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「だからね、マジで楽しかったの文化祭! ほんと聞いて?」

「うん、聞いてる。」

「ヤバいんだよ、写真七百枚くらい撮ったもん!」

「マジか……え、二日間だよね?」

「一般公開が二日で、その前に学内だけでやった。」

「あ、そうか。劇メインなんだっけ。当日みんな観らんないもんね。」

「そーなのー! もーちょー楽しかったぁ!!」

「ナツキが順調に高校生しててうれしいよ。」


 もう二週間も前のことだというのに、まるで昨日のことのように大盛り上がりで話す姪っ子は高校二年生、まさに青春真っ盛りだ。とにかくイベントに力を入れる高校に入りたくて偏差値を二桁上げたというだけあって、充実した高校生活を送っているらしい。

 話題になっている文化祭のお知らせは私のところにも届いたのだが、青春っぽいビビッドなチラシに「ユリちゃん来てね! 待ってるよ!」と女子高生らしい丸文字で書かれたお誘い文句がまぶしすぎて、うっかり有休を取るのを忘れた。別にうちの会社はブラックでもなんでもないが、土日に仕事が入ることも多いのだ。ごめん、姪っ子よ。

 その代わりに、こうして月一回お邪魔している夕ご飯の席で、彼女の楽しそうな話を聞くことになっている。


「写真見る? 見たい? てか見て!」

「え、七百枚を? むりむり、だってナツキ絶対一枚一枚解説すんじゃん。更にエピソードもつけんじゃん。終わんのに何時間かかんのよ。」

「短く話す! 短く話すから! マジで! ほんと青春だから!」

「青春の押し売り……!?」


 思わずうめくと、カウンターキッチンから楽しそうに私たちの姿を見ていたお姉ちゃんが吹き出した。同時に、カウンターには焼きたての餃子が並ぶ。お姉ちゃんの餃子大好き。うれしい。


「ユリはさぁ、そういうとこドライだけど結局全力で話聞くよね。ナツキはナツキでユリがドン引きでも全然気にしないし。ほんと見てて面白いよあんたたち。」

「ナツキ、ユリちゃん明日も仕事なんだから、ほどほどにしとけよ。」

「はい出たー! お兄ちゃんのお節介!」

「うるせぇよ。」


 カウンターからテーブルに餃子の皿を運んできてくれた甥っ子に、よくできた子だなぁと感心した。だって、なんにも言われてないのに醤油と酢と胡椒も並べている。性格的にも年齢的にも、カツキはナツキと双子とは思えないくらい落ち着いている。

 そういう、さりげない気遣いができちゃうところ、ほんとカツキはお姉ちゃん似だなぁと思う。ナツキのおしゃべりとかポジティブさとかも、やっぱりお姉ちゃん似だと思うけど。


「じゃあ分かった、七枚ね。七枚まで見てあげる。エピソードとか厳選して。」

「百枚から一枚選べっての!?」

「それ以上あんたの青春エピソード聞いてたら、自分の青春の暗さを思い出して悲しくなってきちゃうもん。」

「自分で言う!? そんなことないよ! ユリちゃんの青春もちょっとくらい青春だったとこあるよ!」

「お前ユリちゃんの青春の何を知ってんだよ。」


 二人とも私が青春してたと思われる頃は保育園児だったんだよなぁと思って、今の自分の歳に愕然とする。

 カツキとナツキが生まれたとき、私は十四歳だった。お姉ちゃんと私もそれくらい離れているから、カツキもナツキも甥っ子姪っ子っていうよりは、年の離れた弟と妹って感じだし、二人がユリちゃんって呼んでくれるから、あんまり私も自分の歳をここで意識するってことはないんだけども。


「おかあさん! ただいま! おなかすいた!」

「ただいまー。」

「おかえりー。」

「おかえりなさい。お邪魔してます。」

「あ! ユリちゃんだぁ!」


 お姉ちゃんの旦那さんのダイスケさんと、私の二人目の姪っ子ミツキが近所の公園から帰ってきた。コンビニに寄り道してきたのか、ダイスケさんの手にはビニール袋がぶら下がっていて、中身を見たお姉ちゃんが満足そうにうなずいていたところを見ると、たぶんアイスを買ってきたんだろうなって感じ。

 ミツキは私の手にあるキャラクターの塗り絵を見てすっ飛んできた。目がキラキラしているところを見ると、ナツキに頼ったリサーチは大当たりだったらしい。


「さ、じゃあ食べようか。」


 お姉ちゃんの音頭で、みんながさっとテーブルにつく。百個はありそうだなぁって感じの、うず高く積まれた餃子が私のお腹を鳴らす。


「いただきまーす。」

「いただきまーす!」


 平和だ。何もかもが平和だ。

 熊さんみたいにおっきいダイスケさんと、風が吹いたら飛ばされそうに細いお姉ちゃんが結婚二十年目を迎えることも。箸をあきらめたミツキが手づかみで餃子を食べようとするのを、まるで父親かって感じでカツキが叱っていることも。ナツキがこれ以上ないってくらい青春していて楽しそうなことも。そんな幸せな家庭に、私がなんの違和感もなく入れてもらって、一緒にごはんを食べていることも。


 アラサー・独身・彼氏なしの三拍子がどうした。私は別に不幸じゃない。


 でも、ときどき、お姉ちゃんの餃子より断然まずかったのに忘れられない、あの夏祭りのときの屋台の餃子をいまだに思い出すのはなんでなんだろうなって、とても不思議だ。


供養供養と言い聞かせて、またも玉砕する予感しかない

ちなみにお姉ちゃんの名前はツバキだよ(どうでもいい)

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