしかった。お姉ちゃんが料理上手でとてもうれしい。


 パジャマパーティーでおおいに盛り上がってたり、民泊のとこの子どもたちと遊んでたり、海に向かって「お、」「き、」「な、」「わ、」「せーの!」「おきなわー!」とか漫画かよみたいなことをしてる動画をほぼ全部見せてもらって、最後はなぜか拍手して終わった。


 私もミツキにならって沖縄のおみやげに手を伸ばす。おいしい。

 しばらくみんなでデザートを黙々と食べた後、ふと思い出したようにカツキが口を開いた。


「そう言えば、ユリちゃんは社員旅行どうだった?」

「あ! しまった!! ナツキの話の前にそっち聞こうと思ってたんだった!!!」

「社員旅行なんかあるんだ。どこ行ったの?」

「シンガポール。」

「シンガポール!? なんで!?」

「なかなか不思議だよね。」

「社員旅行人気ランキング八位らしいよ。」

「なんでわざわざ八位をチョイスすんの!?」

「不思議だよねえ。」


 ナツキのツッコミってイツキと同じ遺伝子からかあ、としみじみ思ってたら、「で、どうだった?」とカツキに促される。

 え、ほんとに聞きたい? 三十秒で終わるよ?


「……普通だった。」

「普通!?」

「普通とは!?」

「だってツアーだし。有名どころはだいたいテレビとか写真とかで見たことあるとこだし。ガイドも日本語ペラペラで英語もほとんど話さなかったし。行く人も会社で毎日会うメンツだし。うちの会社制服無いうえに普段からみんなわりと私服自由だし、特別非日常って感じでもなかったから。」

「淡白にも程がある!!!」

「すみません。」

「写真は!? なんかあるでしょ!?」

「あ、ごめん、デジカメでは結構撮ったけど、携帯はご飯の写真しかない。」

「しかもホントに一食一枚!!」

「見事に記録用!!」

「そうそう記録ね。デジカメの写真もだいたいそんな感じになっちゃって、見返したら自分が写ってるの十枚くらいしかなかった。」

「行った意味ねええええ!!!」


 イツキとナツキのツッコミ含めて一分未満でした。お粗末さまでした。

 そんな私の「報告」に、お姉ちゃんもダイスケさんも苦笑している。カツキは苦笑どころか変なものを見るような無表情でこっちを見ている。やめて、ユリちゃん傷つく。


「ユリちゃんどっか行きたいとことか無いの? テンション上がりそうなところとか。ナツキ一緒に行くよ?」

「ほんと? ナツキと一緒ならどこ行っても楽しそうだけど。」

「まじで!? じゃあ沖縄行こう!! ね!?」

「おっ前ユリちゃんに全部出してもらって行こうって計算だろ。」

「ユリちゃん、ナツキのこと甘やかさなくていいからね。」

「分かった。」

「お兄ちゃんたちやめてそういうこと言うの! ナツキだってバイト始めたもん! うちから空港までの電車賃くらいユリちゃんにおごれるもん!!」

「千円しねえじゃねえか。」


 相変わらず、ここんちは平和だ。

 兄二人から畳みかけられてぎゃんぎゃん騒いでいるナツキに笑っていると、机の上に置いていた携帯が震える。ユウコからだ。


『タイムライン見た?』


 なんだろう、と思ってアプリを開くと、新着のタイムラインにフミヤの名前があった。


け、決して引き伸ばすつもりでは……。

お姉ちゃんちに行くとどうしても楽しくなって書いちゃうんだい。


なんかもう、過去編とお姉ちゃんちと別の話の方がよかったんじゃ……とか思ってしまう。

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