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「ユリちゃん聞いてる!?」

「聞いてる聞いてる。なんだっけ、たけやん? に彼女が出来ちゃったのがけっこうショックだったって話でしょ。」

「たけやんじゃないよ! たけもっちゃん!」

「だいたい合ってるじゃん。」


 餃子がみんなのお腹に収まった後も、ナツキのマシンガントークは止まらない。文化祭の話が終わったと思ったら、今度は彼女の周りの方々の恋愛事情を事細かに説明してくれる。

 内緒だよと言うわりに、彼女は声が大きい。テレビの前のソファーに私を連れて来て話すのに夢中になり、ダイニングテーブルでアイスを食べている人たちに半分くらい聞こえていることには、気づいていないらしい。


 学年の中でも上位に入るイケメン先輩が、ナツキの親友と付き合っているとか。

 クラスの委員長が、友達か姉か母親か、恋的な意味ではなくナツキのことが大好きらしく、もはやどうしたら分からないとか。

 部活の後輩が好きな男の子がピュアすぎて、けっこうなアピールに気づいてくれないらしいとか。

 ナツキがキューピッド役をして最近くっつけたふたりが、なぜか三人で出かけようとナツキを誘ってくるとか。

 アイドル的な感じで好きだと思っていた隣のクラスのイケメンに最近彼女ができたらしく、それが意外とショックだったとか。


「もうさぁ、ありえなくない!? なんでだよって感じだよ! なんでこんなナツキはショック受けてんのって話!」

「やっぱちょっといいなって思ってたってことじゃない?」

「そーなのかなー、いや、ほんと! 全然だいじょぶだと思ってたんだよー!」

「そりゃ見りゃ分かるよ。」

「周りはどんどん付き合い始めちゃうしさー、ナツキのこと好きなのなんか委員長だけだよ!?」


 こうなると長いので、カツキもお姉ちゃんも早々に傍観者を決め込んでいる。ダイスケさんはいつもの皿洗い当番で、楽しそうにシンクにかがみこんでいる。ここの家のシステムキッチンはお姉ちゃんのサイズに合わせてあるので、ダイスケさんには不格好なくらい小さいのだ。ちなみに、ミツキはお風呂に入ってすやすや寝てしまった。いいなぁ、私も眠りの世界へ旅立ちたい。

 ナツキは、いつもは空気の読める、思いやりもあって優しいいい子なんだけれども、おしゃべりスイッチが入ると、どうにも止まらない。ただし、何かアドバイスを求めるようなタイプでもないので、聞いていればいいという意味では気が楽だ。


「青春って一回しかないらしいじゃん!?」

「え? うん?」

「どーすんの!? 恋愛のきゅんきゅんしたところ知らないまま大人になっちゃうよ!」

「大人になってからでもあるよ、あるある。」

「適当!? ナツキは恋愛できゅんきゅんしたいのー! 結婚したら毎日ドキドキとかしてられないじゃん!?」

「うわぁ、青いなぁナツキ。」

「なに!?」

「結婚相手にだってきゅんきゅんしてもいいでしょ、別に。そりゃドキドキで死にそうなほどじゃ困るけどさ、別に結婚してもドキドキしてたっていいじゃんって思うよ。」

「……ユリちゃんってさ、彼氏にきゅんきゅんとかしたの?」


 ちょっとバツが悪そうにそう聞かれて、一瞬答えに詰まる。十年前、大学生のころ、私に彼氏がいたというのはこの家の誰もが知っている話だ。彼と別れて以来、誰とも付き合っていないことも。


「きゅんきゅん……? した、と思うけど。」

「なんでそんな微妙な感じなの!?」

「えー、だって、そんなディティールまでよく覚えてないよ。」

「もったいない!!」


 元彼のフミヤは、大学の同級生だった。学部は違ったけど、私の友達とサークルが一緒で、何回か混ぜてもらったサークルの飲み会で知り合って、仲良くなった。


 知り合って付き合うまでが半年。その間、よくなんでもないメールのやりとりをした。向こうが大盛で有名な店のラーメンの写真を送ってきたり、晴れた日に富士山の写真を送ってきたりして、まめなというか、面白いことをする人だなと思った。

 仲良くなるにつれて、共通の友人たちが私の気持ちや周囲の状況を頻繁にチェックしてきて、最終的には彼をプッシュしてくるので、わりと早く彼の気持ちに気づいた。悪い気はしない程度には好印象だったし、そういう、頼んだわけでもないのに協力してくれる友達が多いところも、彼の「いい人」ぶりをよく表していた。


 そう、本当にフミヤは「いい人」だった。

 どのくらいいい人かと言うと、私にはもったいないくらいの「いい人」だった。

 そう言うと、聞いたみんながみんな「じゃあなんで別れたか」を尋ねてくるわけだけれども。


「……本当だよねぇ。」

「ほら! やっぱりユリちゃんもそう思ってるんじゃん! ナツキは絶対きゅんきゅんした恋愛するんだからぁ!!」

「きゅんきゅんするために恋愛するんじゃないでしょ、恋愛した結果きゅんきゅんがついてくるんでしょ。」

「お母さんそれ正しい!! めっちゃ正しい! でもお願い! 恥ずかしいからナツキの恋バナ聞かないで!?」

「あんたの声がでかいんでしょ。」


 何やら私の言葉を勘違いして受け取ったナツキは、お姉ちゃんの正論に撃沈していた。まあ、そうやって、強くなっていくんだよ、姪っ子よ。


 私だって知りたいのだ。あんな「いい人」となぜ別れてしまったのか、その理由を。


需要のために書いてるんじゃない、と私もお姉ちゃんに言い聞かせてもらった気がしたんです。(なんの主張)

なんでまた引っ張ったかって、私だって知りたいんです、とユリちゃんの真似。

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